「授業世界史」と「歴史を通して抽象的な概念操作を身に付けさせる」こと

似たようなことを毎回考えてグルグルしてしまうので、文字でアウトプット。
ブレーンストーミング的なメモ。
世界史の全通史の内容を学びたい人は学校の授業だけでは無理。
学校の授業というものは学力を伸ばすためにある様々な装置の一つにしかすぎず、それをどう利用するかが肝要。
(塾や予備校も同様で行くだけ・それだけでは学力は伸びない。自分の学力向上の目的のためにどのように組み合わせて使うか)
授業では歴史的なものの見方や考え方などを授業でしかできないこと、生徒が個人で習得するには難しいことを身に付けさせるべき。
そうすれば生徒は独学でも歴史を学べるようになる。

受験世界史と授業世界史

  • 受験世界史と歴史的思考力
    • 私も受験戦士だったので、山川用語集を全て覚えることくらい当然であり、資料集は全てチェックするのが当たり前だと思っているところがあります。しかし東大や一橋の問題は山川用語集を全て覚えたとしても、出題者の要求を満たした論述が書けるようになるわけではありません。私が受験戦士だった時には、実況中継とナビゲーターで知識を理解し、詳説ノートで知識の体系化を行い、山川の総合テストと旺文社の精講で演習し、過去問分析に励んで論述を予備校講師に添削してもらいに行き、何回も書き直したものでした。知識の理解→知識の体系化→知識の活用→知識の探究と段階を踏み、最終的に必要だと感じたのは、結局のところ、歴史的なものの見方や考え方、歴史的思考力、抽象的な思考操作が必要だということです。それらを身に付けていないと論述問題は書けないでしょう。
  • 授業世界史と歴史的思考力
    • 学習指導要領の規定単位数(B科目4単位=140時間だが学校行事で潰れるので実質的には110時間くらい)では、絶対に受験世界史に必要な通史の知識はカバーしきれません。教科書を古代から諾々と解説し、近現代やらずに(近現代からやってる学校では原始古代中世やらずに)、時間がきたらタイムオーバー!受験で世界史を使わない人はこれで世界史はサヨナラでーす!!これは大きな弊害であると考えます。だからといってどう足掻いても全通史を詳細に解説することなど不可能です。薄っぺらいことをやって満足して良いものだろうか?いや決して良いものではない(反語)。すると授業世界史は詰んでしまったのでしょうか。毎年、毎年、受験に世界史を使わない高校生たちはただなんとなく諾々と世界史の知識を断片的散発的に学び、そしてトコロテンのように進級・進学していく。なんとむなしきことではないか!!
    • これを解決するには、授業世界史の認識を改めることが重要です。授業世界史は歴史の内容を覚えさせることだけが目的ではないのです。授業世界史は、歴史の内容を通して抽象的な概念操作を身に付けさせることもまた目的なのです。と、いうかこれは真新しいことでは決してなく、学習指導要領を読むと科目の目的は歴史的なものの見方や考え方を身に付けさせることだとずっと言ってることです。
    • で、ここまで書くといつも議論になってしまうのが、じゃあ歴史的思考力って何?歴史的なものの見方や考え方って何?抽象的な思考操作って何?というのが問題になってしまうのです。そして歴史的思考力とは何かについて堂々巡りが行われ、相変わらず、現場では教科書を諾々と教えるか、教員が好きなところばっかり教えて全然体系的ではありません。そんなわけで、歴史的思考力とは何かを参考にするために、国際バカロレア文科省はどのような能力を求めているのか、ちょっと参考にしてみようではありませんか。

国際バカロレア・ディプロマプログラムと大学入学希望者学力評価テストが高校生に身につけさせようとしている能力比較

国際バカロレア ディプロマプログラムにおける概念操作力

【原因】

歴史学的見地から論理的に思考できる人は、過去に関する主張の多くが「ある一連の出来事がなぜ起こったのか」をより徹底的に説明し理解しようとする試みであることを認識しています。歴史を深く理解している生徒は、歴史上の出来事のほとんどが多種多様な原因の相互作用によって起きるものであり、そのなかでどの原因が重要かつ重大だったか、どの原因が個人レベルでコントロールできたか、またはできなかったかについて、根拠に基づいて判断することが要求されるという認識をもっています。

