新島夕ほか『恋×シンアイ彼女』【体験版】(Us:track) の感想・レビュー

ゼロ年代初頭のラノベのような陰鬱系主人公くんが恋愛について愚図愚図と悩むはなし。
好いていた少女からの裏切り・幼馴染み三角関係・読まれなかったラブレター。
キャラは違えどシナリオ構造は『見上げてごらん、夜空の星を』と被っとるやん!!同工異曲。
シナリオの合間に挟まれるファンタジーパートと郷土史&伝承モノでどこまで差異化がはかれるか。
また生徒会再選挙先輩&後輩√では陰鬱系主人公くんはどこかへ吹っ飛び雰囲気がまた違って来る。
選択肢が煩雑でテンポが悪く、ぐちぐちとした描写が多いので、最初は投げたくなる。
OP後にファンタジーパートが挿入されると面白くなり始めるのでそれまで耐えるんだ!!
体験版では廃部を回避した映画撮影イベントがカットされてるんですが本編ではやるんですかね?

二人の幼馴染みと二つのラブレターをめぐる問題


  • 主人公くんの人物像と幼馴染みA(姫野さん)の関係
    • 主人公くんは小説を書く文学系志望の無気力系陰鬱男子。過去のトラウマに囚われ続け恋愛に関する拒絶反応があった。主人公くんのトラウマとは「好いていた少女にラブレターを渡したのにスルーされてしまった」こと。当時の主人公くんはすかした孤高を気取る俺様キャラであり、親しくしていた少女にまさか無反応な対応を取られるとは思ってもみなかったのである。当時主人公くんは神童と呼ばれており文才に溢れ、熱心に恋文を書き上げた。なのに無反応である。そのことは調子こいてた幼い主人公くんに衝撃を与えるのに充分な要因であり精神的な軛となったのである。以来主人公くんは斜に構えて過ごすようになり陰鬱系キャラとして成長していくのだった。そんな主人公くんの転機となるのが、レブレタースルーガール姫野星奏さんとの再会。再会してどうしても気分が昂揚してしまう主人公くんが、アレコレ舞い上がったり、自戒したりするシーンは愚図愚図系主人公くんのキャラクター表現として良く描けていると思う。またこの時点での主人公くんの視点は姫野さんを警戒視しているため、彼女の人物像が計算天然腹黒ガールのようにしか見えない。体験版の姫野さんルートでは小学校時代における主人公くんと姫野さんの心の交流がメインとなる。なぜ主人公くんのラブレターを姫野さんがスルーしたのだろうか!?という所で終わり、本編個別での原動力となることが匂わされている。



  • ラブレターに関する二つの事件
    • 主人公くんに影響を与える中学時代の同級生が幼馴染みBこと新堂彩音。主人公くんはラブレタースルー事件によるトラウマで陰鬱になっていたが、彼をして徐々に小説の方向へむかわしめたのが幼馴染みBである。彩音は中学時代はそこらへんに良くいる「センセー男子が掃除しません!」なキャラであった。合唱コンクールの際もリーダーシップをとった挙げ句一人で空回りした結果集団を操ることができず自滅して瓦解。歌ってない生徒にただ歌えと言ってもそりゃまぁ歌うわけねーわな。もっと懐柔したりおだてたりして切り崩さないと。そんなわけで一人ブランコで涙している彩音をほっとけなかった主人公くんは、会話を試みる。この会話を通して彩音の人物像が掘り下げられるのだ。これを契機に二人は心の交流を重ねていき、彩音は主人公くんに夢を語る。私が服飾の専門に進むから、貴方は小説の専門に進んでと。しかし主人公くんの心に突き刺さるのは姫野星奏のトラウマ。途中で怖くなってびびった主人公くんは彩音を裏切り普通科へと進む。それでも主人公くんを愛する綾音は、卒業アルバムに恋文を挟み込むのだが・・・主人公くんは卒アルなど読まないのだった!!同感。私は卒アル捨てた口だわー。学校生活など思い出したくもない黒歴史
    • 高2になり彩音や姫野さんと再会した主人公くんはようやく卒アルを見返すのだが、ここで彩音のラブレターが発見される。再会後の彩音が妙にぎこちなかったのはこのせい。主人公くんは彩音の告白を華麗にスルーしていたのだ。姫野さんに告白をスルーされた主人公くんが彩音の告白をスルーしていたという展開だ。主人公くんは過去の束縛を解き放ち現在と向き合うため、姫野さんと彩音にラブレターの件について手紙を書く。しかしまさかのお手紙シャッフル。姫野さんには彩音への、彩音には姫野さんへの手紙が渡されるのだ。姫野さんには彩音が主人公くんに告白したことが暴露され、彩音には姫野さんのことを想う主人公くんの気持ちが伝わってしまうのだ。彩音は勇気を出して今でも主人公くんのことを想っていると再告白。主人公くんはこの告白にすら応えずスルーして日常に回帰しようとしてしまったため、彩音から側に居られるのが辛いと告げられ彩音√の体験版はエンドになる。

