中世ヨーロッパ史【2】中世ヨーロッパ封建社会 

1.封建社会の形成

(1)王権の弱体化と領主層の自立

  • ①王権の弱体化…外民族の侵入とカロリング家の断絶により王権が一気に弱体化。
  • ②領主層の自立
    • 大領主 →自力で外敵と戦い地域を防衛した諸侯・教会勢力(大司教・司教・修道院)
      • 領主裁判権……荘園内部の争いについて領主だけが行使する。国王に荘園の裁判権はない。
      • 不輸不入権…国王の官吏の荘園への立ち入り・裁判・課税を免れる。
    • 小領主 →騎士。騎兵の軍事的優位性により社会的地位が上昇。

(2)封建制 (起源;ローマ末期の恩貸地制と古代ゲルマンの従士制)

  • ①土地を媒介とした主従関係…主君が家臣の領土を封土として保護。家臣は軍事的奉仕の義務。
  • ②双務契約…中国西周封建制(血縁関係)とは異なり中世西欧は契約関係。主君が主従契約に違反したら従わなくても良い。複数の主君と主従契約を結ぶのが普通で外国人同士でも良い。
  • ③臣従礼…封建的主従関係を結ぶ儀式。封建家臣となる者が跪いて両手を主君の手の中に差し出す「託身」とそれに続く「誠実宣誓」がある。

(3)荘園の構造と農奴の義務

  • ①荘園の構造…領主直営地+農民保有地+保有地(入会地)
  • 農奴の義務
    • 賦役…直営地で領主のために無償労働(週2~3日。直営地の消滅とともに廃止)
    • 貢納…農民保有地での収穫の一部を領主に納める。(現物地代:生産物地代)
    • 結婚税…農奴の結婚による労働力(妻)の移動に対して金銭で補償。
    • 死亡税…農奴の死亡による保有権の世襲の代償(保有地の相続税)。
    • 十分の一税…毎年の収穫の十分の一を教会(教区司祭)に納める。(領主への賦役・貢納とは別)。

(4)中世ヨーロッパ封建社会に現代のような主権国家など存在しない。

  • ①現代における国家の三要素 → 主権・領域・国民
  • ②じゃあ中世の封建社会は!?
    • 荘園制を基盤とし網の目のような主従関係からなる
    • 国王の権力は契約した範囲内のみ。王領地を除けばきわめて限定的!
    • 明確な国境の内側に一律に主権が及ぶ領域国家は存在せず。

2.農業技術の革新と農村共同体の形成

(1)農業の発達

  • ①技術革新
    • 水車…中世ヨーロッパで普及。河川利用権を持つ領主は粉ひき人を雇って自ら野水車小屋で穀物をひくことを領内の農民に強制した。
    • 鉄製農具…半月鎌などの基本的な農具に加え、蹄鉄や重い犂など牛馬を用いた農工に必要な農具の製作が可能となった。
    • 重量有輪犂…アルプス以北の肥沃で重い土壌を耕すために開発された大型農具。幅広く深く耕すことが可能となった。犂は2~8頭の牛馬で引かれた。
  • ②三圃制…耕地を春耕地・秋耕地・休耕地にわけて3年で1巡する農耕利用システム。
    • 春耕地:大麦(オートミール、ビールの原料)・えん麦(馬の飼料)
    • 秋耕地:小麦・ライ麦(黒パン)
    • 休耕地:家畜を放牧して地力の回復に努める

(2)農業社会の変化

  • ①開放耕地制…重量有輪犂は方向転換が難しく、広い耕地が必要だったので、農民保有地の垣根は取り払われ、耕地は細長い地条となった。
  • ②集村化と農村共同体の形成←重量有輪犂やそれを引く牛馬の購入・維持は個人では難しく共同作業が行われため。
  • ③教会の装置…ミサや冠婚葬祭を行うことが共同体の結束を高める。

(3)大開墾時代

ヨーロッパ諸地域で開墾・植民運動が展開された12~14世紀頃の呼称。ドイツ及び東方地域、スペイン、南フランスなどで支配権の拡大を目指す封建領主が修道院を招いて推進した。

  • ①シトー派修道会…フランスのブルゴーニュにシトーが創設。清貧と労働を重んじ、12世紀以降大開墾運動の中心として西欧最大の修道会に発展。
  • ドイツ騎士団…第3回十字軍の際、1189年にアッコンで組織された。13世紀からはエルベ川以東の植民活動に拠点を移し、広大な騎士団領を形成した。

3.遠隔地商業圏の成立

(1)中世都市の誕生

  • ①10世紀以前、都市は未発達(農村の荘園を単位とする自給自足経済)。
  • ②11世紀、農業生産力の発展(余剰の増大)を基盤に、ムスリム商人やノルマン人の商業活動に刺激されて定期市から都市が成立。
      • 市の開催…農業生産力の向上による余剰生産物の交換の場。司教の所在地や城館の周辺で開かれる。
      • 市に定住…11世紀以降、遠隔地商業が成立し交易量が増大したことから。→中世都市の誕生。広域的な貨幣経済の成立。
  • ③商業の復活…ベルギーの歴史家ピレンヌの学説。イスラーム勢力の進出により衰えていた商業活動が11世紀~12世紀に再興隆したことを指す。

