雑録

アニメ版『この世界の片隅に』を見た感想

戦時下における呉に嫁いだ女性の銃後生活を描いた話。
原作漫画は読んだことがあったが、アニメ版は未読だったので履修した。
朝日遊郭の話がアニメ本編では丸々カットされてしまっているのが驚きであった。
原作ではすずと周作がそれぞれ過去の男女関係に囚われていたことが主題の一つだったのに。
アニメ版ではすずと水原哲との関係しか描かれず周作の遊郭通いは捨象されてしまった。
文化庁の助成を受けている作品で遊郭を扱うことは難しかったのだろうか?
周作の不義理とすずが代替措置としての女性であるという背景が原作の根幹にはある。

原作ではすずと周作が決して純粋に仲睦まじい夫婦というわけではない

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  • すずと周作はお互いに過去の男女関係に囚われている
    • 【1】アニメ版では過去の男女関係についてすずサイドしか描かれません。海軍に入り青葉の乗組員になった水原。日常とはかけ離れた軍隊生活に摩耗した結果、幼馴染のすずに縋って嫁ぎ先である北條家へやってきます。北條家では人妻であるすずに対して水原が必要以上にベタベタとし、すずも普段は見せないような気安い表情を見せるのです。相手が軍隊である以上、周作も拒否することができず、せめてもの抵抗として納屋の二階に寝てもらうくらいしかできません。すずの過去における男女関係を見せつけられた周作は、積もる話もあるだろうと気遣うそぶりを見せながら、すずにアンカを持っていかせるのですが・・・なんと玄関に鍵をかけて締め出してしまうのです。ntr展開。それ以来、すずと周作の間には疑心暗鬼が募っていくのでした。
    • 【2】そしてアニメ版で捨象されてしまった周作サイドの問題について。すずと水原哲のみだと、過去の男に走ったすずとそれに嫉妬した周作というニュアンスが強くなってしまいます。しかし問題は周作の過去の女性関係の来歴にもあったのです。すずの縁談は突如舞い込んできます。周作がすずを選んだことについてはアニメ版でも理由が分かるのですが、そもそもなぜ周作はそんなに急に結婚しなければならなかったのでしょうか。この背景に周作の遊郭通いがあったのです。アニメ版では単にすずが迷い込み、上陸した水兵の遊興施設となっていた描写としてしか表現されなかった朝日遊郭。しかし漫画版では周作が娼婦にひっかかり遊女に熱を上げていたエピソードが語られるのです。つまり娼婦を身請けするよりはきちんとした一般女性と結婚した方がよいとの配慮が北條家にあり、それで婚姻が急がれすずが選ばれたという理由があったのですね。そして漫画版ではすずが周作の過去の女性関係を知ってしまい、自分が代替措置としての女という事実に気が付くのですね!!!この周作と遊女の関係が、戦時下の空襲による呉の崩壊を一層悲壮的にしているのです。
    • 【3】アニメ版はそんなことは全くスルーされ、不発弾の爆発ですずが目の前で姪を亡くし、自らも右腕を無くしてしまうことがクライマックス。流れとしては戦時下の呉における銃後の生活、空襲による悲劇、敗戦の衝撃が描かれていき、最後に捨て子を拾って戦後復興を予期させるような感じで終わります。何か原作のアクの強さが取り除かれ、道徳や国語の戦争教材として仕上がったようなノリでした。

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