生徒会再選挙をめぐる先輩と後輩のはなし


  • 完璧系生徒会長が自己の存在理由について悩むはなし
    • 生徒会長四條凛花は部活の統廃合に関する問題で一部の生徒の不満を買い再選挙を要求されてしまう。明確な目標もなく大衆的無党派層のぼんやりとした支持で生徒会長に就任していた凛花は自己の存在理由を問われることになったのである。凛花に挑戦するグループは、国の耐震基準を満たしていない旧部室棟の立て替えと花壇を潰して部室棟を増設することを求めていた。具体的な要求があり、支持基盤が明確なグループの方が強い。具体的なモノを何も持たない凛花は劣勢に立たされていく。クールでサクサクと物事を処理してきた凛花が崩されていく姿を支えることが主人公くんの命題。凛花を揺るがすのは対抗勢力で選挙のライバルとなる如月奈津子さん。如月さんは、これまで無意識に生徒会長として過ごしてきた凛花の問題点を指摘していく。こうして凛花は自分がなぜ生徒会長に拘るのかを自問自答していくことで、自分の内面やその存在の在り方について見つめ直していくことになる。凛花は問題を乗り越え生徒会再選挙に勝てるのであろうかという所で体験版はお開き。「選挙」という民主主義の機能にも少し触れており、もう少し深まるかどうかで面白さが増すかも。ヘーゲル「国家の最高官吏たちの方が、国家のもろもろの機構や要求の本性に関して深くて包括的な洞察を必然的に具えているとともに、この職務についてのいっそうすぐれた技能と習慣を必然的に具えており、議会があっても絶えず最善のことをなすに違いないけれども、議会無しでも最善のことをなすことができる」(『法権利の哲学』)。凛花先輩のワンマンプレイが批判されるわけだけれども、どう切り返せるかが本編での楽しみ。



  • 花壇を守るために後輩と署名活動
    • 後輩小鞠ゆい√では凛花先輩があっさり再選挙に負けてしまう。花壇は取り壊されることになり、それに人一倍思い入れのあるゆいはショックを受ける。体験版ではゆいが花壇に対してなぜ拘るのかが語られる。ゆいは母親を亡くしていたのだが、その花壇を創設したのが、かつて栽培部部員であった母親だったというわけさ。取り壊される花壇に諦念を抱くゆいだが、それを支えるのが主人公くんの務め→署名活動を展開することを提案する。ゆいはそれを喜び、例え結論が覆らなかったとしても自分に出来ることは全てをやっておきたいと立ち上がるのだ。極めて個人的な事情であり、対抗勢力からも花壇など誰も見ていないと批判されるゆい達だが、本当に花壇がいらないかどうかを確かめるための署名だと反論して活動の許可を得る。あれやな、「役に立たないものは要らない厨」に対する反論。「国家の為には直接役には立たないが、国家を守るための価値ある存在にするために役立つ」展開。ゆいと主人公くんは署名活動を通してフラグを構築していく。過去に主人公くんはゆいが好感度マックスとなるようなことをしているらしいのだが、体験版では語られず。本編を待て。