アマエミ-longing for you-(体験版)の感想・レビュー

挫折系主人公モノ。筆を折った芸術家が少女たちに支えられながら再生していく話。
主人公は若くして成功するが商業主義に走った結果、技能の向上は乏しく焦燥感を抱く。
ほぼ自滅するようなカタチでスランプに陥るが恩師の葬式で出会った娘に救済される。
恩師の娘を描いた渾身の一作は改心の出来となるが、師匠のパクリとされSNSで炎上してしまう。
娘は誤解だと主張するが私刑の矛先が彼女に向かったため主人公は記者会見をして断筆した。
それから数年後、非常勤の社会科教員になった主人公の学校へ娘が入学してくるのだ。
偶然再会した二人。娘は主人公に絵を教えて欲しいと頼み止まっていた歯車が動き出す。
絵を描くことがトラウマとなっていた主人公は娘に癒され再び絵を描く意志を持つ。

サブヒロイン枠「楠木いろは」と「来栖桜綾」

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挫折系主人公を救う無邪気なギャル
  • 陰キャを救うギャル「楠木いろは」
    • 本作の冒頭では主人公の中二病的な独白ポエムが連発されるので、まずそれについていけるかどうかでプレイヤーはふるいにかけられます。ようやくヒロインが出てきたと思ったら最初はギャル。このギャルが猫を連れて来たせいでアーチにペンキがかかり入学式のために描かれた絵が台無しになってしまうというのが最初のイベントです。ここで筆を折り非常勤の社会科教員となっていた主人公が憐憫により思わず絵画の修正・再構築を行ってしまったことで物語は動き始めます。体験版ではこのイベントスチルはありませんでしたが、主人公の人生を変えるきっかけとなる重要なイベントのはずですから、製品版ではちゃんと用意されるのであろうと期待されます。あるよね?この入学式のアーチ。青い桜の絵。この後、ギャルヒロインは賑やかし系ポジションとなり、「地学」で赤点を取ったので主人公から個別補習を受けるという流れになります。なぜ社会科系の教員に「地学」を教わるのかは謎。このギャルは興味がないから勉強できないだけで地頭がとても良いタイプ。さらにギャル的な率直さで駆け引きなどせず主人公にぶつかってくれるので、そこからトラウマ解放に繋がっていきそう。芸術方面に関しても楽しんで絵を描くことができるという強みを持っています。

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高慢で高飛車なウザいクーデレ
  • ウザ絡みクーデレ枠「来栖桜綾」
    • 次に出て来るのが高慢で高飛車な絡み方でしか他人と関わることのできないタイプの女。正直ウザいし好き嫌い分かれそう。「現役JK歴史小説作家」であることをウリにしていますがヒロインに下手な専門性を属性として付与するとシナリオが陳腐になるという欠点を抱えています。余程ライターの腕が良くないと「歴史小説作家」という属性を活かせること無く終わりそう。高校生活編では主人公に初めに目を付けた人物であり、原稿の感想を貰うことを口実として社会科準備室に入り浸っていました。古参アピールもかまします。しかし古参なのに主人公の過去を全く知らなくてメインヒロインはおろかギャルにすら遅れを取ることになるのです。コンセプトとしては「面倒くさい可愛い」系なのでしょうが、高慢な接し方しかできないウザ絡みが目立ちます。プレイヤーが辟易することを予想してか、作中のテキストでもそのムーブこそが可愛いのだという趣旨の内容をわざわざ婉曲的に注釈します(来栖桜綾の態度に対してメインヒロインの咲沙希からフォローが入る)。本作の主軸である絵画とは相性が悪く、合掌造りの建築物をスケッチに行った時も、一人だけ写生を放棄して資料館に行ってしまう始末。主人公の美術トラウマとどう向き合わせるのか。

 

