雑録

小さな彼女の小夜曲(体験版)の感想・レビュー

『小さな彼女の小夜曲』の体験版は「夏休みの喫茶店モノ」。
物語全体の目的はなく、キャラデザが可愛い女の子との情交を描くキャラゲ風味です。
類似品としては『なでしこドリップ』や『ラブラブル』が挙げられます。
テーマである「人魚伝説」がどのように描かれるかに、シナリオの是非が問われそうです。
そして秋にやる夏ゲー!!fengの作品をやるのは『そらおか』以来だったり。

体験版の流れと各ヒロインの雑感

  • 体験版の流れ

主人公くんの人物設定としては、喫茶店の実家で手伝いに精を出しながら、学生生活を送る青年として描かれています。客商売をしていることもあり、なかなかの面倒見の良さを誇ります。良い感じ。体験版では各ヒロインの顔見せと夏休みに至るまでの経緯が描かれていきます。そして、「夏休みにどんなことが起こるのでしょうか?」と幕引きでエンドです。物語に明確な目的が与えられないまま体験版が終わり、複数シナリオライターということで、キャラゲー風味が強いでしょう。物語の背景にある「人魚伝説」をどのように扱うことができるかで、シナリオの面白さが変わってくるかと思います。各ヒロインにはそれぞれに内在している問題があり、その個別具体的な事柄から見えてくる人間性もあります。では、そんなキャラクターは一体どのようなものでしょうか。

  • 炉利系+母子関係性問題+人魚伝説=片貝汐音(かたがい しおね)
    • 本作のメインヒロインで炉利枠担当。抱えている問題は母子問題です。汐音ちんは、主人公くんたちの街の「人魚伝説」に魅せられてやってきます。汐音ちんは全寮制の学校に通っていたのですが、転校することになり、その際に「微妙である母子関係を改善したい」とのこと。汐音ちん自身はママンのことが大好きらしいのですが、関係はギクシャクし続けていると悩みを打ち明けてくれます。あー、母子問題ねー。「優秀なママンを持つ娘のコンプレックス」はましろ色シンフォニーでやったなぁ。親子関係の問題はそれこそ人間が子孫を残して社会を形成することになった時からの永遠のテーマで、古代の頃から語り続けられていますが、現実でプレイヤァが作品をプレイしている時には親子問題は解決されないのに、物語の中ではストーリーの関係上どうしても「和解」せざるを得ないので、やっていてビミョーな気分になるんですよね。さて、汐音ちんは転校することになっていたのですが、主人公くんたちの学園にやってくることになりました。「大好きという気持ちはどうやって伝えることができのでしょうか」と、母親への愛情表現の手段を学ぶことを目的としている汐音ちん。そんな彼女は自分の特技である「歌」によってその想いを伝えようとしています。そのためにも「人魚伝説」を解き明かす必要があるので、主人公くんたちと活動を始めるのでした。


  • 哲学系インテリゲンツィア+民俗学+封建遺制の令嬢=本須和茉莉(もとすわ まつり)
    • もってまわった言い回しをする哲学系インテリゲンツィア枠担当なのが茉莉さん。主人公くんたちの街には民俗学的な人魚伝説の伝承に興味を抱いたのでやってきます。主人公くんたちの郷土に伝わる民話は、人魚を崇める信仰なのではなく、一人の少女のメタファーとして扱われているのではないかと興味を抱いたようです。そして、一人の少女の情交がなぜ人魚信仰として変化したことを解明させたい!と転校してきます。なぜ、茉莉さんは人魚伝説に拘るのでしょうか。その背景の端々に描かれるのが、茉莉さんは家制度に縛られる封建的なお嬢様であるということ。自らを慰めるために民俗学に興じているのか、人魚伝説を自分に見立てて解明することで束縛からの解放を求めるのか、あるいはその両方か。飄々とした感じの哲学系インテリゲンツィアは、苦悩を心情吐露するところが結構な見せ場なので、どうなるのかに期待したいです。


