キミへ贈る、ソラの花の感想・レビュー

御厨みくり先生の死生観シリーズ。死者と生者の交流を描いた学園モノ。
生きる事が無目的になっている主人公くんが死者との交流を通じて人生の意味を考えていく。
人間は必ず死ぬからこそ、その死を見つめながら生きねばならない。
死霊ヒロインたちが安易に復活せず成仏して消滅するのがビターエンドで良い。
死生観を描く作品として「まつり成仏エンド」はなかなかのシナリオでした。

各個別感想

  • 北尾雪花
    • いじめにより自殺した少女の死霊のはなし。生前の記憶が薄いため人見知りが激しく周囲に交わることができない雪花をフォローしてあげればフラグは成立さ。雪花は主人公くんと共にコミュ力アップを目指して頑張っていきます。しかしながら雪花は好感度蓄積とともに生前の記憶を取り戻していきヤンデレ化してしまうのです。直接の契機となるのがおみくじ占い。このおみくじにおいて対人関係が「難」とでたことで、いじめを受けていたことを思い出します。雪花は次第にセカイ系の思想に嵌るようになってしまいます。自分と主人公くんだけがいればそれで良いよねという考えに陥るのです。ヤンデレ化した雪花は思念体世界創造を行い、自分がいじめをうけていた前世をモチーフにした空間を作り出します。そこで主人公くんにイジメ問題を追体験させながら、ヒロインへの憐憫を誘わせます。こうして雪花は主人公くんを閉鎖空間に捉えてしまうのでした。ここで主人公くんが主体的な意志を示せば現世に舞い戻ることができます。自分がなぜ死んだのか分からなかった地縛霊雪花ちゃんにいじめによって自殺したことを受け入れさせましょう。全てを悟った雪花はもういちど立ち上がる決意を示します。今度は恐れずクラスメイトとの良好な関係を構築できるよう努力していくのです。最終的に雪花は主人公くんたちメンバーと交流できるようになります。こうしてイジメ自殺という未練を抱えていた雪花は、平穏な学校生活により満たされ、成仏して消えていったのでした・・・。


  • 西園奏菜
    • 大好きだった親族が死んだことに囚われる少女のはなし。奏菜は明るく大食漢で友達思いの女の子であり、霊視ができる自己の存在理由を求め続けていました。そのため自分のできることから始めたいと地域のお祭りを手伝うことになり、主人公くんと一緒に頑張っていきます。祭りは成功するのでしたが、これは死者を鎮魂する祭祀でもあったので、顔見知りであった霊が還されてしまいます。この霊との別離を契機に奏菜は精神崩壊していくのでした。そんな奏菜を支えてあげればフラグは成立さ。徐々に立ち直ってきた奏菜でしたが、そこへ大叔母死去のお知らせ。ゴールデンウィーク中、奏菜は主人公くんと乳繰りあっていたため実家に帰らず、そのことが深い悔恨となってしまうのです。ガンディーも父親が危篤の時に性交をしていたため、死に目に会えなかったそうな。そして大叔母の死は奏菜に再び精神的ダメージを与えていきます。
    • 奏菜は幼少の頃から霊視ができたのですが、自己の存在理由について思い悩むことがしばしばありました。それはどうでもいい霊はみることができるのに、自分が大好きだった人たちの霊をみることが出来ないことに起因していました。奏菜の一族は親戚が多く可愛がって貰っていましたが、その分死による別離も多く経験してきました。お盆の時に祖先崇拝により、死者の霊がナスやキュウリの馬に乗って帰ってくる!ということを信じていましたが、やっぱり会えるわけもなかったというエピソードは結構考えさせられます。
    • 最終的に精神崩壊した奏菜にどのような接し方をするかでシナリオは分岐します。奏菜を助けるために思考停止させてしまうと一時的に奏菜は復活するのですが誰にも心を打ち明けなくなり、ある日ぷっつりと蒸発してしまいます。この終わり方も結構好き。そして奏菜を助けずに現実と向き合うように支援するとtrueエンドとなり、霊視の能力を持つ自分に存在意義を見出していくことになります。奏菜は自分が霊や霊視の能力を持つ人々の居場所となりたい!と決意します。数年後、主人公くんは奏菜を支え、霊死者たちが交流が出来る喫茶店をはじめ、居場所づくりを実現するのでした。


  • 中條杏
    • 義妹関係性変化を通して主人公くんの過去を描くはなし。霊視能力のある主人公くんはその異能を周囲に公言することなく秘密にして生きてきました。家族にすら隠してきたわけですが、幼少期において義妹にだけはそのことを伝えていました。ではなぜ主人公くんはそのことを忘れてしまい、義妹に霊視がばれていないと思っているのでしょうか?それには過去において主人公くんが霊に殺されかけた事件が関係していました。主人公くんの義妹は両親を亡くして主人公くんの家にひきとられたわけですが、その時の性格は今と異なり明るく活発だったのです。主人公くんは義妹ができたことを喜び霊視能力をばらし公園の生き霊と3人で仲良くしていたのですが、ある日のこと、その公園の霊に走行してくるトラックに突き飛ばされてしまったのです。以来、主人公くんは霊視を自分の禁忌として抑圧し、霊との関わりを一切断ち切ったので、過去の記憶も封じてしまったのです。また義妹は主人公くんがいなくなってしまうことを恐れてべったりになり、愛する1人の男として意識しだしたのでした。
    • 義妹との関係性が変化するのは主人公くんが霊能力関係の学校に入ったことがきっかけでした。表向きには家族にすら霊能力養成学校ということは伏せられフツーの学校とされていたので、それが義妹にばれたときには問題が生じました。2人はすれ違い連絡もとれない日々が続いたのですが、先に折れたのは義妹の方であり、兄がいないと日常生活が手につかないと泣いて甘えるのでした。こうしてフラグが成立します。その後主人公くんが再び地縛霊により死にかけたことを契機に封じられた過去が解放され、義妹と本当の意味で絆を結び直します。霊視を受け入れた主人公くんは現実にも折り合いをつけ、最後は結婚エンドで幕を閉じます。


