史料判読能力養成講座006 幕末外國関係文書を読む その4「朝廷の権威を利用しようとした堀田がしっぺ返しを食らうことになるその直前」

前回までの復習

  • Q1.ソコモトとは誰か?
    • A1.ハリス

   
      堀田in京都 ←江戸
            ↑(移動)
            ハリスin下田(静岡)

  • 京都にいる堀田正睦へ、江戸に下田からハリスが出てくるぞというお知らせが来た
  • 堀田は老中首座だが、どういう立場の人から連絡が来た?
  • 1月5日に延期しますと通達 → 1月8日に勅許ソウセイのために上京
  • 年表まとめ
    • 1.5 ハリスへ延期通知
    • 1.8 堀田上京出発
    • 2.9 参内(サンダイ) 内裏(ダイリ)へ参る 天皇が住んでいるスペース
    • 3.1 【今読んでる文書の日付】
    • 3.5 ☆約日☆ ←ハリスに対して、ここまでには答えるといった
    • 3.12 外交を幕府に委ねることに対し廷臣が異議を唱える 
      • 廷臣とは?公家(ジュゴイノゲ以上の殿上人)。キンチュウナラビニクゲショハットでは公家たちは伝統的な文化を守り天皇を支える。政治に口出しすんな、という状況だったのに、わざわざ老中首座が京都に来て外交を任せてくれませんか?という状況になっている。あれ?幕府が俺らにものを聞いているぞ?(違和感)→→朝廷の政治化。
      • なんで堀田は朝廷に来て意見を聞いちゃうの?→【答え】雄藩が言うことを聞かないから。 
      • 問題になってくるのが、下田の人達(ハリスたち)。1月5日時点で60日延期していて、3月5日くらいに答えると言っているのに、3月12日に廷臣に異議ありされ、3月20日には天皇が条約勅許を不可としちゃう。 
    • 3.20 天皇、勅許不可

本文編

勿論 一躰之事情 巨細二 奏聞二 及ビ 候二 付 相達置 候
(モチロン イッタイノジジョウ コサイニ ソウモンニ オヨビ ソウロウニ ツキ アイタッシオキ ソウロウ)
【(上記のことは)勿論のこと、いっさいの事情は細かく天皇のお耳に入れております】 

日限 迄二 帰府致シ難ク
(ニチゲン マデニ キフ イタシガタク )
【期限までに幕府に帰ることが難しく】

約日 相違致し 候 間 
(ヤクジツ アイタガエイタシ ソウロウ アイダ)
【約束の日程を違えてしまいますので】

一応 申し 述べて 置き 候
(イチオウ モウシ ノベテ オキ ソウロウ)
【一応、申し伝えておきますよ】

※間に合わない言い訳をしている。弁明をしている。堀田老中の希望だったのかもしれない。堀田は、廷臣異議や勅許反対となるとは微塵も思っていない。遅れることをハリスに伝えなければならないと思っているだけ。

尤も 此の上 左迄
(モットモ コノウエ サマデ)
【もっともこのうえそれほどまで】

日数 相掛かり 候 儀 は 之 有る間敷
(ニッスウ アイカカリ ソウロウ ギハ コレ アルマジク)
【日数がかかるでしょうことは これはないでしょう】 

※遅れるけど待ってねと言ってる

猶 委細 之 儀者、井上信濃守 より
(ナオ イサイノギハ イノウエシナノノカミヨリ)
【なお詳しいことは 井上信濃守より】

申し 談ず 可く 候
(モウシ ダンズ ベク ソウロウ)
【申し談じてください】

謹言
(キンゲン)

解説

  • 将軍が委任をした老中の要求を拒否する直前だが、堀田は何とかなると思っている
  • 朝廷をコントロールできると思っている最後の日々
  • そしてわずか20日後には天皇がこの要求を退けてしまう
  • 面白いのは、この段階ではハリスとの交渉(近代的国民国家との交渉)は幕府がやっている
  • 幕府が朝廷を利用しようするのはなぜかというと、雄藩がごっちゃごちゃいってるので黙らせたいから。そのため天皇を使おうとしている。
  • しかし、管理をしているはずの「朝廷の権威」なのに、それが管理し切れないことが露呈してしまう。この手紙はその直前である。