2020年9月発売新作ノベルゲームは何を買ったらいいですか!?

皆さま、お疲れ様です。今月もノベルゲーム業界の一端を見ていきましょう!

2020年9月発売のフルプライス部門における主要作品は4本です。本命はきゃべつそふとの『さくらの雲*スカアレットの恋』。タイムスリップ×推理ゲーで大正時代に過去跳躍し歴史の歪みを修正するためループを繰り返します。対抗は同じく推理ゲーであるCabbitの『鍵を隠したカゴのトリ -Bird in cage hiding the key-』。殺人犯を自称する幼馴染を救済するべく事件の真相に挑むミステリー。さらに主人公が抱える祖母の痴呆症問題が丁寧に描かれておりグッときます。三番手となるのがまどそふとの『ハミダシクリエイティブ』。いつものキャラゲーかと思いきや学校生活における閉塞感と不登校の問題を上手くシナリオに組み込んでおり陰キャぼっち主人公の奮闘が描かれ中々好印象。大穴となるのがLaplacianの『白昼夢の青写真』。オムニバス形式の作風で3つのシナリオを読むことで真・ヒロインを救済するという構図になっています。個別の3シナリオがグランドエンドの為の単なるパーツに過ぎない問題をどのように克服してくるかに期待が持たれます。

以下、体験版個別評。

『さくらの雲*スカアレットの恋』

9月の本命作品。大正時代にタイムスリップした主人公が元の時代に戻る為に歴史の歪みを修正することが求められます。主人公は探偵事務所に居候し、舞い込む事件を解決しながら大正時代に順応していきます。冒頭の推理パートや日常描写は退屈な側面もあるのですが、途中から超展開となり歴史修正合戦に突入します。史実の知識を有するのは主人公だけでなく敵キャラも同じであり、敵キャラが自分の都合の良い歴史に作り変えようとします。歴史が歪んでしまったら主人公の負けでありその世界線は廃棄されることとなります。主人公に与えられている手段はタイムリープしたてのゼロ地点の自分に電報を送れるというもの。因果律によって送れる文字数が変化。これをヒントに歴史の歪みを修正できるかがテーマとなります。物語の読者は体験版の時点では主人公と同じくn+1周目の視点でスタートしますが、n+2周目からは主人公が記憶リセットされるのに対して読者は知識を保有しているため、それをどのようにシナリオ攻略に活かせるかがポイントになります。ライターの過去作マジチャミやアメグレと同じような作風ですが、本作は日本史全体の知識と絡めてきているため世界観や視点が大きくなっているので、それをどう処理するのかにも注目です!


『鍵を隠したカゴのトリ -Bird in cage hiding the key-』

殺人事件の犯人だと自供する幼馴染:透子を救う話です。透子ゲー。主人公は幼少期に家庭問題を透子に救われたため一生モノの恩義を感じていました。透子は証拠不十分で釈放されるのですが、私刑のかたちで邸宅に幽閉されることとなります。透子以外の出入りは自由なため、主人公は透子と同居し、その生活を支えることとなります。主人公を含め攻略ヒロインズはワケアリ少女ばかりで救いを求めて邸宅に集まってきます。すなわち透子を幽閉する監獄でありながら世俗の苦しさから逃れるためのアジール的な空間でもあるわけです。ワケアリヒロインたちの問題を解決するなかで殺人事件の真相に迫り透子を解放するという流れになるのでしょう。おそらく。多分。個人的な話なのですが、主人公の祖母の痴呆症のエピソードが私には突き刺さりました。お婆ちゃんっ子であり、祖母に対して多大なる恩義を感じながら、ボケて行く祖母に対して何もできない無力感。結局、病院に入ることになり、もっと早く入れていたら痴呆症の進行を緩やかにできたのではないかという悔恨。介護疲れから解放されて安堵を感じてしまう罪悪感。何年もの間一緒に過ごしてきた自分の顔すら忘れ、20年以上前に死んでしまった祖父のことばかり話すことについての複雑な感情。祖母が痴呆症になったのは自分を引き取ったことの心労から来たのではないかという自罰意識。そういった痴呆症を抱える介護者の心情が描き出されておりグッときました。

