第48回「日本の貿易の現状と課題」(教科書該当ページ『新詳地理B改訂版』帝国書院p.245)

今回のポイント

製造業の終焉による貿易赤字国への転落と日中経済摩擦の争点について理解する

1.日本の貿易の特色

(1)貿易の変化
  • a.戦前の貿易
    • ・繊維原料や、機械類などの生産財を輸入し、生糸や綿製品などの軽工業品を輸出。
    • ・輸出品は労働集約的な商品が中心。
  • b.高度成長期(1955〜1973)
    • ・1950年代後半以降、❶豊富で良質な労働力、❷固定相場制(1?=360円)、❸安価な資源(安価な石油)により高度経済成長を迎え、重化学工業化が進む。
    • ・鉄鋼、自動車などの重厚長大の産業で輸出。
  • c.安定成長期(1973〜1991)
    • ・ドル危機による変動相場制の導入、石油危機による重化学工業への打撃により産業構造の転換。
    • ・ハイテク産業、知識集約型産業、情報産業など「軽薄短小」の産業で輸出。 
  • d.失われた20年(1991〜現在)
    • ❶カネ余りが土地投機へ⇒実体経済が伴わずバブル崩壊(不良債権問題)⇒新自由主義経済⇒失われた20年
    • ❷製造業の終焉
      • ・国内製造業の海外移転・・・安価な労働力、原料確保のため、東南アジア・中南米へ進出貿易摩擦を緩和するために、先進国本国で現地生産
      • ・産業の空洞化・・・産業構造が高度化し、日本の産業はサービス産業に移行。新時代の日本的経営により、日本の労働者は経済エリート、高度専門職、低賃金単純労働者へ分化。年功序列賃金&終身雇用は崩壊。
    • ❸最終製品の輸入が増加。日本の輸出は、高付加価値製品が中心に。
    • 貿易赤字国へ…2011年、東日本大震災と中国の反日政策により貿易収支が赤字へ転落。
(2)貿易相手国の変化 (参考文献:日本貿易会 http://www.jftc.or.jp/kids/index.html)
  • 1:輸出相手国の上位は、経済成長が著しいアジア諸国が多くを占め、中国が2009年よりアメリカを抜いてトップになっている。
  • 2:輸入相手国では、2002年にアメリカから中国にトップの座が変化。このころ、製品の国際価格競争力を高めるために、日本の企業が労    働賃金の安い中国に工場を建てて現地で製造し、日本に輸入するという新しい経済・貿易の体制ができてきた。
  • 3:輸入相手国の3位以下は、それまでアジアの国々の順位が高かったが、2005年を境に中近東の国々やオーストラリアなどの資源やエネ    ルギーを産出・輸出する国々が、資源・エネルギー価格上昇にともない上位になっている。

2.貿易をめぐる諸問題

(1)資源の海外依存
  • 国内資源に乏しいため、工業原料はほぼ輸入に依存。
  • 食料輸入も増加中
    • 魚介類、肉類、野菜、果実、小麦、大豆などの他に、飼料用トウモロコシ、大麦などを大量輸入。
(2)海外の資源開発
  • 資源確保のために、総合商社などの日本資本が海外に投資。
  • 日本の資本投資が、途上国の経済発展に結びつかないと批判されている。
(3)貿易摩擦
  • b.経済摩擦…建設・金融・流通分野に摩擦が拡大。日本的経営・慣行に反発。
    • ⇒日米貿易摩擦アメリカでスーパー301条が適用され日本製品の輸入制限。
    • ⇒日米構造協議(1989〜90):日米間の貿易不均衡の原因である、両国経済の障壁を解明し、貿易市場の解放を目指す。
    • ⇒日米包括経済協議(1993〜2001):産業分野での交渉、市場開放の数値目標を要求。
  • c.貿易摩擦の新しい展開
    • ・日本初のセーフガード(緊急輸入制限)
    • ・2001年4月、ネギ、生シイタケ、畳表の輸入農産物3品目の関税を引き上げる暫定セーフガードを発動。
      • →中国は猛反発し、日本の輸出製品に高額の関税をかけ、対抗措置をとった。
      • →結局、日中が協議し、❶日本が確定セーフガードを発動しない、❷中国も対抗措置をやめる、❸貿易量抑制に向けた協議機関を作る、という3点で合意した。
    • 日中貿易摩擦新興国中国に対し、日本・EUアメリカ・その他アジア諸国では対中貿易摩擦が発生。
      • ❶ローカルコンテント(現地の部品・原料の使用)を要求してくる。→差別的な取り扱いはWTO違反。
      • ❷模倣品・海賊品などの不公正商品→ゲーム、マンガ、ドラマなどのDVDなど
      • ❸アンチタイピング措置(国内での価格より輸出価格の方が安い商品への対抗措置)の恣意的な運用→アジア諸国などの途上国からの輸入を規制。
      • ❹過剰な有毒化学製品など→毒入りギョーザ事件、安全性を欠いた農産物、医薬品など