雑録

内田弘樹『ミリオタJK妹! 異世界の戦争に巻き込まれた兄妹は軍事知識チートで無双します』(SBクリエイティブ株式会社、2018)の感想・レビュー

妹はミリオタの皮を被った旧共産圏の殺戮マシーン少女兵器。自己の存在証明のために戦闘兵器となるガンスリ
「詰んでる」ジリ貧消耗戦を謳う割にはお気楽ご都合主義ハーレムエンド。悲壮感はなくサブタイ通りに無双展開です。
人的資源の消耗や夜間無差別空襲、民族差別ジェノサイドを扱っているのでもっと凄惨な展開にも持っていけたのかもしれませんが・・・
後書きまで読むと、一般的なラノベの読者層受けを狙い「暗い話」にならないよう「わざと」工夫を凝らしたことが書かれています。
各攻略ヒロインの登場の唐突感がすごい。相手側の作戦に対処するため話の都合上必要なヒロインを用意しました!という感じ。

製品版概要

  • 市街地戦と斬首戦術
    • 先行版では補給路を断ち切り軍事行動を停止させる作戦までが描かれていました。しかし敵軍はセオリー通りには動かず、政治的影響を背景にして、強引に侵攻してきて市街地戦となります。はーいお待ちかね!ゲリラ戦レジスタンスパルチザンですよ!!張り巡らされた下水を利用し防衛バトルが展開されます。そして幼女戦記でもお馴染みの司令部潰しをやっちゃいます。少数精鋭で奇襲攻撃をかけるのは日本人がみんな大好きなパターンですね。指令部を潰された後は多数の兵を有していても烏合の衆と化し市街地戦大勝利。これに怒り狂った竜人の姫は主人公くんたちの下へ単騎突入を仕掛けるのですが、武装兵器JK妹により撃退されます。
  • 楽しい軍事糧食
    • ミリオタで欠かせないのが軍事糧食のはなし。作者の方は旧共産圏フーズについての薄い本を出しているようで「死んだおばあちゃん」が話題となっていましたが、本作では「死んだおじいちゃん」の二つ名を持つという設定でシュールストレミングが出てきます。よくネタ扱いされることの多いシュールストレミングですが、食べ物を大事にするJK妹は保存食の知恵をネタ扱いすることが不満らしく、熱く語ってくれます。シュールストレミングはどうすればおいしく食べられるのかの描写は一見の価値ありです。さらにタンポポコーヒーや蕎麦の実カーシャなど、JK妹がミリメシでも無双します。

シュールストレミングはゲテモノ食材というイメージが強いですが、元をたどればスウェーデンという国の伝統的な保存食ですし、これが長年生産されてきた理由も、塩が貴重品だったスウェーデンではこの方法でしか長期保存が可能な魚の発酵食品が生産できなかった、という理由があります。彼らにしてみれば、こうした食材を主要なタンパク源としなければ、長く厳しい冬を生き抜けないという、切羽詰まった事情があったと思われます。スウェーデンでは、長い間この食材が軍の糧食に使われていたという話もありますし……ええ。だからこちらの世界のこの食材も、同じように、乏しい食材で厳しい冬を乗り切り、より多くの人の命を生かしたいという願いの下に生み出されたに違いありません」

  • 旧共産圏デザイナーチャイルドソルジャー妹は存在証明するために兄を愛する
    • 軍事糧食回では市井で暮らしていた妾腹の子であった姫様もテンションが上がって大活躍し、炊き出しでその腕を披露します。そしてその帰り道、眠ってしまった妹をおんぶした主人公くんが、姫様に対して自分たちを語るという形式で、妹の過去が語られます。
    • 主人公くんとイモウトが出会ったのは、東欧地域紛争。主人公くんは軍事評論家の父に連れられて現地におり紛争に巻き込まれたのです。当時イモウトは両親を目の前で殺害されたことで感情を無くし殺戮マシーンと化した少女兵であったとのこと。そして最初は主人公くんを殺そうとしていたのだが、紆余曲折を経て殺されずに済み、人の心を取り戻し、義妹として迎え入れられたのだとか。このエピソードの具体的内容が知りたいところなのですが、1巻では語られず。もう2巻を買うしかありませんね。そして主人公くんがイモウトの心情を類推して慮るところが屈指の見せ場となっております。

「…もしかすると、俺への愛を貫くことで自分の中に人間らしい感情があることを確認したいだけなのかもしれない……みぐがミリオタになったのは、俺を守るため、そして、自分自身に生きる意味を見出すためだ。戦争の道具だった自分にも、生きる価値があるのだと……自分に備わってしまった力と知識で、誰かを救えるのだと」。

  • 防空迎撃戦
    • 市街地戦に勝利した主人公くん達。しかし敵国ヒロインは軍事的敗北により指揮権を奪われてしまい交渉の余地がなくなってしまいます。そして指揮権を奪った嫌味系男性竜人族は火球ブレス持ちのドラゴンを導入して空襲をするぞと脅し、無条件降伏を迫ってきます。今度はこれに対処しなければなりません。今回、一番ご都合主義だと感じるのがこの部分。一応地下構造調査の時にアンノウンの部分があり、そこが貧民窟になっていて、魔術師の生き残りがいそうなことは伏線としてはられているのですが・・・なんともまぁその状況に都合の良い能力を持ったヒロインが都合よく仲間になってくれるものよと。主人公くんを用いて「相手は迫害され貧民窟に居住を強いられているから仲間にするのは大変」と最初に思考させておくことで、「葛藤イベント」を省略しスムースに仲間に引き入れる演出を行っています。・・・魔術師ヒロインよ、もっと葛藤して!悩んで!煩悶して!なんでこんなに簡単に仲間になっちゃってるのさ!そこが辛いわ悲しいわ。一応理由付けはなされており、魔術師としての力を生かして他者を幸せにしたいとか存在証明のはなしがされるけれども!
    • で、魔術師を仲間に引き込み、市街戦で竜人族から鹵獲したバリスタと投石器を風属性の魔術でブーストさせて、次々と火球ブレス持ち飛竜をなぎ倒していきます。ここら辺からマージナルオペレーション状態であり、「戦闘情報を司令部に集約することで状況をリアルタイムで把握し、的確な指揮を行う」という流れになります。第二次世界大戦においてドイツ空軍が構築した夜間防空システムの紹介もありますよ。最後はまたもや斬首戦術を用いて、敵国ヒロインに干渉してくる嫌味系男性キャラを倒します。そしてまさかのギャグオチとなりシュールストレミングであまりの臭さに倒れるという展開になるのです。こうして指揮権を取り戻した敵国ヒロインは、次巻において野戦をしかけるぞと意気込み、春まで講和となるのでした。