倫理 源流思想【4】古代インド

1.バラモン教

1-1.古代インドの社会と思想

  • 輪廻と業
    • 輪廻:人間がさまざまなものに生まれ変わりながら、無限に生死を繰り返すこと。
    • 業:人間の生存中の行為(結果をもたらす力を持つとされる)

1-2.ブラフマンアートマン

  • ウパニシャッド哲学
    • バラモン教は当初、祭祀中心 →奥義書ウパニシャッドで教義が整備
    • 輪廻からの解脱を目指す → 梵我一如で解脱できる!
      • →輪廻の循環から解き放たれ、生死を超えた絶対の境地に至る在り方
  • 梵我一如とは何か?
    • ブラフマン(梵):宇宙のあらゆる現象の根底にある、宇宙を生み出している不変・絶対の真理のこと
    • アートマン(我):すべての生き物の中にある何に生まれ変わっても変化しない自己
    • 梵我一如:自身の奥底にある不変の自己は、宇宙の絶対の原理と同一であること。

1-3.バラモン教への反発

  • バラモン教の権威低下 ←経済発展による王侯・商工業者の権力強化
  • 六師外道の登場 
  • 仏教の誕生
    • バラモン教批判が起こり、自由思想家たちの興隆の中で仏陀も教えを説き始める。
    • 快楽主義や苦行による解脱の立場の両極端を退け、中道による解脱を目指す。

2.ゴータマの登場

2-1.悟りへの道

  • ゴータマの登場
    • 釈迦族の王子だが生・老・病・死の苦悩
    • 苦しみの繰り返しである輪廻の輪を断ち切って、永遠の安らかな命を得るには?
    • 出家し、苦行するも失敗。苦行の無意味さを自覚し、瞑想によって悟りを開く。

2-2.縁起の法

  • ゴータマが悟った2つのこと。
    • この世の苦の原因:無明
    • 苦を取り除く方法:四諦と八正道の教え
  • 無明とは何か?
    • この世の苦しみは、無明(=「縁起の法についての無知」)から起こる。
  • 四苦八苦…この世界は完全な満足の得られない世界である
    • 生:この世に生まれた(生)がゆえに、
    • 老:年をとり(老)、
    • 病:病を受け(病)、
    • 死:死の苦しみ(死)を経験しなければならないということ。
    • 愛別離苦:愛する者とはいつかは別れねばならない
    • 怨憎会苦:いやな相手と出会うことも避けられない
    • 求不得苦:望んだものが手に入らない
    • 五蘊盛苦:五蘊(身体・精神の5要素)の活動そのものが苦しみ
    • 一切皆苦!=何事にも永遠不変の満足が得られないこの世は、苦に満ちた世界
  • なぜこの世は苦しみの世界なのか? → すべての物事は永続しないから!
    • 諸行無常:すべては生滅変化し続けており、常住不変なものは一つとして存在しない
    • 諸法無我:人間の中にも事物にも、不変な実体としての我は存在しない。
  • 縁起の法
    • この世に独立不変なものは存在せず、全ては一定の条件・原因により起こる
      • 法(ダルマ)とは仏教用語で「真理」を表す。
  • 人間は苦しみから逃れられないのに、不死や永遠を願っているので矛盾しているから苦しい

2-3.悟りの境地

  • 一切の苦の根源=縁起についての無知=無明 
    • 我執:人間はただの5種類の構成物(五蘊)であることを知らず、永遠不変な実体として我が存在すると執着する心
    • 煩悩:様々な迷いの心。貪(むさぼり)・瞋(怒りや憎しみ)・癡(愚かさ)を三毒という。
  • 苦しみを断ち切るには? 煩悩や我執を断ち切り縁起の法を正しく知る
    • 涅槃寂静!迷いも苦しみも消えた涅槃の世界に至ること。
  • 四法印仏陀が悟った4つの真理 
    • 一切皆苦…永遠を求めて不変を願うので全ては苦しみとなる
    • 諸行無常…全ては移り変わり、常住不変なものはない
    • 諸法無我…全ては相依相関、永遠不変な実体は存在しない
    • 涅槃寂静…正しい知恵で縁起を悟り、涅槃に達する。

2-4.四諦と八正道

  • 無明を克服して、縁起の法を悟れば、涅槃寂静に至れる!
    • では、どうすれば縁起の法を悟れるのかな?
      • 四諦を深く見つめて中道をとる。 中道の具体的な実践方法を八正道という。
  • 四諦
    • 苦諦…人生は全て苦である
    • 集諦…苦の原因は我への執着を捨てることである。
    • 滅諦…執着を離れて苦を滅すことが悟りである。
    • 道諦…悟りのためには八正道が必要である。
  • 八正道
    • 正見:正しい見解
    • 正命:正しい暮らしぶり
    • 正思:正しい思考
    • 正努:正しい努力
    • 正語:正しい言葉
    • 正念:正しい心くばり
    • 正業:正しい行為
    • 正定:正しい精神統一

