凍京NECRO「自殺志願者編(宝形イリア√)」の感想・レビュー

臥龍岡早雲が過去と向き合いイリアの死を乗り越えて生き続けるはなし。
♰「生きてる限り希望はあるんだよ」
父親は愛する女にとらわれて死体をリビングデッドにして性行為を行っていた。
早雲もまた愛するイリアを殺されて父と同じ選択を迫られることになる。
早雲は自分の意志を確立し、イリアの死を受け入れて、自殺志願者を殺してあげるのであった。

自殺志願者編概要


  • 臥龍岡早雲の過去からの解放
    • 主人公;臥龍岡早雲は感情表現が希薄であり自分が機械であろうとしていました。それを救ったのが宝形イリアの存在だったわけですが、どうして早雲は自らの感情を封じようとしていたのでしょうか。それは幼少期に早雲が父親とリビングデッド化した母の死姦の様子を垣間見てしまったからでした。父親は自分の妻を愛しすぎていたため、自らが滅すべき自殺志願者であるミルグラム氏にその亡骸をリビングデッドにするよう懇願したのです。この幼少期における父母の死姦の目撃が早雲に愛することは気持ち悪いことだという意識を植え付けてしまったのです。このトラウマから解放され人を愛する感情を取り戻すのが、宝形イリア√のテーマとなっています。しかしながら早雲が愛する心を取り戻し、イリアのために愛を叫ぶとあっさりとイリアは殺されてしまいます。早雲はここで自殺志願者ミルグラム氏から、イリアをリビングデッドにするか死を受け入れるかの二択を迫られるのです。早雲は苦悩しますが、父親の幻影を振り払い、イリアの死を受け入れてミルグラム氏を殺してあげるのでした。ミルグラムとの戦いで、早雲が父とは違う存在であることを示すために、自分を構成してきた過去の絆で立ち向かうシーンは、ありきたりとはいえ結構熱い展開となっています。



  • 自殺志願者は生に固執するからこそ最高の死に方を選んでいるんだ
    • 自殺志願者たちの命題
      • 「人が克服すべきは「死」ではなく「生」である…生存こそが人の争いの源だ……人類が発達するにおいて、生存のために「闘争」は必須だった。より優れた闘争本能を持つものが、争い事に勝利し、子孫を残した。進化圧によって闘争本能を強化される。幾多の闘争によって、人類は進化した。戦争によって利益が得られる時代は過ぎたんだ……米中戦争が良い例だ。武器の進化によって戦争は利益を出すことが困難になった。戦いに勝利した時点ですでに死んでいる。戦いを起こさないことが最大の利益をもたらすんだ。人類が進化の果てに手に入れた生存のための闘争本能はもはや無用の長物と化した。だから私たちは「生」の執着を捨て、反成長を手に入れなければならない」
    • ミルグラム氏のねらい
      • ミルグラム氏はかつて宗教画関係者でした。生に固執し生きることに囚われているため、自分が納得した美的死に方を求めていたのです。そこでミルグラム氏は臥龍岡早雲に着目します。かつてミルグラム氏は早雲の父の戦闘に美を見出しました。しかし早雲の父は妻の死で地に堕ちます。そのため早雲に自分を美的に殺して貰おうとしたのです。しかしいまだ早雲は未熟であり、ミルグラム氏の納得する死をもたらす存在ではありませんでした。ゆえに、宝形イリアを餌にし戦闘経験を積ませることで早雲を成長させていったのです。ミルグラム氏の狙いは成功し、早雲は無意識を拡張するという戦闘方法を身に着け父を凌駕していきます。早雲を成長させる最後の起爆剤となるのがイリアの死を受け入られるかどうかであり、父と同じ行動をとってしまうのか、それとも父を超えるのかを試されるわけです。人を愛せなかった早雲がイリアによって人を愛せるようになり、愛を語った瞬間にイリアを殺される場面はわりと盛り上がります。ミルグラム氏撃破後、それでも生きていく早雲は電脳世界でイリアの無意識と邂逅した後、残りの人生を送っていくことになります。♰「人はそうやって、生と死の螺旋を紡いでいくんだ」