【結果】

歴史を学ぶということは、過去の事象がその後の社会や人々にどのように影響したかを理解するということです。歴史学的手法を用いて論理的に思考できるようになった生徒は、歴史上の重要な出来事や人物が及ぼした短期的、長期的な影響の両方を理解し、説明することができます。その出来事や人物についての証拠と解釈を用いて、歴史上の異なる時点での比較を行い、それらの事象が長期にわたる重要な影響をどの程度もたらしたかを判断します。

【変化】

歴史の学習には、人々や出来事がもたらす変化の度合いを研究するという側面が含まれます。「変化」という概念を議論することによって、例えば「変化がなかった」と主張されている局面で本当に変化がなかったのかどうかを考察し、その変化を見つけようとしたり、逆にある人や出来事が重要な変化をもたらしたとされている局面で、具体的な根拠を用いて定説となっている理論や仮定に疑問を投げかけたりするなどの、高度な議論が促されます。歴史上の変化に対する生徒の質問や判断は、内容を深く理解し、かつその出来事の前後の状況を比較したうえで形成されなければなりません。

【連続】

歴史の学習ではしばしば、重大な変化が起こった局面に焦点があてられますが、変化のなかにはゆっくりと長い時間をかけて起こるものもあり、また歴史には重大な「連続性」があることも、生徒は認識しなければなりません。例えば、歴史上の大きな変化のただ中にあってなおも相当の連続性が存在した時代があったという認識を示すことにより、生徒は、歴史に対する深い知識と理解を証明することができます。また、例えば外交政策に変化があった局面で、政治指導者の交替がそれをもたらしたのか、むしろ前政権の政策を映し出した結果だったのかを、生徒は問いかけ、考察することができます。

【重要性】

歴史とは、単に過去の出来事をすべて記録する学問ではありません。むしろ、過去の証拠や痕跡を通じて保存された記録であって、誰かが意図的に記録・伝達しようとした過去の側面だと言うことができます。このため、なぜある側面が記録され歴史に組み込まれることになったのかを問いかけるよう、生徒に奨励すべきです。同様に、どの人物、どの出来事が歴史から除外されたのか、なぜ除外されたのかも考察するよう、奨励すべきです。さらに、生徒の質問は、歴史上の出来事、人物、集団、展開の相対的な重要性、ひいてはその重要性に関するこれまでの主張が根拠に基づくものかどうかを考察・評価するよう促すような質問であるべきです。

【視点】

歴史は時として、他の視点を考慮に入れない偏った「国家神話」とも言える壮大なストーリーを広めるためや、特定の視点を優位に立たせるために、利用もしくは乱用されることがあるという認識を、IBの生徒はもたなければなりません。生徒は、過去に対する複数の視点に対して疑問を投げかけ、批評し、比較し、根拠に基づいた裏づけを行うよう奨励されます。また、過去に記録されたすべての出来事に対して、異なる視点や反対の視点があり得ることを認識すべきです。さらに、社会的少数者や女性をはじめ、さまざまな人々が過去の同じ出来事に臨んでどのように異なる経験をしたかを、一次資料の情報や歴史学者の見解を用いながら調査・比較することもできます。このような学習を通じて複数のものの見方を探究することと国際的な視野の育成の間には、とりわけ深いつながりがあります。

大学入学希望者学力評価テストで評価される能力
  • 歴史資料をよみとき、歴史に関する重要な情報を取り出す力
  • 資料(文字資料・絵画・写真・歴史地図)と歴史上の事象との関わりを推論する力
  • 歴史上の出来事を時系列的に分析したり、因果関係を分析したりする力
  • 歴史上の出来事や事象の因果関係、歴史上の出来事と現在との関係を多面的・多角的に考察する力
  • 日本を含む世界の歴史の複合性や関係性を理解する力
  • 資料等の根拠に基づいて、論理的に表現する力