徒花異譚の感想・レビュー

結核により死の淵にある少女が夢うつつながら絵草紙の世界に入り込む話。
絵草紙に出てくる主役たちは皆、少女の縁者に見立てられていた。
花咲かじいさんは祖父、乙姫は家庭教師、瓜子姫は妹、桃太郎は婚約者。
物語のリライトに成功すると少女は現実で病と闘う力を得て生き残る。
絵草紙の読解に失敗すると少女は結核で死ぬ。多分こっちが正史かと思う。

華族のお嬢様の結核闘病記

  • 死の淵から這い上がれ!
    • メインヒロインの少女は結核により死の淵にある少女です。彼女は夢うつつながら幼少期に過ごした大切な幼馴染との思い出を想起していました。それは政略結婚のために厳しい淑女教育を受けさせられた少女の憩いの時間だったのです。
    • 幼少期、少女は少年が自分の屋敷に侵入して桜を眺めている姿を目撃します。口止めを請う少年を少女は自分の蔵に誘うのです。このことを契機に少女は少年と蔵で絵草紙を楽しむ仲になりました。二人で様々な物語を読みましたが、幸せな時間は長くは続きません。予定通り少女には縁談が決まり、少年は少女とつりあう男になるべく遠縁の名家へ養子に入ったのです。少女の婚姻相手は良くできた人であり、一種の盟約を結ぶのですが、なんとこの婚約者は結核にかかっており、少女も感染してしまったのでした。
    • 一方少年はメキメキと力をつけ、少女の家の書生となることに成功します。そして自ら看病役を買って出るのです。作中で語られる日本昔話は、少女の夢想セカイの出来事だったのでした。しかしこの夢想セカイの中で、少女は病と闘う力を得ることになります。夢想セカイのお伽噺の主役たちは少女の縁者に見立てられており、少女はそこで彼等の想いに寄り添うことで花・光・恋を知るのです。これらにより少女は死の淵から現実へと舞い戻ることができました。(これらのお伽噺の読解を一つでも失敗すると少女は死んでしまうのですが、そちらの方が正史であると考えられ、なかなか味わい深い内容になっています)。少女の救済に成功すると、結核を克服し身分違いの恋も乗り越え、52歳まで生きてハッピーエンドになります。めでたし、めでたし。