(2)ヨーロッパの交易圏

  • ①地中海商業圏(中心都市;ヴェネツィアジェノヴァ・ピサなど)
    • 東方貿易(レヴァント貿易)
      • 地中海東岸地方に送られてきたアジアの物産品を北イタリア諸都市がヨーロッパ各地に運んだ貿易。
      • レヴァントとは「太陽の昇るところ」を意味し、コンスタンティノープルからエジプトに至る地中海東岸を指す。
      • 胡椒などの香辛料や絹織物・宝石といった工芸品を北西ヨーロッパへ独占的に運搬した。
  • ③交易圏の通商路
    • シャンパーニュ地方…12~13世紀、トロワなど4市で国際的な大市が開催されたフランス東北部。毛織物や香料、革製品やブドウ酒などの中世最大の商品集積地であると同時に、為替などを扱う金融市場でもあった。
    • アウクスブルク…ドイツ南部の都市。銀・銅山と交易で繁栄し、15~16世紀、フッガ-家によりヨーロッパ金融業の中心となった。
  • ④毛織物工業
    • フランドル地方…オランダ・フランスの一部を含む今日のベルギーを中心とした地域。毛織物産業を中心に西ヨーロッパの経済先進地域として繁栄した。ガンやブリュージュなど。
    • フィレンツェ……イタリア中部トスカナ地方の中心都市。13世紀以降、遠隔地貿易に加え毛織物業と金融業で繁栄した。15世紀以降メディチ家の下でルネサンスの中心地となった。

4.中世都市の発展

(1)中世都市の成長

  • 自治権の獲得…中世都市は司教や諸侯などの領主支配を受けていた。→代表機関をつくって自力で領主権力を排除。皇帝・国王から特許状を獲得。
  • コムーネ
    • 北部・中部で成立した自治都市。12世紀頃より都市貴族が中心となって領主を打倒し、周辺農村をも支配する事実上の領域国家を建設した。フィレンツェジェノヴァなどが代表的。
  • 帝国都市
    • ドイツ皇帝直属の自治都市。13世紀頃より特許状で裁判権などを認められ、諸侯と同等の地位を獲得した。

(2)都市同盟

都市同盟は中世諸都市が商業上の利益や特権を守るために結成した連合組織。中央主権が弱体なドイツやイタリアにおいて皇帝や封建領主に対抗する目的で成立した。

(3)ギルド

ギルドとは11世紀以降、中世都市で結成された利益を同じくする商工業者の組合。相互の利益を守るため、自由競争を認めず、厳しい規制のもとで市場を独占した。

  • ①商人ギルド
    • 商業利益や商人相互扶助を目的として、主に遠隔地貿易に従事した大商人からなるギルド。各都市における自治権獲得の中心となり、その後は市政を掌握した。
  • ②ツンフト(同職ギルド)
    • 手工業者の親方たちによる同業組合。都市内の職人を組織化して商人ギルドに対抗した。構成員は経営者である親方・職人・徒弟の三つの階級に分かれ、厳格な徒弟制が敷かれた。
  • ツンフト闘争
    • 13世紀以降、同職ギルドの親方たちが、市政への参加を求めた争い。市政を独占していた大商人に対して結束してたたかい、多くの都市で一定の勝利を勝ち取った。
  • ④都市における被差別民
    • ユダヤ人はイエスを死に追いやった民の子孫として憎悪の対象となった。

(4)大商人

  • メディチ家
    • 15~18世紀、イタリアのフィレンツェを支配した大商人の一族。「国の父」とされるコジモ(1389-1464)の時代にヨーロッパ有数の銀行業者に成長し、実質的な君主となった。
  • フッガー家
    • 南ドイツ、アウクスブルクを本拠地とした大財閥。織布業と香辛料貿易から始まり、銀・銅鉱山の開発、銀行業によってヨーロッパ有数の大富豪となった。

(5)「都市の空気は自由にする」

  • 中世自治都市をあらわすドイツのことわざ。荘園に隷属していた農奴が都市に1年と1日居住すれば、都市法によって自由身分を獲得するとされた。

5.封建社会の解体

(1)貨幣経済農奴解放

  • 賦役から貨幣地代への転換
    • 貨幣経済が浸透すると領主は賦役の代わりに直営地を貸与し地代を徴収するようになる。
  • ②余剰生産物の蓄積
    • 地代の場合、賦役とは異なり農民が余剰生産物を蓄積することができる。
  • 農奴解放
    • 貨幣経済下において荘園経営に行き詰まった領主に対し、農奴の中には余剰生産物の蓄積で得た解放金を支払い自由農民となる者が出現。
  • cf.イギリスの場合
    • 貨幣経済の浸透が早かったので、農奴身分から解放された独立自営農民(ヨーマン)がジェントリ(地方地主)と農奴の中間に位置する中規模農民として、社会の中核を担う。

(2)人口減少と農民の地位向上

  • ①ペストの流行と戦乱により人口減少。深刻な労働力不足により農民の地位が向上。
  • ②封建反動…農民の地位向上と貨幣経済の浸透による「領主制の危機」に対して困窮した領主層が賦役の復活など封建的諸権利を再強化しようとする。
  • ③農民一揆…封建反動で生活を圧迫された農民が起こした反乱。黒死病の流行や百年戦争の混乱が助長し、中世末期の西欧で頻発。有名なものとしてはフランスのジャックリーの乱やイギリスのワット=タイラーの乱がある。

(3)諸侯の没落と王権の伸張

  • ①領主の没落…荘園制の解体、戦術と兵制の変化(火器と歩兵の重視)に伴って騎士階層は経済的・軍事的な優位性と王に対する自立性を失う。所領を手放して傭兵となったり、国王の宮廷に仕える役人(廷臣)になったりする。
  • ②王権の伸張…家系の断絶した家臣の所領を王領地に編入して権力を伸ばす。
  • ③大商人の台頭…領主が手放した所領を買収、国家の官職を得て王権を支える新支配層になる。

①~③の要因により荘園制を基盤とする封建制は解体へ向かった。