2-5.慈悲の心

  • 慈…他者に利益と安楽をもたらそうと望むこと
  • 悲…他者の不利益の苦を取り除こうと願うこと
  • 自己の魂の平安と、すべての生命あるものへの奉仕が一致するところに、人間の理想の在り方を見た。

3.大乗仏教上座部系仏教

3-1.部派仏教

  • 仏陀死後、教団は分裂
    • 上座部仏陀の言行に忠実に従おうとする。
    • 大衆部…仏陀の精神を重視する。
    • さらに分裂し様々な派閥を形成→部派仏教
  • 阿羅漢とは?
    • 修行を完成し、世の人の尊敬を受けるにふさわしい人物。上座部の理想像。

3-2.大乗仏教

  • 大乗仏教の理論
    • 仏陀の言行の精神は、利他(すべてのものの解脱を目指す慈悲。他者の救済)
  • 一切衆生の救済を目指して修業する菩薩の在り方が理想。
    • 一切衆生…生きとし生けるもの全てのこと。
    • 菩薩…慈悲(利他行)を実践する。自己の解脱より、世の人々に尽くす修行者。
  • 空の立場に立ち、六波羅蜜の実践を通して、他者の救済と自己の悟りを目指す。
    • 空…すべて存在するものは固定的な不変の実体を持たないということであり、縁起を深化・発展させたもの。ナーガールジュナが空を哲学的にまとめた。
    • 六波羅蜜大乗仏教の求道者が実践すべき六つの徳目。
      • 布施…他人に施しをあたえること。
      • 精進…一心に修行にはげむこと
      • 持戒…戒律を守ること
      • 禅定…精神を統一し、散乱させない
      • 忍辱…恥辱や迫害を耐え忍ぶ
      • 般若(智恵)…真実を悟って迷いをはなれる

3-3.ナーガールジュナ

  • ナーガールジュナの主要思想
    • 無自性…すべての物事は、相互に依存しているだけではなく、それ自身として固定的に存在するのではないということ。
    • 一切皆空(五蘊皆空)…人間存在を構成する5つの要素は、いずれもそれ自体として独立した不変の実体ではなく、他のものに依存して存在するにすぎないということ。
    • 色即是空/空即是色…物質(色)は、それ自体固定化した不変の実体を持たない空である(色即是空)。同時に空は何も無い空虚ではなく、様々な条件・原因が集まり物質(色)として現象する(空即是色)。世界の様々な現象の中に生きながらも、それらを固定的なものとみて執着の対象としてはならない。
  • ナーガールジュナの思想による影響→煩悩や苦行も固定的でない=凡人も仏に!!
    • →自己の悟りと他者の救済にへだてを設けない慈悲につながる
    • →すべての生き物に仏性(仏となる可能性)を認めることにつながる

3-4.アサンガ、ヴァスバンドゥ兄弟

  • 唯識思想…世界のすべての事物の実在性を否定し、もののあらわれは根源的な唯一の実在である心の表象に他ならないとする思想。
    • 例:同じ川でも、ある人には清流とうつり、罪人には火の川としてうつる。すべての物は心によって生み出された表象。
  • 阿頼耶識唯識派の根本的原理。あらゆる現象を生み出す心の働き。
    • すべての外界の現象を阿頼耶識に転化し、万物が心の現われだと悟れば、迷妄の世界は消失する。

4.無差別平等の思想

  • 人は誰でも生・老・病・死の苦悩 → 人間はすべて等しく救済される必要性
  • 無差別平等の慈悲
    • 仏教の信者になるには?三宝の帰依を表明するだけ(…と清水書院の教科書にはある)
      • 三宝…仏・法・僧
      • ※帰依…その神や仏などの教えを絶対に信じ、自分を任せること。
  • 希望すれば誰でも五戒を受け修行の道へ。
    • 不殺生戒(ふせっしょうかい):生き物を殺してはならない
    • 不偸盗戒(ふちゅうとうかい):盗みをしてはならない
    • 不邪淫戒(ふじゃいんかい):性欲におぼれてはならない
    • 不妄語戒(ふもうごかい):うそをついてはならない
    • 不飲酒戒(ふおんじゅかい):酒を飲んではならない