  • 南須原雛菊
    • 高飛車系孤高ぼっち。自分より身分の高い気位の強いおんなに主人公くんが取り入ろうとしてなじられる場面は複雑な思いになるな!また相手の方が好感度が高くなり主人公くんに好意を示そうと屈服してくるところもまた複雑な思いになるな!そんな強気系キャラな南須原さんですが、孤高ぼっちになった過去のトラウマの解消がフラグ構築のためのメインとなります。霊能力があるため周囲から疎んじられた南須原さんがそれを跳ね返し自己の尊厳を保つためには、自己の能力を示すことで優越感に浸るしかなかったのです。なんという中二病!私の高校時代にそっくりで吐き気がするぜ。そんな南須原さんの心情吐露をご覧ください。

ずっとね。周りが怖かったの。気味が悪いって、周りからずっと言われ続けてた。私、それがずっと辛かったの。辛くて……、自分から壁を作って……。自分の力だけで、手に入れるものはなんでも手に入れた。地位も、名誉も、仕事も……、容姿すらも……。誰にも、何にでも劣りたくなかった。見下されたくなかった。何を言われても構わない。私だって、あの人達のことなんかなんとも思ってないって……。私の方が、絶対的に優れてるって、そう思えればそれで良かった。だから、自分で距離を置いてた。だって……、私なんかと友達になってくれる人なんて、いるわけないじゃない……

    • 南須原さんルートで好感度が上昇していくと、ポルターガイストで南須原さんが資料室に閉じ込められる事件が発生。その際に、幻聴効果が追加補正され、南須原さんのトラウマを刺激します!!南須原さんは孤高ぼっちを気取っていたものの自分に対する誹謗中傷を完全にシャットアウトすることはできなかったのです。また「自分と関係のない人からの中傷」には慣れていたものの、自分が心を許した人たちからの陰口には耐えられませんでした。霊能力による幻聴だとしても主人公くんの声で断罪された時には精神崩壊しかけてしまうのでした。そんな発狂しかける南須原さんを資料室に迎えに行ってあげましょう。拒絶する南須原さんの心の弱い部分を理解してあげることでフラグは成立します。フラグ構築後はオマケみたいなものですが、料理が作れないのに作れると言い張り、結局イモウトを召還して作ってもらう場面で「パスタ+煮物」。この煮物は南須原さんが叔母に自分の居場所を探して良いんだよとアドバイスしてもらえたことを吐露するきっかけとなっており、その居場所こそが主人公くんだったんだというオチに繋がります。
    • ちなみにバッドエンドだと攻略ヒロインのうちの1人である生き霊の雪花さんが悪霊化し、南須原さんを呪い殺そうとするヤンデレ展開に陥ります。南須原さんは何とか撃退するのですが、強制的に浄化させる結果となり、霊との和解を諦めて学園を去っていきます。

  • 東瀬まつり
    • 死生観について考えさせるおはなし。東瀬まつりはテンションが高くムードメーカー的な死霊。しかし深いところでは色々と考えており、空気を読みまくります。例えばまつりは、死霊である自分が町中で主人公くんと話すと、主人公くんが周囲から忌避されることをよく分かっているわけです。そんなまつりに対して主人公くんは「普通の在り方」を望んだりもするのですが、まつりから霊である自分を受け入れていることを告げられるシーンは結構グッときます。そんなまつりとフラグを構築する契機となるのは「肉体への渇望」です。ある時まつりは人間に憑依するのですが、その際に肉体があることの素晴らしさを知ってしまうのです。まつりは肉体を持つことに固執していきます。この時まつりを止められなければバッドエンド直行フラグまっしぐら。逆にまつりを説得できればフラグが成立します。
    • フラグ構築後、2人の前に立ちはだかるのは人間と霊という越えられない壁。霊であることに気後れするまつりにアドバイスするしてくれるのはサブキャラ幽霊のうちの一人由梨さんでした。しかしこの由梨さんこそ、まつりの生前時においても友達だったのです。ここからまつり生前編が始まります。まつりはホスピスであり余命幾ばくもなく死を待ちながら生きていました。死んでしまうことを諦めていたまつりでしたが、そこで祖父を見舞いに来ていた幼少期の主人公くんと出会います。まつりは自分が生きていた証を残したいと思うようになり主人公くんとに色々と教え込んでいきます。しかしながら「死」とは何かを理解できない幼い子どもにとって、まつりとの別離もまた理解できないものでした。こうしてまつりは「死にたくない」、「わかれを悲しんで欲しい」との未練を抱えたまま死んでいくのでした。
    • そんなまつりに対して別れが悲しいと思ってしまうと成仏エンドとなります。主人公くんがまつりと別れたくないと思えば思うほど、まつりに「死にたくなかったんだなぁ」と認めさせることになってしまうのです。生前に「死にたくない」と認められなかったが故に幽霊となり、今度は別れを悲しんで貰えて死にたくなかったと認めることができたからこそ満たされて成仏してしまうという矛盾。哀愁を誘います。こうしてまつりは主人公くんの涙に送られて消えていくのでした。ちなみに二人で生きていくエンドもあるのですが、成仏してビターエンドでしんみりする方が正史なんでしょうねぇ。全ヒロインをクリアすると「由梨さんの百合シナリオ」と「学園創設の背景と親子愛シナリオ」を読むことが出来ます。