雑録

月に寄りそう乙女の作法2.1 E×S×PAR!!『ダブルアイリッシュ』の感想・レビュー

専門領域において天才達に比肩できず、それでも苦悩の地獄に好んで飛び込んでいく話がすてき。
才華くんとエストは二人で一つのデザインを生み出す手段を選びぶつかりながら高め合っていく。
しかしそのぶつかり合いに少し疲弊してきたのもまた事実であり、そこでもまた煩悶する。
ところがエストの姉の電話により、エストが「自分の本性を出す」ことはとても貴重であることを知る。
才華くんは自分がエストにとって特別な存在であることを確信し選択肢。エストと戦うか、尽くすか。
ちなみにジャス子×いせたんの百合展開も楽しむことが出来、一粒で二度おいしい作品となっている。

専門領域において、煩悶しながら血反吐を吐きつつたうち回り、それでも投げ捨てずに取り組もうとする姿勢に勇気づけられます。


君たちの相談が苦悩程度のものだと知って安心しましたよ。俺にもね、血が出るまで喉を掻きむしった煩悶の夜がありましたし、乾ききった目を抉り出そうとした狂躁の朝だってありました。でもね、そこまでしても、デザインをするのをやめなかったんです。頭がおかしくなろうと、自分の創造を捨てて惨めにしがみつこうと、デザインそのものをやめようだなんて、ね。思わなかったんです。投げ出すなんて簡単ですからね。才能があるのにもったいない。君たちが芸術という苦悩の地獄に好んで飛び込む狂った人種で良かった。エスト君からすれば嫌なのでしょうが、やっぱり俺と同じなんですよ。君たちだって頭がおかしい。それか天才でなければデザイナーなんて務まりません。


  • 天才たちに追いつくためには
    • 才華くんは自らの生まれが故に自己顕示欲が非常に強い少年でしたが、エストに仕えることで他者に尽くす喜びを知りデザインの才能が開花しました。一方でエストも生まれと育ちにより自己肯定感を持てない田舎貴族でしたが、誇り高き主君として振舞う気品を身につけ、デザインに自信を持てるようになりました。こうして二人は主従関係を通してデザインの才能を伸ばしていったのですが、まだまだ天才たちと比肩するには何かが足りません。学問に王道なしとはいったもので、ひたすら地道にコツコツやっていくしかないとのアドバイスも貰いますが、苦悩する二人には、現状を打破するブレイクスルーが必要だったのです。そんな中、デザインに苦しみながらも真摯に取り組む二人がとった手段は、二人で一つのデザインを生み出そうというものでした。お互いにデザインを出し合い、ダメ出しをし、そして修正して新たなデザインを生み出すというものでした。闘争心があり負けん気が強い二人は自分のデザインこそ至高だと思うので、相手にダメ出しをされればヒートアップしてしまうというもの。そんな時は、才華くんにエストが噛みつくという手段をとって抑えることにしようとかなんだとか約束をして、高め合っていきます。この手段は二人にマッチし、今まで生み出せなかった質の高いデザインを生み出せるようになっていったのです。



  • エストが本音を出せる相手は才華くんのみなのさ
    • 試行錯誤しながら二人で一つのデザインをしてきた才華くんとエストでしたがアクシデントが発生します。何と才華くんがエストの手助けなしに完璧に近いデザインを成し遂げてしまったのです。才華くんの能力の一つに「他者奉仕能力」があり、「誰かに着せたい」「着ることによって輝かせたい」という動機でデザインをすると、最高の出来になるという性質がありました。才華くんは花嫁衣裳のデザイン依頼を受けた際、無意識のうちにエストを思いながらデザインをしてしまい、最高の作品ができてしまったのです。エストが手を入れる余地は一切ないくらいの完璧なもの。これを見たエストは才華くんが自分をモチーフに作ってくれたと喜ぶ反面で、今まで二人で一つのデザインをしてきたのは何だったの!?と苛立つ要因にもなってしまったのです。
    • この花嫁衣裳デザイン事件により、関係性に揺らぎが発生してしまったのですが、エストの姉からの電話で才華くんは問題の所在を知るのです。エストは従来、物事に対して真剣になれず、おちゃらけて誤魔化して自分を騙してきました。そんなエストをよく知る姉にとって、現在感情を剥き出しにして本気を出すエストは信じがたいものだったのです。これを聞いた才華くんは、自分にたいしてだからこそ、エストは自己の本性を偽らず曝け出しているのだということを確信します。こうして才華くんには、選択肢が与えられるのです。自分だけのデザインを出して戦うのか、それともエストのために尽くすのか。
    • 前者は試合に負けて勝負に勝つような感じです。最優秀賞は逃してしまうものの、才華くんとエストはそれぞれ自分がデザインした衣装を自分で身につけ舞台でウォークするのです。エストに出会う前、自己の才能を周囲に認めさせることを生存理由としてきた才華の目的がここで叶うことになります。
    • 後者では最優秀賞を獲得。エストのために才華くんの才能である「他者奉仕能力」を発揮させることになります。エストのデザインのテーマは「彼氏の両親に会いに行きます」であり、このエストのデザインに才華くんが如何なくアドバイスをしまくり最高のデザインとして勝利するのでした。


  • ジャス子×いせたんの百合√が素晴らしい
    • エスト√では才華くんとエストの関係性だけでなく、ジャス子といせたんの百合√も描かれていきます。これがわりと面白くてたいへん素晴らしい出来となっておりますので百合好きにはおススメです。本編で黄色人種を見下し高慢ちきだったジャス子のデレっぷりもさることながら、無意識にジャス子を殺しにかかるいせたんもまた良し。いせたんはやりたいことが見つからず悩んでいたけれども本編で服飾の指揮統括を経験し、服飾経営に興味を抱くようになっていきます。そしてジャス子のために、その能力を活かすことを生き甲斐として見出すのです。そこがジャス子をきゅんきゅんさせるのですね。いせたんのお見合い話にジャス子がヤキモキし、いせたんは自分のものであるから離さないと宣言するシーンは一見の価値ありです。いせたんはジャス子のために経営科へと進路を変える決意をし、フランス語を学び始めるのでした。最後のコンテストでジャス子のデザインした服をまとったいせたんの活躍にも注目です。ジャス子は勝っても負けてもいせたんとの百合ップルぶりを見せつけてくれます。