運命予報をお知らせします「共通√」の感想・レビュー

鬱ゲー。内向的で世の中を斜めに見ている少年が人間関係の再構築を目指す話。鬱ゲー。
幼少期、集団から排斥されていた主人公くんは自分を救ってくれた先輩に告白するが振られてトラウマとなる。
共通√は現在の停滞した状況を変えるために学生会の庶務に選抜されるところまでが主な内容。
ここまで書くとありがちで粗製乱造されたお約束展開なのだが、他作品とは一線を画しており重厚で深い。
それはアウトサイダー的な主人公くんのモノローグに加え、狂言回しの役割を持つ主人公くんの肯定者と否定者が揺さぶりをかけるからである。
ヒロインの攻略を通して、サブキャラ達により主人公くんがメタ的に分解されることが何よりも面白い。

主人公くんのキャラクター表現とメタ的な分解について

  • 内向的な性格であり人間関係が希薄でも繋がりを求めてしまうのが人のさがよ
    • ラノベや紙芝居ゲーにおいて鬱要素のあるシナリオにはありがちな典型的な主人公くん像として設定されています。それでも本作の主人公くんが魅力的に映るのは、自分の弱さを自覚しており人間関係を求めることに恥じていないことかと思います。人との繋がりを求めながらも積極的に行動することができずウジウジと悩みながら、その一方で客観的な目線で分析し諦観するという主人公くんの姿をご堪能ください。主人公くんは自分の境遇を自虐しながらも、現実を変えるための行動など起こせるわけもなく、諾々と日常を過ごすのでした。
    • しかしこれではシナリオが進みませんので、ちゃんと原動力となる装置としての人物が用意されています。それが主人公くんの肯定者となるクラスメイト女子の存在です。この女子は主人公くんのダベリ相手としての役割を果たすのですが、ここぞというときに支えてくれるのです。主人公くんの日常を変えるために、目の前に降って湧いたかのように出現したのが学生会庶務の追加募集でした。これを「手っ取り早い人間関係の構築は小集団への加盟」とお約束な展開を作中でメタ的に揶揄してくれるのですから何とも諧謔に富んでいるではありませんか。しかもここへきても主人公くんは逡巡し続け、締め切りが過ぎるまで申し込まないという愚行をやってのこえるのでした。この時の自問自答がかなり秀逸であり、締め切りが過ぎ絶対に申し込めないという事実が分かって初めて安心して自分が申し込みたかったと納得できた云々と述べる描写はかなりグッときます。
    • そんなヘタレな主人公くんが韜晦していると、なぜかもう既に申し込まれエントリーされているのでした。それもこれもすべてクラスメイト女子のおかげ。なんと主人公くんのことを察して勝手に申し込んでくれていたのです。全てを見透かされていたことを悟った主人公くんは喜んで庶務の選抜を受けることになったのでした。


  • サブキャラによる主人公くんのメタ的な分解
    • 二大サブキャラにおいて主人公くんの肯定者がクラスメイト女子であるとすると、主人公くんの否定者となるのが男子の先輩です。この人物は幼少期に主人公くんを嵌めて告白させた挙句こっぴどく馬鹿にして笑い、主人公くんにトラウマを植え付けた人物でした。そして数年の時を経て再会した後も、何かと主人公くんの目の前に立ち塞がってきます。どうとでも取れる内容をわざと主人公くんが自ら進んで否定する方向にもっていこうとするのです。過去の古傷に塩を塗りたくられ悶絶する主人公くんがグッときますね。特に象徴的なのが本作が紙芝居ゲーであるにも関わらず、その紙芝居ゲーをメタ的に用いて、主人公くん像を解体しにくるところ。しかもその本質は主人公くん像を解体しながら、実は紙芝居ゲーをプレイしているプレイヤーこそ解体しているので、文章を読んでいて何とも言えない気持ちになってくるのです。こうしてただヒロインを攻略するというのが主眼ではなく、紙芝居ゲーをプレイすることとはいったい何なのかを問いかけてくるような作風なのです。