火事のトラウマと主人公の右手の自由を奪った罪の意識から目を背けた少女が過去と向き合うはなし。
副題のオランピアはホフマン物語出典→機械人形の意。火事で亡くした母親を人形に見出したことから。
OPで稟と対照に提示される少女「吹」は稟の母親の死霊。
千年桜の伝承で復活し稟を導きながら過去を解き明かす鍵になるというわけさ。
シナリオに緩急をつけるため稟を精神崩壊させる当て馬キャラを登場させ物語の原動力とさせている。
最後は主人公くんが稟の自殺未遂を防ぎ「俺のために生きろ」エンドで稟を救済する。
御桜稟のキャラクター表現とフラグ生成過程
- 主人公くんに嫌われているのではないかという御桜稟の葛藤
- 御桜稟は完璧超人系幼なじみ枠で最初から好感度MAXな女の子(自称としては「めんどくさい女」)。幼少期に共に過ごした主人公くんへの想いは思慕をつのらせ、稟に帰郷を促します。しかし主人公くんは転校先から送られた稟の手紙を全てスルーしており、転校後も一定以上稟との関係を構築することを避けていました。主人公くんの態度に稟は複雑な感情を抱き、あくまでも昔通りにフツーでいられるようにと葛藤し始めます(主人公くんと仲良くしたいけれども・・・みたいな感じ)。稟は美術部に入部し、主人公くんからの絵画指導を受けることで再び交流が開始されます。絵画を教わる代わりに稟は勉強を教え良い感じな雰囲気に。同じ時間を共有した二人が幼少期の淡い想いを再発させるのは時間の問題であり、二人して河原でエロ本を探した記憶を思い起こします。そして幼少期における稟の性欲の芽生えは、時を経るごとに育まれ、淫乱娘として成長させていたのです。主人公くんにスルーされ続けていたがために自己評価がすっかり低下してしまった稟を肯定してあげればフラグは成立!→主人公くんに嫌われているかもしれないという疑念を解消してあげましょう。このように主人公くんの事を想う度に濡らしてしまう稟の描写をライトなノリで楽しませつつ、稟の心の葛藤をシリアスに描く展開になっています。フラグ構築後は稟の過去に焦点が絞られ、真相が明らかにされていきます。
- オランピアと少女「吹」
- 稟の過去要素の謎解きとして登場してくるのが少女「吹」の存在です。OPで稟とセットで登場することから関係性が指摘されておりました。また体験版においては稟の実家の描写で「ひまなつ」が匂わされており、死霊が扱われると予想されていました。まさに少女「吹」こそが、亡くなった稟の母親の死霊で、千年桜の伝承により復活した姿だったのです。主人公くんの「父親の遺品の絵画」や「共通ルートのラストで美術部員たちが力を合わせて完成させた教会の壁画」が桜をテーマとしていたため一種の信仰を生み出し、死霊現出をなさしめたという背景です。「吹」の捜し物を手伝うというカタチを取ることで、稟は過去と向き合っていくことになります。稟は「父親と不仲」であり、それは父親により「稟が世話していたホスピスの母親と引き離された」ためと説明されていました。しかしその「ホスピスの母」は「トラウマから目を逸らすための幻想」であり、実際は「ただの人形」だったのです。「吹」が身に着けている服は幼少期の稟が手作りアンティークショップ「オランピア」で作ってもらったものでした。ここにおけるオランピアはホフマン物語における機械人形を意味しており、店の名前だけではなく、死霊「吹」の象徴ともなっているわけですね(故にサブタイトルにもなっているのでしょう)。主人公くんと稟の父親はグルになって嘘をついて過去を改竄し、トラウマによるPTSDを発生させないようにしていたのです。しかし主人公くんは稟の成長を目にして、過去を乗り越えるため決意をします。
未来に対して選択できるものが一つだとしたら、それがどんな結果であったとしても、それだけが唯一の正しい未来になる。それ以外なんてありえない。もちろん後から悔やんだり、後悔したりはするんだろうけど……でもたぶんそういう事ではないと俺は思っている……選択した事に後悔なんてしても仕方ない。それ以外の未来なんてないんだから。正しいか、正しくないかはその選択そのものではなく、それを受け入れる態度だけだ。大事なのは物事を選択する事じゃない。選択した事実を受け容れる事、正しく未来を受け入れることだ。
- 稟の過去〜火災事件と主人公くんが筆を折った理由〜
- さぁここで稟が過去を受け入れる準備が整いました。そして物語性を強めるための装置として当て馬少女長山香奈が登場します。当て馬少女は稟の過去を抉り出し、あることないこと吹き込んで稟を精神崩壊させるのです。その過去とは、稟の家の火災事件。火事が起こった際、屋敷の上層階にいた稟の母親は足が挟まれ身動きがとれなくなってしまいます。そのため母親は屋敷の外で呼びかける主人公くんに稟を託し、外に放り投げることで命を救おうとしたのです。主人公くんは稟をキャッチした際にその右腕を犠牲にしてしまった、というのが筆を折った真相でした。「母親殺し」及び「天才的な画家である主人公くんをを潰した」ことが稟のトラウマでしたが、当て馬ヒロインはその2点を詰るように糾弾するのです。精神的に追い詰められた稟は屋敷跡に建てられた高層マンションから身を投げてしまいます。主人公くんは稟に手を伸ばすと必死に呼びかけ、自分の意志で生命を掴み取ることを促します。そしてトドメは「俺のために生きろ」。こうして稟は主人公くんに救済され自分を肯定し過去を乗り越えることができました。こうして過去に決着をつけた稟は当て馬ヒロインにも毅然と対応。当て馬ヒロインの演技が結構上手くプレイヤーをイライラさせることに成功しているので、その分フラストレーションの解放はひとしおです。稟√ではムーア展における美術作品で稟の覚醒はおこりません。二人の作品は二人だけの幸せとして幕を閉じます。しかし終局部では稟の母「吹」と「雫」の会話が挿入され、4章以降における稟の才能の復活が匂わされています。どうなるんですかね?
稟ルートでは主人公くんと一緒に地方国立に合格!
相変わらず馬鹿にされる地方国立をみると出身者としては切なくなるねぇ・・・。