雑録

船津功「十五年戦争と道民」(『北海道の歴史』山川出版社、2010、pp.275-298)

1.北海道第二期拓殖計画

恐慌と凶作●

  • 第二期拓殖計画
    • 目指されたもの
      • →米不足、人口過剰の全国的な社会矛盾の解決策の一つが北海道拓殖に求められ、拓殖段階より府県並みの北海道が目指された。
  • 目標と現実
    • 目標
      • 耕地158万町歩(米産700万石) 牛馬合計100万頭 人口600万人
    • 開始時 
      • 耕地79万町歩(米産250万石) 牛4万・馬2万 人口250万人
    • 終了時(昭和21年度) 
      • 耕地78万町歩 牛馬40万頭 人口350万人
  • 不況
    • S2年は金融恐慌に始まり昭和恐慌に突入していく年。日本資本主義は脆弱な体質もあり、大戦後に恐慌を繰り返す深刻な経済状況に追い込まれる。政治的・経済的に中央・全国の影響を受けやすい開拓地北海道の不況は、とくにきびしい。
  • 移民事業
    • 形態…補助金を与える許可移民事業、土地貸付は従来の5町歩から10町歩、農業経験のない都市貧民層、入植地は根釧原野などきびしい土地、直接保護による自作農保護。
    • 人口…S9年には300万人、移民などの社会増よりも出生などの自然増、内国植民地としての性格が薄まる、54万/120万(農業/就業人口)
    • 移動…昭和恐慌期には非農業部門から農業に人口が流出、農村が人口の溜まり場となる。好況期には農村から非農村部門に人口が移動。昭和恐慌以後は、道東の農業地域が人口吸収地となる。
  • 農業
    • 根釧原野農業開発五カ年計画 → 経営は主畜農業。主畜農業は以後、十勝・網走・宗谷地方の開拓に適用。北方農業として北海道酪農農業の基礎
    • 農業地域の変容 → 輪作の導入、農産物の特産化と集約化、生産の地域的専門家
    • 水田増加、畑減少 → 商品生産性の高い米の作付面積が第一、水田は小作地増加、畑の減少は小作地
    • 粗悪な道産米 → 朝鮮米よりも安価、凶作でも米価は上がらず、豊作では米価低落により豊作貧乏
  • 漁業
    • S2年がピーク(漁獲数量5億貫・金額6500万円)、昭和3年以後低迷。鰊・昆布減少。沿岸漁民深刻。
  • 鉱業
    • 石炭需要激減市価暴落。生産額低迷(T8:工業生産総価額8174万8000円→S6:3569万6000円)
  • 産業基盤
    • 森林費、土地改良費増大→森林費は国有林に対するものが大部分。伐採関係が主。造林費は20%前後。
    • S11年以降は過伐で造林追い付かず森林破壊。戦争のための木材需要増、16年「木材統制法」公布。
  • インフラ
    • 鉄道、漁港は成果。大正末期~S10頃まで鉄道建設盛ん。原敬内閣以来政党地盤拡張に鉄道敷設利用。

資本の独占化と産業の共同化●

  • 石炭
    • 財閥系資本の圧倒的資本力、不況による価格競争→独占化→昭和石炭株式会社(S7設立、翌年営業開始)
  • 工業
    • 製紙業→S8三井系王子製紙(王子・富士・樺太工業)発足。全国生産だが90%を占める。
    • 兵器→日本製鋼所、T8北海道製鉄合併。大戦後の不況でS6に製鉄と採鉱を分離。輪西製鉄株式会社設立。
    • 地場資本→原料供給型の食料品工業・製材木製品工業が主。小資本だが、産業共同化につとめる。
      • 産業組合:T8北海道信用購買販売組合連合会(北連)発足、S8には中央機関地位確立
      • 乳業:T15北海道製酪販売組合連合会(酪連)設立、S7には道産牛乳の一手購入と販路について生産者への責任を負う。
      • 林産加工業:S10ベニヤ工業組合設立
  • 漁業
    • 不振の鰊漁:S6合同漁業株式会社誕生、S8「漁業法」改正で漁業組合が協同組合として認可、S12北海道漁業組合連合会組織。
    • 発展する北洋漁業:T13に成立した日魯漁業がS7に北洋合同漁業株式会社を合併吸収、露領漁業独占。S16には北千島漁業でも独占体制を確立。
    • 進む独占化 ※原因:遠洋漁業、鮭・鱒・蟹の缶詰生産、北洋漁業は巨額資本が必要なため。
      • 母船式蟹漁業(蟹工船)→S7日本合同工船株式会社設立、母船式蟹漁業一本化。S12日産系列の日本水産株式会社に統一、日産コンツェルン下の日本最大の漁業資本となった。
      • 母船式鮭鱒漁業→S10日魯漁業直系の太平洋漁業が独占。
  • 北海道の地位向上
    • S2新しい北海道一、ニ級町村制公布、一級町村に府県町村制準用。
    • S3第16回総選挙→定員20名、有権者数45万6000人。結果政友会10人、民政党10人、その他1人。政友会は郡部の地主層、民政党は市部の資本家層を支持基盤とする。中央政界とも対応。

