白昼夢の青写真 CASE-0「世凪グランドエンド」の感想・レビュー

人類を救うために世界と一体化するハイパーアルティメット世凪エンド。
近未来SFが舞台だが本質的にはまどマギ穢翼のユースティアと同じ主題。
記憶障害・基礎欲求欠乏症・仮想空間・観測による実態化がモチーフ。
Key、火の鳥未来編、バルドスカイ等の諸作品の面白い所を混ぜ合わせている。
作中のケース2で様々な作品を昇華し編纂するのも才能とあったがまさにソレ。
オリジナリティは皆無だが、各種要素を上手く繋ぎ合わせ世凪の主体的意思決定に繋げている。
エピローグではハイパーアルティメット世凪が3つの別離エンドをハッピーにする。
(CASE1~3は世凪が主人公との想い出を題材として綴った私小説という位置づけ)

世凪のキャラクター表現とフラグ生成過程

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  • 記憶障害について
    • 舞台は近未来SF。人類はポストアポカリプスを生きており、地中で封建的身分制度が敷かれた階層社会で暮らしていた。下層階級であった主人公は、そこで快活に下層社会を生き抜く少女:世凪に出会う。世凪と出会ったことで主人公は知識を身につけることを知る。主人公の母は末期患者であったが、世凪とも仲良くなり最後を看取ることになる。世凪も親無しであったため、二人は肩を寄せ合って生きていくことになった。主人公は立身出世に邁進し、下層身分を脱して中層に出世。世凪に婚姻を申し込むが躊躇される。その理由には世凪の遺伝的欠陥があった。それはアルツハイマーの遺伝子を持つことであり、父親が次第に記憶を失っていったという過去があった。(痴呆症による家族崩壊は同日発売のカゴトリでもテーマになっていましたね。)記憶が失われていく恐怖や諦念の描写はKeyを始めとする泣きゲーで使い古された手法。主人公は自分が上層階級への熱望に浮かされ本当に大切なものは何かを見過ごしていたことを知り、世凪の記憶障害への恐怖を共有して結ばれる。

 
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  • 仮想空間への没入について
    • 世凪は他者を自分の意識内へと誘う異能を持っていた。これを発展させて世凪の意識を仮想空間にして、その中へ入る研究が行われる。主人公の狙いは人類の一時的な安寧。地中生活を送る下層民は汚泥に塗れて生きるしかないが、そんな人々の逃避先を仮想空間として創り出すことを目的としていた。主人公は身体が動かなくなって死にゆく母親に外の世界を体験させたかったことから、この方法を思いついた。しかし実験は深刻化し、世凪への負担が大きくなってくる。主人公は世凪の為に実験を中止しようとするが、最早止めることは出来なかった。世凪の意識が邪魔ということで前頭葉が切り取られ、世凪の身体は記憶や自我を失い単なる入れ物と化したのである。この状態の世凪を回復するために行われていた試みがCASE-1~CASE-3だったというワケ。これらの3つの物語は、記憶を失うことを恐れた世凪が私小説として感情を残して置こうと主人公と自分をモチーフにして書いた作品だったのだ。思い入れのある3つ物語を体験している際には世凪の脳のとある部位が活発化する。その脳の部位を見つけ出し刺激を与えることで、ついに世凪は再び意識を取り戻したのであった。しかしそれは今までの世凪というわけではなく世凪Bである。そんな世凪Bに残された僅かな時間をどう使うか。主人公は世凪Bに寄り添っていくことになる。

 
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  • 基礎欲求欠乏症について
    • 世凪B回復後、世界設定が回収される。主人公たちが地中に閉じ込められていたのは、紫外線のせいでも何でもなかった。文明の進歩により遺伝子組み換えが行われるようになったが、その反動で人類は幸福だと感じると生きる意欲が失われ、身体の機能が失われていく病気に犯されたのだ。治療方法はない。だからこそ、常に欲求が満たされない飢餓的状態を作り出すべく、封建的な身分階層制を創出したのである。わざと文明レベルを落として衆愚政策を取るというシュタゲ的展開。この病気の進行は世凪の意識空間の内部では抑え込めることができた。だからこそ、世凪を媒体にした仮想世界への没入の実験があんなにも執拗に行われていたのであった。世界の真実を知らされた主人公と世凪に選択の時が迫られる。

 
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  • 世界との一体化について
    • 世凪Bは主体的意志によって存在証明をすることを決意。自らの個を投げ捨て世界と同化することを選び取るのだ。ゼロ年代セカイ系が流行った後、それを乗り越えるために出現した2010年代の「セカイ系の否定」技法。まどマギ穢翼のユースティアと同じ主題。セカイ系とは大雑把に言うと、世界がどうなろうとも周囲の関係性が重要というテーマ。「セカイ系の否定」とは狭い関係性を乗り越え愛する人を救うため主体的な意志決定により人類全体を救済すること。世凪Bは余命幾何もない生命を、主人公との安寧な生活よりも、人類の救済のために使うことに決めたのだ。存在証明する。主人公は世凪が創出した仮想世界の内部に入り、人類の救済者世凪の物語を語り続けることを選ぶ。こうして主人公が仮想世界で何度も世凪のことを物語るうちに、仮想世界に没入した人々に世凪の存在が知れ渡ることになる。世凪は万民が知る神としての普遍性を得たのだ。あまねく人々に存在が認識されればそれは観測されることに繋がる。こうして世凪は顕現することができ、主人公と再会することができたのだ。感動のグランドエンドが創出される。さらにエンドロールを見た後には、タイトル画面が変化し左下にEPILOGUEが追加される。そこでは「ハイパーアルティメット世凪」となった世凪が、自身が別離エンドとして創作したCASE-1~CASE-3までの3つの物語をハッピーエンドにリライトする。


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