植民地研究の出発点−1960年代後半
- 戦後植民地研究の理論的出発点
- 井上晴丸・宇佐美誠次郎『国家独占資本主義論』潮流社、1950(翌年増改定して岩波書店より『危機における日本資本主義の構造』)。
- 日本資本主義の国家独占資本主義への移行過程の中に植民地侵略を位置づけ、地主・商業資本的侵略、産業資本主義的侵略、金融的侵略の各側面から、それらの収奪と横領の諸形態を明らかにした。
- 井上晴丸・宇佐美誠次郎『国家独占資本主義論』潮流社、1950(翌年増改定して岩波書店より『危機における日本資本主義の構造』)。
- 実証研究の出現(1960年代後半〜) 理論的出発点よりかなり遅れて本格的実証分析に取り組む
実証研究の深化と方法論の活性化−1970年代前半
- 70年代における満州に関する代表的な研究
- 70年代に植民地支配史研究が盛んになった三つの背景
- 70年代の学会の状況
- 土地制度史学会74年大会共通論題「1930年代における日本帝国主義の植民地問題」で以下の三報告が行われる。(『土地制度史学』71、1976)
- 歴史学研究会75年度大会近代史部会テーマ「帝国主義成立期における植民地支配の経済構造と抵抗主体形成の基礎課程」で日本について以下の二報告が行われる。(『歴史学研究別冊特集/歴史における民族の形成』1975)
- 村上勝彦「日本産業革命期における植民地支配の経済過程」
- 馬淵貞利「近代朝鮮における変革主体・抵抗主体の形成と展開」
- 経営史学会75年度大会共通論題「戦前における日本企業のアジア進出をめぐる問題」
- 歴史学研究会77年度大会近代史部会テーマ「帝国主義支配と東アジア」
植民地研究の多面的展開−1970年代後半〜80年代前半
- 特徴
- 植民地研究のおける多分野での実証の進展
- 資本輸出、金融、居留民、鉄道、経済「開発」、民族運動、植民地政策など
- 植民地研究と隣接領域との交流
- ファシズム史、移民史、国際関係史、外交史、都市計画史、思想史など
- 植民地研究のおける多分野での実証の進展
- 日本帝国主義史の視覚にたつ実証研究
- 実証研究の成果を生かした概説、通史、伝記
- 帝国主義史的視点をとらない実証研究
- 満鉄研究のピーク
- 反満抗日武装闘争について
新しい研究潮流の台頭−1980年代後半
- ソ連崩壊の影響
- 80年代以前に実証研究をはじめた研究者の多くが、この時期にまとまった研究書を刊行
- 研究の組織化
- 1986年に専門学会として日本植民地研究会(初代代表/浅田喬二)が発足。88年に年刊の機関誌『日本植民地研究』を創刊
- 『岩波講座近代日本と植民地』(全八巻、1992-93)。人の移動に焦点をあてた第5巻『膨張する帝国の人流』、日本国民の心の中に内在化された植民地を多面的に考察した第7巻『文化のなかの植民地』は新潮流の趨勢を端的に反映。
問題関心の多様化と戦時期の実証分析の進展−1990年代
- いっそう多様となる方法的模索
- 植民地研究自身の変容
- 従来の経済史・政治史重視の傾向からぬけ出し、これまで手薄だった教育、社会福祉、医療・衛生などの政策史的研究が始まる。マス・メディア、家族、ジェンダー、居留民などにも目が向けられ、日本人各層のアジア認識や植民地経験、植民地化の社会変容を問い直す研究が活発になった。
- 沈潔『「満州国」社会事業史』ミネルヴァ書房、1996
- 植民地における社会事業の展開の特質を明らかにする
- 飯島渉「近代中国における『衛生』の展開」歴史学研究 / 歴史学研究会 編 (通号 703) 1997-10 pp.123-132
- 「身体の植民地化」という観点から満州の衛生事業を考察。
- 蘭信三『「満州移民」の歴史社会学』行路社、1994
- インタビューを効果的に用いて移民のライフ・ヒストリーを追跡し、相庭和彦ほか『満州「大陸の花嫁」はどうつくられたか』とともに、従来の農業移民史研究にない視座を提供した。
- 新しい研究潮流 「帝国」の観点
- 欧米の研究者による他の帝国との比較
- P・ドウス
- L・ヤング
- 旧来からの「帝国主義と植民地」という課題意識を受け継いだ実証研究について
- 従来研究が不十分だった戦時期の諸問題の検討が進む(植民地・占領地における日本の経済工作の動態、皇民化政策の実施過程、戦時動員の機構、植民地下の企業・村落秩序の動態、日本敗戦後の支配機構の崩壊とその残滓など)。
- 鈴木隆史『日本帝国主義と満州』上・下(塙書房、1992)…50年に及ぶ日本の満洲支配の構造とその変遷を、政治、軍事、経済の側面から通史的に解明。
- 蘇崇民『満鉄史』(山下睦男ほか訳『満鉄史』葦書房、1999)…中国所在の満鉄の史料を駆使し、同社の多面的な活動を全体的に分析。
- 高成鳳『植民地鉄道と民衆生活』法政大学出版局 1999…日本の建設した植民地鉄道を「近代化」と関連づけて評価する見解を批判し、交通運輸体系の整備・拡充を植民地社会とその民衆の側から検討して、植民地の開発が、多民族抑圧の暴力装置を維持する基礎がためになったことを強調
- 上記、蘇及び高の研究は、中国東北経済の自立的発展を重視した塚瀬進『中国近代東北経済史研究』(東方書店、1993)や、日本の植民地鉄道を「収奪と成長」の視覚から分析した高橋泰隆『日本植民地鉄道史論』(日本経済評論社、1995)の問題意識とはやや異なるが、そのずれは日本人側の研究において、「収奪」と「開発」の相互規定関係の解明がなお不十分であることを、結果的に示唆。
- 1980年代に村上が提起した「被支配側の矛盾の植民地的再編成」に関するもの
- 従来研究が不十分だった戦時期の諸問題の検討が進む(植民地・占領地における日本の経済工作の動態、皇民化政策の実施過程、戦時動員の機構、植民地下の企業・村落秩序の動態、日本敗戦後の支配機構の崩壊とその残滓など)。
- 90年代の実証的な個別研究