2020年7月発売新作ノベルゲームは何を買ったらいいですか!?

フルプライスゲーが減り少数ヒロイン廉価分割が増えてきたことをひしひしと感じる2020年7月。体験版をやったなかで一番面白かったのは『現実が見えてきたので少女を愛するのを辞めました。』です。一見すると炉利ゲーなのですが実質的には家族ゲーであり、孤独に疲れた男性が家族を求めて奮闘し父性愛を求める子ども達との複雑な関係を構築していく内容となっています。

その他、自分がTSっ子になって「ボクかわ」する変わり種の『朝にゃあ』やシュタゲ-オカリン系中二病が頑張る『リトルシックガール』などもそこそこ面白かったです。

あまり受け入れられなかったのは、バブミ癒しゲー。バブミモノは労働と切っても切り離せないため、ライターの労働観の押し付けを読まされることになり辟易してしまいます。社会人の労働観を扱う作品は難しいなと思いました。

最後に分割グリザイアPT-vol.7について。グリザイアPTは決してつまらなくは無く、ある程度面白く読めるのですが、分割版はキャラ集めに過ぎず同じようなパターンの繰り返しと説教臭さが鼻につき、グリザイア三部作と比べるとどうしても見劣りがする感じがしていました。しかし、vol.7はようやく全キャラが揃って物語が動き始めそうです。キャラ集めに7本もかけたのだから、大団円を迎えて欲しい反面、これだけのキャラを使ってきちんと見せ場を作って風呂敷を畳めるのかとの懸念も残ります。

『現実が見えてきたので少女を愛するのを辞めました。』 (かえるそふと) (2020-07-31)

炉利ゲーの皮を被った家族ゲー。主人公は第一線で活躍していた有名炉利系同人作家でしたが、孤独に耐えかねて脱オタを決意。婚活パーティーに参加し、そこで主人公のことを受け入れてくれるバツイチの御婦人と出会うことになります。しかし相手の女性は子持ちであることを隠していたのです。主人公は御婦人の家庭に転がり込み、一家での生活を始めますが、自己の性癖が主人公を苦しめます。相手の女性は人格的に素晴らしいのに、性欲の対象としてみることが出来ず、自分は子どもたちの父親にならなくてはならないのに、子ども達に下卑た感情を抱いてしまい、良心の呵責に苛まれるのです。子ども達や御婦人の妹は父親像に対し父性愛や憧れや嫌悪を抱いており、彼女等と真摯に向き合い関係を構築していくことがシナリオの主眼となっています。また御婦人が何故主人公をこんなにも信頼しているのかも最大の謎として残されており、注目されるポイントとなっています。

『朝起きたら美少女になってたボクにお願いがあるんだって? しょうがないにゃあ‥いいよ。』 (娘。) (2020-07-31)

TSモノ。主人公が女装したり、男友達がTSしたりするのは結構有り勝ちな展開ですが、本作品は主人公自身がTSしてカワイイ女の子になり男友達から攻略されるという乙女ゲーにも通じるような設定になっています。作品のコンセプトは兎に角「ボクかわ」。かわいい女の子になりたいという願いを具現化したものとなっています。ただし「バ美肉」のようにオッサンが女の子になるのではなく、もともと女の子っぽかったショタがTSするので注意が必要です。内容としては仲の良かった男友達との肉欲が主軸であるため、突如女の子になってしまったので嬉し恥ずかし女の子体験とかはカットされています。この辺ももう少し上手く処理すれば、抜きゲーの枠を脱皮できたのではないかと思われるのでした。女の子になりたいTS志願者たちには是非プレイして感想を聞かせて欲しい作品です。

『Little Sick Girls ~桃蜜は妹の香り~』 (Lass Pixy) (2020-07-22)

ハイパー中二病タイム。コミュ障でキモヲタだが義理人情に厚いナイスガイな主人公像。その実態は、シュタゲのオカリン系中二病(攻略ヒロインのためにわざと中二病やってるというパターン)。主人公は幼馴染の妹後輩であったヒロインに欲情してしまったことに絶望し、それ以降、汚さぬようにと遠ざけてきました。だからこそ中二病として振る舞い、妹後輩に対しても素っ気ない態度をとってきたのです。しかし妹後輩も主人公に対して欲情しており、お互いがお互いを思うが故にすれ違ってしまうという切ない状態になっています。とりわけ丁寧に描かれているのが「幼年期の終わり」。かつては男女という性差抜きに楽しい時間を過ごすことが出来ていた関係性が、第二次性徴を迎えることで終わってしまったという寂寥感が味わい深いです。基本路線はバカギャグ系の抜きゲーなのですが、それだけでは終わらないポテンシャルは秘めていそうな作品です。ピンヒロイン低価格モノなのでどこまで戦えるかも着目されます。

『Re CATION ~Melty Healing~』 (hibiki works(暁WORKS響SIDE)) (2020-07-22)

2020年7月発売バブミ系作品その1「主人公の無意味なガンバリズム」。バブミ系作品というジャンルは仕事で疲弊した主人公とそれを癒す女性というジェンダー的な構造をはらんでおり、労働と人生を描く以上シナリオ表現が難しいため、ライターの手腕が問われることになります。つまりはライターの労働観の押し付けになりやすいのです。本作品の場合は、主人公の「無意味なガンバリズム」を延々と読まされることになり辟易してきます。本社から支社にやってきた主人公はプロジェクトのリーダーを任されて意気揚々となるのですが、クライアントから納期のムチャブリをされます。この案件は断っても問題は無いものでしたが進捗管理を行う上司はイキナリ蹴るのではなく、主人公の顔を立てて話を振ってくれます。しかしこの話を聞いた主人公はなんとムチャブリを飲んでしまうのです。現場は大混乱となりプロジェクトチームは大わらわ。主人公だけが苦労するのならそれでいいのですが自己の見栄の為に全体に迷惑をかけるという大失態を晒してしまうのですね。それにも関わらず、頑張る俺カッケー的な風な演出であるため、ウィンドウを閉じたくなることしきり。またヒロインたちとのフラグ構築も粗雑であり、徐々に関係を積み重ねるのではなく、いきなりズケズケと図々しく距離感を詰めて来るので、段どりズムを尊重する人々は合わないかもしれません。そして原画師のおりょうさんのキャラデザって顔がほぼ一緒。

『ヒーリング・デイズ ~年の差彼女との甘々生活~』 (とこはな) (2020-07-31)

2020年7月発売バブミ系作品その2。「他者受容願望による自己有用感」と「誰かの役に立ちたいという自己満足」が展開されます。攻略ヒロインはスーパーのお惣菜コーナーのオバチャン。未亡人な元看護師で娘は留学中ということから22で子ども産んでても40以上というBBAっぷり。本作品ではライターによる労働観の自分語りが著しく、オバチャンがひたすらそれをヨイショするという構造を取っています。主人公は地元にUターンして工務店の営業になったリーマンなのですが、地元の人々の役に立っている俺カッケー的な労働意識を持つ人物です。しかも本質的には自己満足であり、誰かに褒められる自分ではなく自分で自分を褒められる行いをすることに美意識を持っているのです。しかしながら、完全なる自己満足では自己完結できないため、それを承認するポジションとして攻略ヒロインがいるという構図。攻略ヒロインが40代のオバチャンという時点で他の作品とは差別化できているのだから、変に労働観とか入れないで、ババアならではのフラグ構築で十分魅せられたのではないかと感じられます。