運命予報をお知らせします「フラグクラッシュ編」の感想・レビュー

シナリオ構造としては基本的には1本道であり個別ヒロインを切り捨てながら進んでいく形式。
途中で個別ヒロインを受け入れれば各√に入れるのだが、相手を明確に拒絶することが、この作品の醍醐味である。
ヒロインたちは様々な鬱々しい問題を抱えており煩悶に苦しむ様子とそれに対する主人公くんの心情が楽しめる。
「理想と現実の挿げ替え」、「スクールカースト」、「縋った過去は打算」などがテーマ。
コミュ障と学校集団における人間関係が描かれるので「俺ガイル」と雰囲気が似ているかもしれない。

各ヒロインのフラグクラッシュの様子


  • 実妹(御法光)
    • 主人公くんに対して好感度マックスなイモウトだが、実はイモウトの人生を崩壊させたのは主人公くんであったというはなし。主人公くんのイモウトは人見知りでありクラスでも孤立しがちでした。兄がいればそれでよい、そんなセカイ系な閉鎖的人間関係だったのです。これを見かねたのがメインヒロインの幼馴染先輩であり学生会に誘ってくれました。ここでイモウトは穏やかな人間関係を構築していきます。ところがどっこい、主人公くんもまた学生会に入ってしまったではありませんか!?そして主人公くんはメンバーたちと交流を重ねて仲良くなっていきます。これを見たイモウトは発狂さ。自分の愛する兄が他の女と仲良くすることに耐え兼ね嫉妬を募らせていき、主人公くんに肉体的間関係を迫ってきます。
    • しかしここでなぜイモウトはこんなにも主人公くんに好感度マックスなのかという問題が提示されます。それは主人公くんが「兄力」を発揮したのではなく、主人公くんの弱さが妹の人生を破壊してしまっていたのです。そして都合よく主人公くんはそのことを忘れ去ったのです。かつて人間関係が希薄であり周囲に馴染めなかった主人公くんは、心優しいイモウトに対して自分を見捨てるな傍に居ろとお願いしてしまったのです。以来イモウトは主人公くんの傍に居続けたため、次第に友達を無くしていき、引っ込み思案になり、人見知りになってしまったのです。イモウトは他者とのコミュニケーションが苦手な自分を兄が助けてくれると美化した思い出に挿げ替えてしまっていただけなのでした。主人公くんに好意を寄せるイモウトに対して、全てを思い出した主人公くんは残酷な真実を告げてフラグをクラッシュします。



  • クラスメイト(梅枝夕紀)
    • 雰囲気としては『俺ガイル』と似たような匂いを感じさせます。学校空間での人間関係、つまりはスクールカーストを題材に扱っているからです。このクラスメイトヒロインからは主体的な意志を全然感じられません。周囲の人間関係に合わせて自分の役割を悉く変えて立ち位置を確保してきたからです。リーダーがいなければリーダーをやり、おバカがいなければおバカ担当となり、状況に合わせてコロコロと自分を変えるのです。周囲と適応するといえば聞こえはいいでしょうが、そこには「自分」というものなど微塵もなかったのでした。そしてこれは「イジメに同調する」ことを意味しています。イジメは直接イジメる加害者、それを囃し立てることでエスカレートさせる扇動者、そして自分は関係ないと無関心を貫く第三者に分かれます。しかしここで「何もしない」ことこそがイジメを肯定することに繋がり同調圧力となっていくのです。一方で主人公くんは明確に自我を確立させており、それゆえ周囲と調和できなかったのですが、周囲に流されるだけのクラスメイトヒロインはそんな主人公くんに惹かれていったのです。
      • よく保護者面談でザマス系教育ママが「うちの子が悪いのではなく、周囲に流されやすいんザマス」とクラス運営に責任転嫁してくる事があるある。駆け出しの時は対応に戸惑っていたのだが、現在は「流されるというのは言い訳であり、社会に出てからは自分のことは自分で意志決定をすることが必要となります。自己を律することができるように協力して育てていきましょう」と返せるようになった。
    • クラスメイトヒロインで扱われる小道具はテニスです。主人公くんは今まで体育祭をブッチしてきましたが、学生会に加わった以上は仕事手伝いもあり、何かの競技に参加してみようと思ったのでした。ぼっち状態の主人公くんが集団競技に参加できるわけもなく、ソフトテニスをチョイス。スポ根ばりに練習に打ち込むのでした。このイベントで主人公くんが何かのために努力することが嫌いではないと気づくところは結構好き。まぁ、結局はボロ負けするのですがね。主人公くんは今までスポーツを斜めに見ていましたが、スポ根を通して色々なことを学びます。一方でクラスメイトヒロインもテニス部に入っており、試合の応援をせがまれます。試合応援で主人公くんが見たものは、試合で闘志をむき出しにするヒロインの姿でした。今まで「周囲に合わせて自分の立ち位置をコロコロ変える主体性のない女」と見なしてきた認識が変わる瞬間となります。なぁなぁで済ませるのではなく、負けたくないと奮戦する「確固たる自分」を持っているヒロインはカッコイイやんけ。しかしなぜこんなにも闘志溢れファイトあるヒロインが学級空間では主体性がないのかが、主人公くんには理解することができません。こうしてクラスメイトの心を知りえない主人公くんはフラグをクラッシュさせるのでした。



