マブラヴ オルタネイティヴ トータル・イクリプスの感想・レビュー

架空戦記。人種差別を受け排他的となった日系米国人が多文化共生の中で精神的成長をするはなし。
難民問題と人類の融和の不可能性が背景にあり、弱者の搾取と人体実験の装置が描かれている。
ダブルヒロインであり前半は戦死した戦友に引き摺られる武家娘が主役となるが主人公の異母妹と判明。
後半は非人道的生体実験の被験者となるソ連のデザイナーズソルジャー娘が描かれ最終的に結ばれる。
難民の抑圧とテロリズムの問題はタイムリーなこともあり色々と考えさせられる内容であった。

雑感


  • 人種差別を受けて育った主人公くんと戦友を戦死させた武家娘の交流
    • 主人公くんは日系アメリカ人。南米の名家出身なのだが、米国人の母親が日本人の父親にヤリ捨てられる結果となり血族からは蔑視され、人種差別を受けるという幼少期を過ごすことになった。タマゴを投げつけられていじめを受ける描写は凄まじいものがある。そんな主人公くんは「名誉ある米国人」となり社会に受け入れられる承認欲求がことさらに強くなった。そのために米軍に志願し自己の有用性を証明することだけが拠り所となった。主人公くんは兵器開発の首席パイロットとなりアイデンティティを確立し続けるために能力を高め続けた。しかしこれは周囲との融和を図らずますますぼっち状態を進めることになってしまうのであった。そんな折、主人公くんは米軍から国連軍に転属させられることになった。主人公くんはこれを左遷と認識し、ますます排他的となってしまった。
    • しかし転属先の国連軍はプチ多民族社会を形成しており、これまで人種差別コンプレックであった主人公くんも次第に融和していく。多文化共生である。今まで閉鎖的であった主人公くんに仲間ができた瞬間であった。ここで主人公くんが出会うのが、ダブルヒロインの一人目である武家娘。彼女は家柄と血統に縛られており、なおかつ戦友を戦死させてしまった咎を背負っていた。ゆえに武家娘は生真面目であり、なにかと主人公くんと対立していくことになる。だがそれは両者が兵器開発に真摯であるがゆえに発生するものであり、お互いにぶつかり合いながらその思想信条および人となりを認め合っていく。特に武家娘は淡い恋心を自覚するに至る。
    • ところがどっこい。武家娘と主人公くんは異母兄妹であった。武家娘父が米国で兵器開発技術開発に携わった際に、孕ませてしまったのだ。主人公くん母は相手の名誉を守るために身を引いた。主人公くんは母親がいつも自分を捨てた父を庇うので不愉快に思っていたのだが、それなりの背景があったのである。武家娘は父と母の血統を大事にしていたので、真相を知りショックを受ける。ついでに主人公くんを好いていたのでそれにもまたショックを受けるのであった。こうして武家娘は主人公くんとの交流を経て戦友の戦死を乗り越えられたこともありフェードアウトしていく。あと途中でフジリュー封神演義のように武家娘死亡したけど実は生きてました展開になる。エンディングまで挿入された挙句主人公くんが親しい者の戦死を乗り越える試練を課されるので、私は見事にミスリードして戦死だと思い込んでしまったのはここだけの話である。


  • 難民問題・多民族社会・多文化共生・テロ
    • 本作の主題の一つとして多文化共生の幻想が背景として語られる。まずソ連におけるロシア人と少数民族の問題がソ連ヒロインを通して扱われる。ロシア人のために磨り潰されるグルジア人や物心もつかないうちに母親から引き離され軍属となり軍人教育を受ける子供たちの話が結構シナリオの根幹にも関わってくる。そしてソ連ヒロインはデザイナーズチャイルドでもあり生体実験の結果生み出された試験管ベイビーであったことが明らかになる。ここで人類補完計画。他者を分かり合うためには完全に同化する必要があり身体を捨てて他者と融合することが試みられていたのだ。初めに主人公くんに惹かれたのは炉利ヒロインだったのだが、融合と感情の共有化によりソ連ヒロインに恋心が同期されたものなのかもしれないと悩むところが印象深く残っている。主人公くんはソ連ヒロインを人体実験から解放し、穏やかな死を迎えさせることに成功する。
    • 本作のもう一つの一大ビッグイベントが難民による大規模テロである。この難民問題の指導者となっているのがシュヴァルツェスマーケンの主人公くんであるテオドールさんとのこと。現実の社会でも難民問題が国際情勢で大きな話題となっているのですごくタイムリーなネタ。故郷を捨て難民化し危険をおかしてヨーロッパへと渡ったものの多文化共生や民族融和など夢の話で受け入れられずに泥を啜る毎日。さらにはテロが頻発すると難民や宗教のせいにされてしまい、ますます現地で反感を買い民族対立が煽られる。そして最終的にヨーロッパでは右派が台頭しポピュリズムに陥り移民排除の政策へと変わる。虐げられた人々は宗教原理主義に救いを求めるという負の連鎖。哺乳類が集団を形成する際には包摂と排除の原理が働き、集団というのは異端者を作り上げそれを排除することで統合される。つまりは放っておくといじめが起きる。だからこそ人類の本能的な部分は教育によって矯正しかなく多文化共生が掲げられる。しかしそんなものは幻想・・・。
  • 辛かった過去を受け入れられることが大人になることなんだろうね、というはなし
    • 『はつゆきさくら』で今はもがくしかなくても後から振り返ってみれば歩んだ道はできているよ的なニュアンスの言葉があったけど(うろ覚え)、辛かったことを後から振り返って受け入れられるようになることが精神的な成長のあかし。
    • その時は本当につらいものであったとしても人生のステージを引き上げるとまた違った側面が見えてくるってのは、一度乗り越えた人のセリフだよなぁと。人生なんて何があるかわかんねーんだという達観は人間万事塞翁が馬的な禍福は糾える縄の如しな感じで深い内容だった。