メインヒロイン「明日咲沙希」

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主人公の理解者となる恩師の娘
  • トラウマを抱える主人公の自罰意識を赦し希望を与える少女
    • 最後にトリを飾るのが本作のメインヒロイン。主人公の恩師の娘。ピンヒロインモノを量産している「あざらしそふと」なのだから、このヒロインだけで良かったのでは?と思わなくもありません。流石にメインヒロインだけあってシナリオの質は高く主人公の過去のトラウマとそこからの再生が丁寧に描かれています。主人公は非常勤の社会科教員なのですが、それは世を偲ぶ仮の姿。その実態は若くして成功したものの早々に筆を折った芸術家だったのです。主人公は恩師の指導でメキメキと腕を上げるのですが、安易に商業主義に走ってしまい、売れた作品と同じような構図をただ量産するだけの装置に堕していきます。ある時友人の個展を見て自分は何ら技術的向上をしていないことに気付き愕然とします。これによりスランプに陥り苦悩するのですが、恩師の葬式で娘と出会い彼女の人物画を描いたことで救済されることになります。この人物画は改心の出来栄えとなり主人公は新たな境地に至ったのです。しかしこれは破滅への第一歩でもありました。なんと少女に贈った絵画は主人公のディーラーにより買い戻されオークションで転売されたのです。さらに師匠が同じ構図で描いた少女像も発見されることになり、主人公の渾身の作品は盗作と見なされてしまうのです。その上、このヒロインが誤解を解こうとすると、私刑の矛先は娘自身やその父親に向かってしまいます。これらを受けて主人公は記者会見を開いて頭を下げ引退を表明したのでした。
    • しかし主人公に絵を描いてもらった娘は主人公のことを覚えていました。いや、寧ろ離れていた間にその想いを募らせていたのです。それ故、主人公と再会すると是非指導をして欲しいと頼み込んで来ることになります。一度は無茶な条件(指導料100万円)をつけて断る主人公でしたが、少女は本気であり、金策のために泡に沈められてもおかしくない状況でした。こうして、熱意におされるカタチで指導者に就任。筆を折りトラウマを抱えるとはいえ、主人公の本能は根っからの芸術家。指導をしているうちに眠っていた血が騒ぎだし、もう一度絵画と向き合う時が来たのです。
    • 体験版の最後で、このヒロインは主人公に赦しを与えることになります。合掌造りの建築物の写生を行った後、美術館に行くのですが、そこには主人公が彼女に捧げた例の人物画と、盗作と見なされるきっかけになった同じ構図の恩師の作品が並べて展示されていたのです。さらに奥へと進むと成長に合わせたヒロインの人物画で満載であり、恩師は発表しなかっただけで死ぬまで絵を描き続けていたことが判明するのです。恩師が絵を描けなくった原因は嫁ぎ先が封建的な考えで家を優先させたためであり、それによりヒステリーになってしまったからでした。離婚後は送られてくる写真を見ながら娘の絵だけを描き続けていたそうな。この美術館での出来事はこれまでのトラウマを払拭するものであり、ヒロインに赦されることで再び筆を取ろうと再生されていく場面は体験版のハイライトにもなっています。

 

ジェネリックサクラノ詩』とその周辺

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社会科教員に「地学」を教わるギャル(地理の間違いでは?)
  • 断筆した芸術家である挫折系主人公が少女により再生されるというテーマをメタってくる作品
    • 体験版をやって『サクラノ詩』を彷彿としたプレイヤーも多いのではないでしょうか。いつまで経っても『サクラノ刻』が出ないからジェネリック商品が開発されてしまったぞ☆的なノリ。そのため本作に課される一番の問題は『サクラノ』シリーズとの差異性をきちんと示して、本作の独自性をちゃんと提供できるかにかかっているかと思います。「挫折系主人公の再生」という腐るほどある作品パターンの中でもよりにもよって「筆を折った芸術家」というコンセプトを取り、あの『サクラノ詩』と被せて来るのだから余程の勝算が無ければ厳しい。『サクラノ詩』についてはライターが本気で芸術を追究しようとしている心意気が感じられるのに対して、本作の場合はメインヒロイン以外の二人は「現役JK歴史小説作家」と「ギャル」という逃げ道ヒロインズという時点でちょっと危うい(メインヒロインで挫折の原因を克服し、他のヒロインでは代替の生き甲斐を探すというパターンでは『こんぼく』の匂いがします)。
    • あと主人公は社会科教員なのですが、(高校には社会科という教科など無く地理歴史科と公民科であるという細かいツッコミはさておくとしても)、なんで「地学」を教えるのかがとても謎。え、これって「地理」の間違いだよね?と思ったのだけれど、テキストは全部「地学」でした。「合掌造り」を見に行くイベントがあるのですが、各地域における家屋形態の特色ってやっぱり「地理」じゃね。

 

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メインヒロインによりトラウマを解放される主人公
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もう一度筆をとる気になる主人公
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2022年6月ゲー