倫理 西洋思想【4】民主社会における人間のあり方(社会契約論:ホッブズ・ロック・ルソー)

倫理はニンゲンとは何か、ニンゲンはなぜ生きるのかを考える科目。ほとんどの先進国でニンゲンは民主社会に生きている。民主社会は勝手にできたものではなく、形成するには社会契約という背景思想があった。

1.民主社会の原理

1-1.人権の尊重と社会契約説

  • (1)国王主権
    • 中世ヨーロッパは主権国家ではなかった。各王権の上位概念として教皇権と皇帝権が存在した。つまりキリスト教の普遍的価値観である。だが十字軍による教皇権の失墜と神聖ローマ帝国の凋落による皇帝権の衰退が起こり、各王権が伸長する。こうして、「国境のある明確な領域」とその「支配域の民衆」を「統治する」という領域国家が発生した。この領域国家では誰が統治の主体となるのかが問題となる。当初は統治の主体は国王だった。つまり主権は王にあり、その正当性の理論的根拠となったのが王権神授説だった。
    • 国王主権批判
      • a.17世紀のヨーロッパの政治体制は絶対王政=官僚制+常備軍
      • b.絶対王政とは王権神授説が理論的支柱。王権は神に由来する絶対的なもので、人民は国王・国家の権威に服従しなければならないとする考え方。
      • c.ルネサンス宗教改革の影響で、自由な独立した個人としての自覚がうまれる
      • d.社会生活においても自由な個人として生きる権利が尊重されることを求める。
      • e.新しい社会秩序の原理を模索する動きが始まる
  • (2)主権者は誰か
    • 王権神授説だと王がどれだけ圧政を敷いても批判できない
    • 個人と社会の関係の思索
      • 社会契約説…国家の起源を人民の契約に求めるもの。国家や政府が形成される前の自然状態を想定し、人民相互の契約において、主権者を決定し、個人が生まれながらにもつ権利(自然権)を保障しようとする。
      • 国家は永遠の昔から存在するものではなく、また国王の所有物でもなく、自由で独立した諸個人が自分たちの権利を実現するために契約を結んで人為的に設立したもの
      • 人民主権・・・近代市民革命と近代民主制を正当化
  • (3)自然法思想…人間社会には自然界と同様に、人間の定めた約束事を超える普遍法則が存在するという考え方。
    • 自然権自然法にもとづいて主張される権利
      • 古代ギリシャ・・・ストア学派。理性(ロゴス)が宇宙(自然)を支配している。
      • 中世ヨーロッパ・・・キリスト教神学。神の摂理が万物を支配する。
      • 近代ヨーロッパ・・・宗教的権威から解放。オランダのグロティウス、人間の本来持つ理性を重視。理性的な人間であれば誰もが認めざるをえないようなルール。

2.人権思想の展開

2-1.国家の安全と平和【ホッブズ

  • (1)自然権
    • 人間は生まれながらにして自己保存の欲望をもち、その欲望を各自思いのままに追求する
  • (2)自然状態
    • 「万人の万人に対する闘争」…人々は欲望を満たすために互いに争い、恐怖と不安の中で生きる。
  • (3)自然権の放棄
    • 平和と安全を守るために自然権の行使を放棄。個人または合議体に全ての権利を譲渡する。
    • 譲渡された者は統治者として国家を形成し、「リヴァイアサン」のように強力な力を持ち、国家の安全と平和を守り、人々は国家の命令に絶対服従する。
  • (4)ホッブズの思想の歴史的意義
    • a.王権神授説とは異なり、あくまでも契約によって国家の安全と平和を実現させようとする点に意義。
    • b.自然状態からの政治権力の成立を自然権の保障という点から理論家したこと。

2-2.自然権の信託【ロック】

  • (1)自然権…個人の生命・自由・財産の所有(所有権)が理性にもとづく自然法により保障されている。
  • (2)自然状態…平和だが、財産権(所有権)をめぐる争いが生じる。
  • (3)自然権の信託
    • 個人同士で所有権をめぐる争いが起きる→自然権を政府に信託→もし政府が権力を乱用したら・・・<抵抗権・革命権>
    • 政府・議会は法律で国家の安全と平和を守り自然権を保障する。立法権・執行権・連合権に分立
  • (4)ロックの思想の意義
    • 国家の主権が人民にあること、政府が法の支配のもとにおこなわれるべきであることを明確に主張。