  • 幼馴染み関係性変化+子犬系+地方議員の娘=守谷水夏(もりや みずか)
    • 子犬系幼馴染みの同級生。ツーと言えばカーな存在で、主人公くんとは旧知の仲。主人公くんとの悪友系ヒロインは地雷となる傾向が強いのですが、子犬系なので頑張って欲しいところ。幼馴染みといえば「関係性変化」を上手く描けるかにシナリオの質がかかっているのですが、水夏さん攻略の要素として挙げられているのが「地方議員の娘」であることでしょう。「小さい頃から長くいたので、恋とは気づかない感情を愛情に昇華できるか」という命題を「どのようなイベント」を通して描いてくれるのかがライターの腕の見せ所だと思います。体験版でグッとくる描写は、恒例のお風呂イベント。「幼馴染みだから異性であることを意識せずに、裸体を見せることに恥じらいを感じない」ということを表現することに使われ、主人公くんがドギマギしつつも父性として接しようという所に面白みがあるという展開。ですがここで、主人公くんママンが水夏ママンに電話をすると、策略に基づいていたことが判明!風呂が壊れたので入りに来たと述べる水夏さんでしたが、実は壊れてないじゃん。・・・ということで、最近主人公くんの周りに女が集まり始めたことに対する危機意識的なものが感じ取れて、関係性変化を求めだしたところが体験版で表現されて本編に突入していきます。


  • 生真面目系先輩+部活対立+自意識過剰=白里楓(しらさと かえで)
    • 主人公くんに好意を抱いているものの厳しい態度で接してしまう生真面目先輩枠担当(俗に言う委員長ツンデレ)。かつては主人公くんともフランクリィに接していたとのことですが、生真面目な先輩は主人公くんたち一味が許せないのです。それは「自分の否定」に繋がるから。優秀であらんと努力を重ねる人間は、自分が結果を残して認められることが自己の存在証明となります。ですが、主人公くんたちは生きることにたいした努力もせずに和気藹々と楽しそうに日常を甘受しています(そのようにヒロインには見えてしまいます)。これが複雑な心情が芽生える契機となるのです。そして自分を否定する存在である主人公くんに負けたことから、強烈に意識するようになってしまうのですね。ストイックに努力を重ねる人間が成果を残しているうちは良いでしょう。周囲がどうであろうとも優越感が全てを解決してくれますから。ですがそれは脆さを孕んでいることを知れ!!結果を残せなければ、なぜ努力している自分が真っ当な評価を得られないのかとルサンチマンをつのらせることになるからですね。上記のような理由で主人公くんとうまく接することができない不器用な先輩を見て、我らが主人公くんは先輩の性格を解きほぐしてあげたいと思うところからストーリーはスタートします。


  • 姉妹コンプレックス+中二病徒+へっぽこ後輩=白里花梨(しらさと かりん)
    • 中二病でも恋したい』がブームになったので量産されたであろう中二病徒担当枠ヒロイン。中二病をメタ的に扱うことで、「如何にして少女は中二病徒になりしか」を描きだすことができる、という表現方法を採っています。中二病後輩が抱える問題は、優秀な姉に対する強烈なコンプレックスでした。常に比較され、姉も優秀なら妹も優秀であると勝手にレッテルを貼られて、期待に応えることが出来ないとがっかりした表情を浮かべて去る人々・・・。「兄弟が優秀だと劣等意識を持つ」というパターンですね。普通に生きているだけで精神を削られていった少女は中二病に生きる糧を見出します。ですが、中二病は恥ずべきことだとも自覚しており、入学してから親しい友人もできず、ノートに中二小説を書いて鬱屈とした時間を紛らわす日々を送っていたのです。主人公くんはそんな少女の中二小説をうっかり読んでしまったことから関係性がスタートします。第三者に自分ノ汚点を晒してしまった少女は、自分の生きる糧でもある自作の中二小説をプールに投げ捨てます。主人公くんはそれをずぶ濡れになって拾い、中二病徒ヒロインを肯定してあげるのでした。劣等意識の強い少女が自己肯定すれば、もうフラグは成立さ。主人公くんはその面倒見の良さを生かして、成績不振の少女に勉強を教えたり、バイトをさせることで社会経験をさせたりと後進の育成に余念がありません。物語のテーマ性ですが、中二病徒シナリオは、恥ずべきものとしての対象である「中二病」を肯定してあげることからフラグが成立するのですが、少女が抱える問題点を解決するには「中二病」から解放させなければならないというアンビバレンツを孕んでいることなので、それをどう処理するかで、面白さが変わってくると思います。