  • 炉利先輩(橋姫観月)
    • 弱い自己を隠すために上から目線で悪態をついてしまいそれを後悔するヒロインが苦悩するはなし。主人公くんはぼっち属性であったため、他者から悪態をつかれるのに慣れており、またすぐに虚勢を張っているだけと気づくのですぐに炉利先輩との距離を縮めていきます。炉利先輩も主人公くんのことを憎からず思っており、体育祭ではラケットを貸してくれたり、文化祭では劇を指導してくれたりと何かとよくしてくれるのです。しかし劇の指導の際、炉利先輩が普段通りに上から目線で指導をすると、主人公くんの学級はげんなりし負の感情に支配されてしまいます。たまたま炉利先輩のクラスに、主人公くん学級に所属する生徒の姉がおり、問題に発展。何かとクラスでも高慢ちきな態度を取る炉利先輩は快く思われておらず、イジメに発展してしまうのでした。この時主人公くんは冷静に問題に対処し感情を昂らせる相手を宥めて妥協と譲歩を引き出し対立を解消させるのでした。また主人公くんは自分の学級でも炉利先輩の誤解を解き、それに呼応するかのように炉利先輩も態度を改めたので、和解することができたのです。まさに主人公くんは炉利先輩にとってはスーパーヒーローでござるの巻き。
    • しかし炉利先輩が主人公くんに対して心を開いたのには美化された過去があったのです。幼少期、図書室で小説を読むことでしか時間を潰せなかった炉利先輩に対し、同じ小学校であった主人公くんが近づいたのです。たった1か月ほどの交流でしたが趣味縁で結びついた男子がいればそれはもう好感度マックスさ。ろくでもない小学校時代にとってその一瞬の輝きは炉利先輩にとって尊いものとなったのです。しかしこれは炉利先輩にとって美化された思い出だったのです。なんと主人公くんは正ヒロインに近づくための踏み台として炉利先輩を利用したに過ぎなかったのです。小学校時代の主人公くんは炉利先輩と正ヒロインが親友だと知ると、将を射んと欲すればまず馬を射よのごとく炉利先輩の好感度を上げただけだったのです。主人公くんが罪悪感からこの真実を告げると炉利先輩は精神崩壊。自分が縋っていた過去の想い出は、なんと単なる主人公くんの打算に過ぎなかったのでした。主人公くんは主人公くんで、炉利先輩が自分の打算を尊いものとして大事にしていたことを知り、罪悪感に駆られます。黙っていれば良かったのでしょうが、良心の呵責により全てを吐いてしまったのです。こうして炉利先輩が主人公くんに抱いていた幻想は打ち砕かれたのでした。