内田弘樹『ミリオタJK妹!3』(GA文庫、2018)の感想・レビュー

第二巻は決戦前夜!というラストで終わったのですが・・・まさかの三巻で打ち切り!!
イラストも表紙絵1枚の他にモノクロ2枚しかないという、何があったんだ状態。
三巻では唐突に出て来たエルフ国が、ナチス=ドイツを模した国であるという怒濤の展開。
他国民の犠牲を前提にした安寧な生活の確保と大衆の戦争支持を抉りだしている。
V2ロケット食らうロンドン市民、海上封鎖された独で空中窒素固定技術開発など蘊蓄も抜群。
ミリオタのイモウトがデザイナーチャイルドであった葛藤も上手く回収。
打ち切りが残念でならない。主題が「国民の戦争支持と戦争責任」だからクレームついたか?

  • 多分打ち切りになった時のツイート?

本編感想

  • なぜ本作は打ち切りになってしまったのか?
    • 主題である「国民の戦争支持と戦争責任」がタブーに触れてしまったのか?
      • 日本ではマスメディアにより「戦時中の国民は犠牲者であって悪いのは国家指導者であったA級戦犯」という歴史像を植え付けられます。しかし、当時の新聞報道や日記を紐解けば、日本国民はノリノリで戦争を支持しており、哀れな被害者であったという歴史像はすぐに覆されるでしょう。高校日本史世界史レベルでも明治国家体制、ファシズム、ナチズム、全体主義、総力戦などを学べば、戦時下の国家が大衆の生活を保障しその支持の上に成り立っていたことがすぐに分かります。大衆に余暇や娯楽、生活改善、社会保障を付与することで広汎な支持を獲得していたのです。ところが、戦争が終わると国民の態度は一変。ドイツやイタリアや日本では、ヒトラームッソリーニ東条英機に私たち国民は操られていたんだ!!と戦争支持を否定。国民は悪くない、むしろ戦争の被害者である、と戦争責任を擦り付けることによって、自分たちの所業に目を瞑り、戦後復興を遂げていったという現実があります。
      • 本作は、そのようなナチス=ドイツや日本帝国を模したエルフの国を登場させることで、それをまざまざと描き出しているのです。「負の感情をエネルギー源にして魔法を使う」という設定により、「負の感情」の供給源を隷属化した諸民族に押し付けることによって、ホロコーストを表現しています。そして無邪気なエルフの王女を登場させ、こんなに豊かな生活捨てられない☆と吐かせるのです。他民族の犠牲の上に成り立つ、自分たちの生活の保障。そして生活を保障してくれる政権への支持・・・。ミリオタを題材にしたラノベだからこそ、色々と考えさせられる内容になっています。
      • 多分、この辺のテーマがタブーに触れて打ち切りになってしまったのだと思います。
  • デザイナーチャイルドの葛藤は強引に解決
    • 本作の原動力はミリオタJKイモウトであり、その過去が大きな見せ場となってきました。今回は、イモウト問題を解決することで、打ち切りになってしまった物語を閉じようとします。デザイナーズチャイルドであったイモウトは、ファンタジー世界ではホムンクルスであるとの疑念をかけられるのです。あまりにも完璧な存在であると。そして、敵国のエルフによって、この悩みや葛藤を弱点として突かれるのですね。イモウトは遺伝子操作で人為的に生み出された自分の存在意義を兄への愛へと昇華させることで納得してきましたが、それが揺らいでしまうのです。そんなイモウトに主人公くんはどんな言葉をかけたのでしょうか?ここから怒濤のタイトル回収です。このシリーズのテーマは「ミリオタ」。そして「ミリオタ」とは戦争の悲惨さを嫌うがゆえに戦争を愛するという矛盾した複雑な心理を持ちます。このような面倒くさい心理を持つミリオタ魂を持てる人間が作り物であるはずがないと説くのです。このミリオタ演説によってイモウトは精神攻撃から脱出し、復活することができたのでした。
    • こうして、デザイナーチャイルドであったイモウトの心の弱さをミリオタで解決するという手法をとり、タイトル回収するとともに、物語の幕を閉じたのでした。