2-3.自然への回帰【ルソー】

2-3-1.啓蒙思想とは何か?
  • (0)啓蒙(enlightenment
    • 真理の光で世界を照らし、理性と合理的な知識にもとづいて世界を正しく再編しようという考え方。国家理論における社会契約説。法理論における自然権思想、宗教における理神論、宗教的寛容の主張などが挙げられる。具体的には、「無知と迷信」(王権神授説)によって支えられている非合理的な専制君主制の打倒。
  • (1)モンテスキュー(1689-1755) 『法の精神』
    • a.法の精神…各国の法制度はそれぞれの精神(風土や習俗)と関係している。共和政の精神は美徳、君主制の精神は名誉、そして専制の精神は恐怖である。
    • b.三権分立…政治的自由を実現するためには、権力機構を分割するべきだという考え方。立法権・行政権・司法権が抑制と均衡の関係に立つ。
  • (2)ヴォルテール(1694-1788)『哲学書簡』 
    • a.専制への批判 ⇒宗教的寛容と言論の自由を主張。
    • b.理神論的立場…神の存在を否定しないものの、奇蹟や啓示などを否定する合理的な信仰のこと。
  • (4)補論「唯物論について」
    • a.理論的唯物論
      • a-1.自然科学的唯物論…自然現象を一定の方法で研究して一般的法則を見いだそうとする科学。数学・物理学・天文学・化学・物理学・地学など。
      • a-2.史的唯物論…社会の生産量と生産関係の矛盾が社会発展の原動力であるとする考え方。歴史上の社会は生産様式の発展によって規定され、生産力の発展によって生産関係も変革され、この変革がやがて政治、経済、法律などの秩序をも変え、さらに文化の変化をも導く。
    • b.倫理的唯物論
      • b-1.快楽主義…人生の目的を快楽に求める立場。個人的な快楽を求めたものとしてエピクロス派のアタラクシア(瞬間的・肉体的快楽ではない、永続的・精神的快楽である心の静けさ)が挙げられる。デモクリトスと同様に原子論の立場に立ち、死はアトムの離散に過ぎないので、死に煩わされる必要はないという原子論的唯物論を展開した。
      • b-2.功利主義…行為の善悪の基準を、その行為が快楽や幸福をもたらすか否かに求める倫理学説。個人の幸福と社会の幸福を共に実現しようという点で、個人的な快楽主義とは区別される。
2-3-2.ルソーの社会契約
  • (1)ルソーの自然状態
    • 平和。互いに自由・平等で、思いやり(あわれみ)により自己愛を規制し、信頼に結ばれた理想的なもの。
  • (2)現状の国家
    • 産業の発達と私有財産制…富者と貧者の間に支配と服従の関係が発生。悪徳と不平等が社会に拡大
    • 国家の成立…私有財産制の無秩序状態を脱するため、契約が結ばれ国家が成立。だがこの国家は富者が財産を守るために貧者を欺いて作った偽りの契約であった。社会はますます不平等・不合理なものになる。
    • 自然に帰れ…社会契約によって、自然状態の自由・平等を回復せよ!!
  • (3)理想の国家…一般意思のもとに成立した国家。
    • a.特殊意志…個人が私人として思考した利欲を優先する意志。この特殊意志の総和が全体意思。
      • 例)個人が私的利益のみ考えた結果、「税金は廃止」という全体意思が発動!!→税金で賄われるインフラ(社会資本:道路や水道、教育など)整備や社会福祉(年金・介護・保険など)の財源が消え、弱者切捨て。結局、ほとんどの人は不幸に。
    • b.一般意思…個人が公民として思考した共同体にとっての利益である「自由と平等を志向する共通の意志」。誰もが自分の私的利益を棚上げして、社会の一員として、社会にとっての利益を考える。
      • 契約:一般意思に従って、みずからの自由と権利を国家に譲渡。
      • 国家は一般意思を実現する。よって国家の主権は人民に属し(国民主権)、政府や統治者は公僕。
      • 一般意思に従うかぎり、主権者としての人民は、国家によってその権利を保障される。
  • (4)直接民主制
    • 国民が政治に直接参加し、政治を最終的に決定するという思想。一般意思は皆にとっての利益を皆で考えることによって導かれるものだから、党派のようなものは許されないし、人民の代表機関(議会)も認められないとして、ルソーは間接民主制を批判し、直接民主制を擁護。
    • 各人はかならず一般意思に服従しなければならない。