『MUSICUS!』体験版Ver0.01「花井是清の自殺」の感想・レビュー

『MUSICA!』改め『MUSICUS!』。シナリオはほぼ一緒で色と音がついた感じ。
いつの間に改題したのかは分からないが、色がつくと結構雰囲気が変わる。
メインヒロインの三日月が致しているCGの印象が一番違うかもしれない。
それはさておきシナリオは2周目だが感想を書いておくこととする。
去年書いた感想はとりあえず振り返らずに、今の段階の雑感を述べる。
(去年のものはコチラ→『MUSICA!』体験α版 ver0.02の感想・レビュー - memo)
主題は「ドロップアウトしたアウトサイダー」と「音楽は絶対的か相対的か」。

1.ドロップアウトしたアウトサイダー

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  • 定時制高校から描けるもの
    • 最近の世間の風潮ですと、社会のレールから一度外れると這い上がることは難しく貧困の連鎖に陥ることがしきりに強調されており、社会不安が煽られています。給与生活者として正規採用となり終身雇用と年功序列賃金に依存して一つの会社で生涯を送る、それが現代日本の成功モデルとして語られています。しかしその成功モデルは一つのモデルにしかすぎず、それ以外の生活を送る人も存在するのです(そもそも小泉構造改革の時に新自由主義経済がとられた際に、従来の日本式雇用慣行のパラダイムは否定されましたしね)。成功モデルからドロップアウトしてしまったアウトサイダーたちを描く、これが本作の魅力の一つです。まぁロックンロールを扱う作品で、既存の社会秩序に迎合するものではないわな。
    • 主人公くんは有名私立進学校に通っていましたが、冤罪により退学、定時制高校に通うことになります。世襲の医者の息子として上流階級としての人生を順風満帆に送って来た主人公くんはここで自分の人生を見つめ直すことになるのでした。主人公くんの冤罪とは、性行為など一切していないのに、幼なじみの同級生を孕ませたという責任を負わされてしまったこと。未婚で妊娠した幼馴染を支え、励まし、優しく接していたら、いつの間にか自分が父親だとされていたのでした。それでも主人公くんは幼馴染のことを慮り、祖父を除いて周囲には一切真相を語りません。両親や相手側の家族は途中で察したらしく、父親としての認知などの責任問題とはなりませんでしたが、主人公くんのこれまでの人生を崩壊させるには充分でした。
    • 定時制高校ライフでは、様々な境遇の人物たちが出てきます。貧困家庭のため中卒でスーパーのレジ打ちをし夜には学問に励む少女、弟妹が多いため日中は子どもの世話をしなければならない家事労働ギャル、肉体労働をしながらも職場のすすめで定時制に通う兄貴分など多種多彩。定時制高校のメンバーではないのですが、メインヒロインの三日月もアルビノという容姿が原因で学校を辞めてしまい何もしていないドロップアウト組です。日本では成功モデルに乗れないことの恐怖をやたらと煽り、そこから零れ落ちた人々を負け組として嘲笑の対象としますが、悲哀や悲壮感だけではなく、力強さを感じとることができます。

2.音楽は絶対的か相対的か

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  • 作られた「物語性」に「共感」しているだけに過ぎないのか
    • 主人公くんは文芸賞で副賞をとったことからロックバンドのルポを以来され、足を踏み入れることになります。ここでのもう一人の主役が「花井是清」であり、偉大なるロックンローラーなのですが、性格は厭世的で、ロックに懐疑的です。花井是清がいつも述べるのは、絶対的な音楽というものがあるかどうか。はい、芸術モノではいつも主題となるテーマです。『サクラノ詩』は絵画についてですが、絶対的な美が存在するかどうか、主人公とヒロインで語り合う印象的なシーンがありますね。本作では、ロックバンドのライブの感動など作られたものに過ぎないと是清の口から語られるのです。是清のライブを見て感動した主人公くんは、是清の言葉を跳ね返すために足掻いていきます。バンドを解散し、ロックから引退した是清をもう一度音楽をやらせるために、今度は主人公くんがギターを取るのです。是清は主人公くんがギター、妹がボーカルをやるなら曲を書いてもいいと述べ、今までの最高傑作を作り上げます。猛練習に励み、もう少しで公開できるという所まで来ますが、ここで是清は自殺。呆然自失となる主人公と三日月でしたが、葬式で覚醒します。花井是清への鎮魂歌として、是清が作曲した歌を、三日月と共に演奏するのです。色がついた背景CGの中ではこの葬式会場が一番印象的かもしれません。是清の死の場面で、彼の遺作の音楽を、アルビノの妹が歌うという「物語」が、大衆の作られた「共感」を生んだのかもしれません。しかし、確かに遺体の前でロックを捧げる主人公くんと三日月には絶対的な音楽というものが存在していた!という所で、体験版は幕を閉じます。

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