【先行研究整理】コンテンツツーリズムとヘリテージツーリズムのあいだ

※作業中

私の問題意識は、歴史教育を試験をパスするための単なる手段や抽象的な概念操作で終わらせるのではなく、歴史を自らの現実と結びつけた上で歴史的諸能力を身につけさせることである。

それ故、文化財文化遺産を歴史資源とするヘリテージツーリズムに関心があるのだが、残念ながら一般大衆の人々で歴史に興味を持ってくださっている方は多いとは言えない。そのような中で、多くの人々に文化遺産に興味関心を持って貰える契機となるのがコンテンツツーリズムである。

よって、ここではコンテンツツーリズムとヘリテージツーリズムの関係、及び、コンテンツツーリズムにより文化財文化遺産の再発見・再評価が起こった事例の先行研究を集めていくこととする。

山村高淑「コンテンツツーリズムと文化遺産価値へのアクセス」(岡本健編著『コンテンツツーリズム研究〔増補改訂版〕』、福村出版株式会社、2019年、224-229頁)

  • この論稿の趣旨
    • ICOMOSの国際文化憲章を引用しながら、コンテンツツーリズムが地域の文化遺産を活性化する可能性を指摘している。
  • 社会一般の理解を得ることが重要
    • 「〔……〕文化遺産を活用したツーリズム振興とは、その文化遺産の保護・継承に向けた「ファン・サポーターづくり」なのである。〔……〕文化遺産を継承するための財政支援や、社会的支持や政治的支持を得るためには、社会一般の理解を得ることがきわめて重要なのだ。ツーリズムとは、文化遺産の重要性、保護の重要性を、専門家に対してではなく、社会一般、一般大衆に対して理解してもらうための重要な手段なのである。ツーリズムを手段として捉え、文化遺産の保護・継承のために、そうした手段をより積極的・戦略的に用いていく必要があるのだ。」(226頁)
  • 3つのアクセス
    • 「〔……〕①身体的アクセス(physical access)は、to experience、すなわち体感、実体験すること。実際に現地に赴き、そこで文化遺産を生で見たり、聴いたり、触れたりと物理的に体験するということである。続く②知的アクセス(intellectual access)は、to learn=学ぶこと。知識情報へのアクセスである。事前に書物やガイドブック、インターネットなどで当該文化遺産に関する知識を得たり、現地で案内やガイドによるインタープリテーションを通して知識を得たり、といった情報のアクセスである。そして③感性的アクセスは、to feel、つまり感じること。これは最も聞きなれない概念であるが、強いて近い義の日本語を充てるとすれば、その場所にいるということをしみじみと実感するという感覚、文化遺産に対する親しみや親近感、楽しさといった感覚であろうか。物理的な体験でも、知識情報でもなく、心で文化遺産の存在、その特質や価値といったものを「感じる」ことである。」(227頁)
  • 文化遺産に興味関心がない人々へのアクセスの提供
    • 「〔……〕知識や親近感を得たりするためには、現場以外でのアクセスもありうる〔……〕この点においては、インターネットによる情報公開やメディア作品における文化遺産のイメージ形成といった事項も非常に重要な課題となる〔……〕アクセスは、適切に、刺激的な形で、現代的な手法を用いて提示されるべきという。このことも、広く一般大衆に文化遺産の価値を理解してもらい、保護のサポーターになってもらうという観点から考えれば、その有効性に頷けよう〔……〕ツーリズムを通して文化遺産の価値を伝え、共感を抱いてもらう相手として、専門家やもともと対象に興味を持っている人々以上に、一般大衆、特にこれまでそれほど当該文化遺産に興味・関心を抱いていなかった層が重要になってくる。アニメ『けいおん!』を見たファンの多くが、豊郷小学校旧校舎群の文化遺産としての価値を認識し、その保護活動に理解を示して行ったプロセスは③のemotive access(※引用者註-「文化遺産に対する親しみや親近感、楽しさといった感覚」)面で、アニメを通して地域の文化遺産のファンを示していった好例である。」(228-229頁)
  • 地域振興研究から文化遺産研究へ
    • 「〔……〕アニメがきっかけとなって地域振興に結びついた地域に共通するのは、アニメをきっかけとして地域の歴史資源の再発見・再評価が行われ、それによって地域資源の再活性化が誘発されるというプロセスである。このあたりは今後、文化遺産研究の方面からもアプローチされてよいテーマである。」(229頁)

玉井建也「地域の歴史とコンテンツツーリズム」(岡本健編著『コンテンツツーリズム研究〔増補改訂版〕』、福村出版株式会社、2019年、222-223頁)

  • この論稿の趣旨
    • コンテンツが特定の地域を舞台としている以上、地域の歴史からは逃れられず、メディアと地域が双方向的・有機的に地域の歴史を作り上げてきた。
  • コンテンツとは一見すると関係なくとも地域自体の歴史が関係してくる
    • 「コンテンツツーリズムを中心とした物語文化は多面的に発展しており、メディア環境・歴史による影響だけではなく、舞台となった場所の地理的環境・交通状況、コンテンツ発信者・制作者の文化的背景が中心に存在し、さらにはコンテンツとは一見すると関係ないと見てしまう舞台となった地域自体の歴史も縦軸として関係してくるのである。」(222頁)
  • メディアと地域が地域の歴史を作り上げる
    • 「〔……〕作品自体が実際の場所を舞台としている以上は、その地域の歴史とは無関係ではいられない〔……〕メディア環境の変化自体が土地のありよう自体に影響を与える、つまりは土地の歴史として昇華されている事例が確認される〔……〕メディアと地域とは単に二項的に捉えられるのではなく、双方向的に関係しあい、有機的に結合しながら、地域の歴史を作り上げてきた。」

片山明久「『あの日見た花の名前を僕たちはまだ知らない。』ーコンテンツを契機とした常在文化の定着」(岡本健編著『コンテンツツーリズム研究〔増補改訂版〕』、福村出版株式会社、2019年、142-143頁)