内田弘樹『奴隷エルフ解放戦争』(フランス書院、2018)の感想・レビュー

古代ローマ風の世界観においてスパルタクスの乱よろしく剣奴たちが反乱を起こす。
各都市の奴隷たちを結集し、鎮圧軍を蹴散らしながら、エルフを故郷に返すことが目的。
攻略対象はツンデレの姫騎士。くっころはなく凌辱もハーレムもなく、ピンヒロインとイチャラブする。
最初は解呪のために身体を重ねていたが、次第に情愛を抱くようになっていくのがみどころ。
俺TUEEEモノでもあり、主人公がひたすら崇められ奉られるかと思ったら、「さすおに」のパロであった。

雑感

  • さすおに俺がいる
    • もう少し苦戦してもいいんじゃないかなぁとは思う。著者の内田先生は『シュヴァルツェスマーケン』などにおいて、不条理な消耗戦を強いられる戦闘描写を表現し、悲壮感を生み出すのがウリでした。しかし最近は路線転換した模様。『ミリオタJK』シリーズもそうでしたが、主人公くん側が完勝する無双状態しまくりんぐ状態です。本作も主人公くんたちは何ら苦戦をすることもなく圧勝し、読者はそれを眺めていくという寸法です。俺TUEEEモノを意図的に作風に取り入れており、文中において『さすおに』をパロっていることからも明らか。かの有名な「なかなかできることではない」(97頁)というセリフをヒロインに述べさせています。シナリオ文法「さすおに俺ガイル」技法です。(評価基準にあわないため劣等扱いされているけれども、実は能力的には有能であり、評価基準にとらわれないからこそ正規ではない奇策で物事を解決でき、それにより周囲からひたすら称賛を浴び、カタルシスが生み出されるというパターンのこと)。本作では有能だが「皇帝の意向」という評価基準にそぐわなかったため、剣奴に堕とされた主人公くんが、意表を突いた軍略で無双するというパターン。日本人は「寡兵をもって大軍を破る」が大好きだからね。私も大好きです。
  • ツンデレ姫騎士だけれどもくっころ展開はなくイチャラブ
    • 舞台設定は古代ローマ風な世界観。主人公くんは皇帝制度という、システムに逆らったため剣奴に堕ちた元・将軍です。コロッセウムでエルフの姫騎士と対戦したおり、反乱を誘って立ち上がります。奴隷反乱勃発です。この奴隷反乱だけでも1冊書けそうな気がしますが、サクッと逃げ出すことができ、物語は逃走篇がメインとなります。エルフの姫騎士には皇帝から呪いがかけられており、解呪のためには身体を重ねる必要があるという設定となっています。またエルフ姫騎士は、元・将軍の主人公くんと何度も対戦しており、その実力を認め合っているという関係です。これらの要素により、無理やり感をなくし、ストレスなく行為に及べるという技巧が凝らしてあります。
    • 本作の見どころは、最初からまんざらでもない姫騎士が解呪のためという大義名分を口実に身体を重ねていたのが、どんどんゾッコンになっていくというイチャラブ展開でしょうか?逃走準備のための拠点づくり・諸都市の奴隷解放による勢力結集・鎮圧軍を局地戦で返り討ち・最終大規模野戦と戦いが繰り広げられていきますが、イベントごとに濡れ場シーンが挿入され、少しずつ呪いが解かれていきます。最後は呪いが解かれていないフリをして帝国軍を油断させた後、実はもう解けてましたー⇒魔法でちゅどーん!というノリ。大勝利!
    • 一応、人物像の掘り下げとして、主人公くんの真名の由来や(大カトー・小カトー)や父親へのコンプレックスなどが描かれていますが、そんなに重厚なテーマにはならずあくまでもサクッとしている感じ。
    • それはそうと、脇役である主人公くんの腹心とエルフの別の部族の姫の情交や漫才が良い味だしてました。