労農運動と社会問題●

  • 労働争議・農民運動の活発化 (原因:WWⅠ後の恐慌と凶作の連続)
    • 北海道の労農運動も大正末期~昭和に高揚、S12日中戦争開始による日本軍国主義の弾圧で終息。
  • 組合、争議など
    • 小樽高商軍教反対事件(T14.10月)…生徒が軍事教練で朝鮮人を仮想敵とすることに抗議
    • 種々の組織結成…旭川で日本農民組合北海道連合会発足(T14.10月)/小樽総労働組合結成(T14.8月)→小樽合同労働組合(T15)に改称/小樽において評議会北海道地方評議会の発会式挙行(T15.2)
  • 上述組織による労農共闘を実現した闘争として特記される争議
    • 磯野農場争議(T15-S.2)…小林多喜二不在地主』の題材。小作人全面勝利。
    • 小樽港湾労働争議(S2)…労働者側の完全勝利ではないが妥結
      • 北海道第二回メーデー(S2.5月)…北海道では戦前最盛、東北以北で最大
      • 蜂須賀農場…T9とT15及び昭和に入って5度の争議。S2に地主が土地分譲による自作農創設方針を打ち出すと小作が分裂しS7に全道最強全農雨竜支部壊滅、争議終結
    • 北海道労農運動の消滅…3.15事件、4.16事件で弾圧を受け、S15大日本産業報国会の成立による労農組合の解散で消滅。
  • 社会問題への対応
    • 民間…S3北海道社会事業団体連合会発足
    • 国及び道…S4「救護法」制定、S7施行→道庁、社会政策(失業対策・職業紹介・救貧・生活保護など)
  • アイヌの動向
    • アイヌ文学…知里幸恵アイヌ神謡集』、違星北斗『コタン』、バチュラー=八重子『若き同族に』、森竹竹一『若きアイヌの詩集・原始林』。作品傾向:韻文を主とする→口承文学の伝統、社会的状況を考えさせられる。
    • S5道庁主導でアイヌ協会設立、機関誌『蝦夷の光』刊行。
    • S6第1回全道アイヌ青年大会開催(札幌)。
    • S12「北海道旧土人保護法」改正→給与地譲渡制限緩和、生活一般、学業への支援拡大、アイヌ学校廃止
    • 戦時体制のなかでアイヌの民族的自覚と人権意識の顕在化も沈静化する。

2.北海道の戦時体制

戦時統制の進行●

  • 統制経済
    • 不況脱出を中国侵略に求める(S6満洲事変、S7満洲国建国、S12日中戦争開始)⇒統制経済へ。
      • S10第2期拓計は人口目標450万にするなど縮小して改訂。
      • S15北海道総合計画(第二次近衛内閣・日満華三国経済圏の確立を目指す国策の一つ)も進捗せず中断。
  • 軍需の影響
    • 工業:S8以降発展。化学・金属・機械器具・製材木製品工業が躍進。S13人造繊維用パルプ製造→国策パルプ工場、北海道人造石油会社→石炭液化工場
    • 鉱業:S8~金銀主体の非鉄金属と硫黄生産が産高急増。石炭増産。
    • 農業
      • 日中戦争期(外貨獲得用の澱粉・菜豆)→S16以降(供出対策となる食糧農作物)
      • 自作農創設策…生産意欲を高めるため。農村負債整理事業、農山漁村経済更生計画、「農地調整法」-→大地主の利益を守りながら自作中農が増加。
  • 満洲開拓政策・樺太移民政策
    • 北海道は移民を送り出しながら、移民の受け入れにつとめなければならなくなる。
      • 国策としての拓殖の重点が満洲に移ったので、戦時下の北海道は石炭・金属等の資源供給地となる。
  • 戦時統制
    • S12戦時統制三法、S13「国家総動員法」→戦時経済統制完備
    • 農業
      • S14道庁、戦時農業生産拡充計画樹立→国益優先の農業政策
      • S16北海道信用購買販売利用組合連合会結成、S18「農業団体法」公布→北海道農業会
      • S15米国管理規制公布、米の供出開始。
      • S16重要産業団体令公布→統制会設置
    • 地方制度
      • S18町村制改正→北海道一級町村制、二級町村制廃止(但し二級町村制は指定町村という形で特例継承)
    • 教育制度の改変
    • 新聞

