ここから夏のイノセンス!【体験版】の感想・レビュー

未来から現代の田舎へ過去跳躍した主人公が「学校では評価されない能力」を使って大活躍するはなし。
劣等生カタルシス(学校での評価項目にないだけで実は有能で周囲を見返すという物語消費パターン)にホイホイ釣られる。
シナリオもそれなりでテキストもニヨニヨできキャラクター表現もかわいいのでサクサクプレイできる。
だが過度な田舎賛美で、田舎=「豊かな自然と温かい人間関係の絆」というステレオタイプを誇張し過ぎ。
実際に田舎で労働していた身としては厳しい自然環境と閉鎖的な人間関係に辟易する側面も描いて欲しいと思う。
市教委の仕事で山の中に入ってた時とか土地境界線をめぐって地域住民との利権闘争になるんだぜ!?(ホントウ)
地理学実習の時に限界集落の調査にも行ったが、余所者がイキナリ大歓迎される雰囲気にはならない。
けど地形図読解で村内の施設がどのような社会的機能を持つかを分析する描写は巡検っぽくで大好きです。

体験版概要

  • 物語の目的と流れ
    • 物語の目的はインフラの未整備によりガラパゴス化した21世紀初頭の山村状況をテーマとした卒論を仕上げることです。ヒロイン01(アリカ)と02(ユノ)は未来から21世紀初頭にタイムリープしてきて地域調査に乗り出します。主人公くんもまた未来人。本来時間跳躍することは優秀な生徒のみに限られていたのですが、劣等生扱いの主人公くんも偶然巻き込まれてしまったという設定です。歴史や古典に興味のあった主人公くんは管理官に願い出て滞在を許可され、卒論の調査を手伝うことになります。当初は無能扱いされ、能力には期待しないと宣告されていた主人公くんですが、その生活力や適応性によりメキメキと頭角を現していきます。調査期間は約2週間という設定で、体験版では初めの1週間をプレイできます。おそらく残りの1週間が個別√になるのでしょう。本作品の装置として上手く機能しているのが劣等生カタルシス×未来と現在の相違×田舎という三点セットです。


  • 劣等生カタルシス
    • この作品のウリの一つに劣等生カタルシスにあります。つまりは学校評価では図ることができない能力。普段は劣等生として蔑まれているけれども、ここぞという時には実に有能であり、融通の利かない優等生の鼻を明かすというパターンです。このギャップ差によりカタルシスを生み出すことができるわけです。本作品の主人公くんも例に漏れず、未来の社会では劣等分子として蔑視されています。しかし未来の学校の結果主義的なカリキュラムに興味が見出せないだけで、趣味や雑学、生活能力には長けているというありがちな流れ。過去跳躍して現代へとやってくることで、急速にその実力を開花させるという寸法です。そんな主人公くんの対比として用意されているのが未来の社会では優等生なヒロイン01;アリカの存在。典型的な効率厨の結果主義者であり様々な実務能力を有していたはずのアリカが、過去社会で未来ネットワークと断絶されてしまうと途端に無能となる場面を用意することで、この劣等生カタルシスの表現を強化しているというわけですね。効率厨であったアリカがその調査方針を変え、周囲の人物と交流を深めて新たな価値観を獲得しようと転向します。

  • 未来と現代の相違
    • この作品の見どころの二つ目は未来と現代の相違点です。効率厨が賛美される未来社会から来たとすることで、心のゆとりの大切さを見出すことができるわけです。こう書くと別に未来じゃなくて都市と田舎の差でもよかったんじゃね?とも思いますが。未来と現代の設定上の大きな違いは、繁殖方法となっています。未来では性行為による繁殖は廃れており遺伝子操作で子どもを作り出す方法が主流ということになっています。故に恋愛感情は無駄、性欲は無いということになっているのです。しかし未来ではレアなケースとして主人公くんは自然分娩により誕生しており、そのため効率厨に馴染めない「どこか人間くさい」人物像となっているわけですね。ここでもアリカの存在が未来と現代の相違を強調する役割を担っています。山村において妊婦の出産の手伝いをしたアリカは恋愛の結果として交尾を行い子孫を残すという繁殖行為を尊いものと感じるわけですが、それが本来は隠すべきものとされる「秘め事」を浮き彫りにするため、プレイヤーは思わずニヨニヨしてしまうわけですね。さらに真面目系大和撫子のヒロイン04ブッキーに説明させることで効果を倍増させることに成功しています。

  • 田舎(社会経済史・民族伝承パート)
    • 本作品の田舎パートを牽引するのがヒロイン03のいろはと04のブッキー。ブッキー√は社会経済史担当?で、村の指導者層の娘として設定することで、茅葺き屋根の共同作業や養蚕・絹織物業、租税制度が扱われ地域共同体の社会的連帯のウンチクが語られます。一方いろはは民族伝承担当。村の鎮守の役割を持つ神社の巫女という役割です。最初の場面で主人公くんが時間跳躍した際、迷子になるのですが、螢に誘われていろはと邂逅したことが、いろはの印象に強く残ったのです。なぜならその出会いの形態がいろはの先祖と同じだったから。いろはの村の村落起源説話では武士の落人が道に迷った際、螢に導かれて巫女と遭遇したのだとか。落ち武者が共同体に新たな文化をもたらすマレビトっていうわけさ。で、いろははその巫女の血を引いているとのことで、村の起源と主人公くんとの出会いを重ねてしまってロマンティック!!という流れ。そして主人公くんたちが現代の時間軸に留まれる最後の日が、いろはが巫女として村を練り歩く日であると提示され、リミットが設けられます。