『ハミダシクリエイティブ』

9月の単穴となるのが『ハミダシクリエイティブ』。まどそふとが作るいつものキャラゲーとは一味も二味も違います。「ハミダシ」とは学校生活に適応できない不登校児たちを表しており、他者とは異なる才能を持っているが故に排斥されるぼっち系コミュ障ヒロイン達が揃っています。主人公は凡人であり理不尽にも生徒会長に任命されてしまうのですが、イモウトの単位と出席日数のために立ち上がります。スクールカーストや集団意識という学校生活の生きづらさがテーマになっており、中二病気味な主人公が奮闘していく姿がアツくなります。体験版では生徒会メンバーに引き込んだヒロイン達と他校との交流会に臨むのですが、ソッコーでヒロインズがトラウマ発動してしまうなかで主人公が必死でカバーしていく展開が燃えます(あくまでも個人的な感想)。そして特筆すべき点として、攻略ヒロインのひとりにわざと読者に不快感を抱かせるキャラが用意されていることが挙げられます。私もライターの術中に嵌って見事にヘイトを募らせてしまいました。このようなキャラをどのように掘り下げフラグ構築するのかも見ものとなっています。個人的に期待しています。

『白昼夢の青写真』

作品よりもライターの方が前に出てくることで有名なメーカーの作品です。本作はオムニバス形式をとっており、文学/芸術を扱う現在・過去・未来の時間軸の話がそれぞれ用意されており、それらを読み進めていくなかで世凪という真ヒロインを救済するという構造です。この構造は過去に某有名作品が既にやっているため二番煎じに過ぎず、さらに各個別シナリオがグランドエンドのためのパーツに堕するという欠点を持ちます。つまり各ヒロインの魅力が半減されてしまい、真ヒロインを描く為だけに用意されたと存在になってしまうのですね。この問題を如何に克服するかが、ライターに課せられている課題です。一体ライターはどのようにこの問題を処理して読者に提示してくれるでしょうか?手腕が問われています。個人的な予想は以下の通り。個別シナリオは1周目ではバッドエンドに終わってしまうのですが、各個別ルートによって真ヒロインが覚醒。ハイパーアルティメット世凪になり個別ルートの悲劇を救うという展開になるのではと予想しています。まぁテキトーな推測なので外れることを祈っています。とにもかくにも個別ルートを統合するグランドエンドという難しい問題をライターがどのように解決するかで、歴史に名を残せるどうか変わってくると思います。

『月の少女 -美娼女学園2-』

抜きゲー。分割商法の2作目です。一見すると表向きは厳格な宗教系の学校なのですが、実は政財界の有力者のために少女達に性技を仕込んで出荷するという裏面も持ちます。第2作では枕営業を断ったために仕事を干されてしまったアイドルがヒロインとなります。勝ち気でワガママな女に自ら奉仕する精神と技能を仕込むという寸法です。第一印象はギャル系ヒロインなのですが、その中身は真面目で仕事熱心なチョロインという典型的なキャラクター像となっています。その分、仕込んでいくなかでの下卑た征服感的なものが刺激されること請け合い。じゃじゃ馬を従え、逆に自ら誠意をもって奉仕するようになるというカタルシスが味わえます。またヒロインとの関係だけでなく、学園の謎の問題もクローズアップされていき、その点も気になる所です。分割商法なのが惜しいくらい。

『ろけらぶ 神社×先輩』

フロントウイングの分割商法作品。ろけらぶシリーズ最終作品です。埼玉県川越市という場所性(ロケ地)がウリなのでろけらぶ。今回は川越市で最も有名な神社が舞台となるのですが、コンテンツツーリズム的に大丈夫なのだろうかと危ぶまれる側面があります。かつて『まいてつ』が地方鉄道とコラボした時に批判が巻き起こり中止に追い込まれ、ゆずソフトは背景に使った店から反発され直前になって差し替える事態になりました。神社は宗教的に扱いが難しいところであり、かつては神社を題材としたソシャゲが開発中止となっています。そのような状況の中で川越市で著名な神社を持ってくるとはフロントウィングさん大丈夫なのかしらね?作品の内容としては、破局の御利益があるとの話題を生んでしまった迷信を払拭し、縁結びの信仰を取り戻すため巫女炉利先輩ヒロインと主人公がイチャラブするというキャラゲーです。バブミ系お姉ちゃんヒロインが恋愛感情に覚醒するところとか結構好き。

Honey*Honey*Honey!』

学園内における男女の距離を厳密に取らせようとするトンデモ設定の学園の話。だったら最初から共学ではなく別学にしたりクラス編成を男女別にしたりするとかもっとやりようがあるのでは?と突っ込んではいけません。主人公はメインヒロインと組んで恋愛監査を担当し、申請されるカップルが適正なものかを見極める役につくことになります。しかしメインヒロインは恋愛をしたことが無く、またその恋愛観もぶっとんでいるため、きちんとした恋愛を学ぶために主人公にアプローチしてきます。それに対抗するのが、革命戦士。学校の校則や社会通念が狂っていると認識しているのですが、革命によってその社会体制をぶっ壊そうとしています。それなりに有名なメーカーの作品がひしめくなかでどこまで戦えるか!?