松本陽介「その淑女は偶像となる」の感想・レビュー

挫折系主人公モノ。かつて人気アイドルだった少女が再起する話。
姫宮桜子はかつて人気アイドルだったが現在は業界から離れていた。
引退の理由は母親が死んだ直後にも関わらず笑顔で仕事をこなして叩かれたから。
桜子は今の自分は「狂っている」と認識し、自己の感情に恐怖を覚えたのだ。
だが桜子のトラウマを、元気モリモリ系アイドル:あるみが変えていく。
あるみのライブでアイドルとしての矜持に感化された桜子はついに復活を遂げる。

挫折系主人公の復活譚を読み切り1話で巧くまとめた作品


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  • アイドルであることに狂ってしまった少女
    • 姫宮桜子はお嬢様学校に通う気品溢れる淑女。しかしながら、その実態は脛に疵持つワケアリ少女だったのです。桜子はかつてバリバリのアイドルだったのですが、とある事情から業界を引退し、猫をかぶってお嬢様学校の日々をやり過ごしていたのでした。そんな中、かつて桜子がアイドルだったことを知る少女が転校してきます。その少女は元気モリモリ系な現役アイドルのあるみ。あるみは桜子をストーカーのようにつけまわし、一緒にアイドルをやろうと勧誘してきます。このあるみの一直線な様子が次第に凍てついた桜子の心を解きほぐしていくのです。
    • 当然、挫折系主人公モノであればなぜ桜子が挫折したかが気になるところ。桜子の挫折の理由は自らがアイドル業に狂っていることを自覚し、それに恐怖したからでした。桜子は母親が死んだ直後にもその悲しさを押し込めて、アイドル役を完璧にこなします。しかし親が死んでも笑顔を振りまく様子は周りの同業者に異端として見られ、マスコミにも感情の無いロボットであるとたたかれてしまうのです。親が死んでも笑顔を浮かべる子ども時代の桜子が「今の私は狂ってる」と述べるシーンは破壊力抜群です。

 

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  • 百合友情パワーによるトラウマの克服
    • こうした桜子のトラウマを、あるみは全肯定していきます。桜子の引退の理由を聞かされたあるみが熱弁をふるう「あるみ演説」は桜子が挫折から立ち直る最大の見せ場となっています。「桜子ちゃんは自分の「悲しい顔を隠してまで」「お客さんを笑顔にしたかった」ってことでしょ?〔……〕どんなショックがあってもファンに「笑顔を振りまく姿」は誰よりも人間らしいし私は誰よりもカッコいいと思う!」この一連のあるみの台詞は桜子の心を打ちます。今まで否定してきたアイドルとしての自分を自己肯定できるようになった瞬間でした。
    • そしてあるみのライブを見に行くことになった桜子。そこであるみがお客さんを笑顔にするために無理して複数回舞台に立っている姿を見ます。裏ではボロボロになりながらもステージで笑顔を振りまくあるみの姿を見て、ついに桜子は覚醒!疲弊するあるみの代わりに舞台に立ち、完全にトラウマを克服。かつて自分がアイドルをやっていた根本的な理由に回帰できたのでした「私はただ「誰かを笑顔にできる」存在になりたくてアイドルをやってたんだ」。こうしてライブを成功させた桜子は、これからあるみとアイドル活動をしていくんだ!というところで幕を閉じます。挫折系主人公が救済されてトラウマを克服するという一連の流れがアイドルを題材にして巧みに描けていた作品です!おススメ。

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