戦時下の道民生活と朝鮮人・中国人強制連行●

  • 住民組織を行政組織の末端組織化
    • S15内務省、各地方長官に部落会・町村会の整備を訓令→同年道庁では「町内会部落会規則」公布、各市町村は各自、同規則を定め、16年前半までに全道の町内会・部落会の編成をほぼ終了。
    • S17閣議決定大政翼賛会は町内会・部落会・隣保班を指導する。
  • 配給統制
    • 米穀統制…S15他府県に先駆け米穀配給調整の支持を受け配給体制。S16米穀配給が切符制から通帳制となる。S17「食糧管理法」により政府の強制買上げ、農家の供出制度が完成。
    • 米穀以外…S15年中に家庭用石炭・マッチ・砂糖などが配給制。S17から衣類も点数制。
  • 火山
    • S19.2~S20.9洞爺湖畔の名所、昭和新山が生成するが、天変地異を嫌う警察・軍部のため報道されず。
  • 労働力動員
    • 根こそぎ動員…S14国民徴用令、S16国民勤労報告協力令、S20国民勤労動員令
      • 勤労奉仕」「勤労動員」→勤労報告隊・女子勤労挺身隊
    • S14「国家総動員法」に基づき124万人におよぶ労務動員計画策定(うち移住朝鮮人8万5000)
    • 朝鮮:「集団募集」「官斡旋」「徴用」で送出全国70万。うち北海道14万5000。
    • 中国:S17.11東条英機内閣、中国人強制連行を閣議決定→S19.3本格的移入開始。日本への連行者3万8935のうち北海道へは1万5051。

旭川第七師団の出兵と北海道空襲●

  • 第七師団
    • 対ソ北鎮の師団…歩兵13・14の2個旅団、歩兵第25から28までの四個連隊基幹
      • 満州事変後のS7混成第14旅団、S9には第七師団が満洲に派遣される。
      • S13第七師団、満洲に派遣され、同年の徐州作戦と14年のノモンハン事件に参戦。
    • ノモンハンの衝撃…歩兵白兵戦主義から火力・機動力重視に戦術を転換。
      • S15昭和軍制→第七師団、三個連隊基幹となり機械化を進める。残り1個連隊・札幌月寒の第25連隊は樺太に転出され樺太混成旅団の主力に。
    • S15札幌に北部軍司令部設置
  • 太平洋戦争と北海道
    • ミッドウェー大敗→一木支隊、南太平洋のガダルカナルに派遣され全滅。
    • アリューシャン作戦→北海支隊、アッツ島を占領するがS18.5に米軍の反攻で玉砕。
    • 北部軍の編成→S18北方軍と改称。S19北方軍、第五方面軍昇格。S20軍政担当の北部軍管区司令部併設。
      • 第七師団の編成→S19帯広に移駐。
    • 沖縄戦と北海道→沖縄戦の主力師団の第24師団は北海道出身の兵士を主体に編成。
    • 15年戦争における北海道と樺太に本籍のある軍人・軍属の戦没者数→シベリア抑留死亡者合わせ10万9500
  • 北海道における連合国との戦い
    • 対米戦:S20.7.14未明-15夕刻、北海道は米海軍の空襲を受ける。室蘭は艦砲射撃も受ける。
    • 対ソ戦:8.8南樺太ソ連軍侵入。8.14千島に砲撃。8.28択捉、9.1国後、色丹、9.3歯舞上陸
    • 終戦:S20.8.15ポツダム宣言受諾回答(※レジュメ作成者註:8.14受諾、8.15玉音放送)、9.2降伏文書調印。