2020年11月発売の新作ノベルゲーは何を買えばいいですか?

11月の主要ノベルゲーは6本。ポストランスのアリスソフトがおくる『ドーナドーナ』を筆頭に、バカギャグゲーで信者を集めるアサプロの『恋ロワ』、ラブリーボイスと著名な原画師で勝負する『水蓮と紫苑』、意外と真剣にエロゲ業界を描く『響野』、ライターなかひろ先生単独の新作『ホケセン』、ノベル性ではなくゲーム性を重視するエスクードの『闇染』が競います。その他には、すっかり粗製濫造メーカーとなってしまった戯画が『アイキス2』を出してきますが、実質は「2」ではなく前作に新ヒロインと追加シナリオを入れただけなので(原画も安定しないし)評価待ちの方がいいかもしれません。

以下では主要6本について簡易的な雑感を述べておきます。

【目次】

ドーナドーナ いっしょにわるいことをしよう(ALICESOFT)

ランスシリーズの完結後、ゲーム性を重視する本格的な新規の作品がドーナドーナとなります。(いや『イブニクル2』は「2」だし)。ゲーム性としては作業ゲーに近く、ランス10形式のマップ駒移動をしながらアイテムや素材を集めるバトルパートと集めた素材を使って店を経営し資金を稼ぐSLGパートに分かれています。基本的には資本主義の縮図のようであり、「素材を集め→カネを稼ぐ→経営規模を大きくする」という行為をひたす繰り返していくことになります。シナリオや舞台装置に関しては作業ゲーを飽きさせないようにプレイさせるための工夫がなされています。ユビキタス社会における情報統制による超管理社会を打破すべく、人間の肉欲を満足させるサービス産業を経営するという設定になっています。そのための素材が「お花」であり、彼女たちを品質管理して男どもに提供し、所得の再分配を受けて活動資金を得るという流れになります。所謂、自由恋愛の斡旋業です。これを繰り返すことによって管理社会において管理しきれない人間の欲望を刺激することで統制された社会秩序を壊そうとしていく所に面白みがあります。主人公は自分の行いが社会悪だと認識しており、それに苦悩しています。そこが快楽主義者である周囲のメンバーたちとの一番のギャップであり、それをどのようにシナリオに落とし込んでいくのか、注目されています。あと余談ですが、『まいてつLR』のライターが中共の電子決算システムを経済発展として無邪気に褒め称えた直後に、アリスソフトが電子決算システムによる統制社会の危惧をアンチテーゼとして出してきておりタイムリー過ぎて笑えてしまいました。

恋愛×ロワイアル(ASa Project)

ギャグゲー・バカゲーメーカーとしてブランド化に成功したアサプロ。今回もバカゲーを引っ提げて登場します。いつものようにぶっ飛んだヒロイン達が勢ぞろいし、主人公を巡って恋愛競馬を繰り広げます。しかし今回はちょっとシリアスも入っているようです。ヒロイン達が現在キチガイのようになってしまっているのは、かつて凄惨な過去を乗り越えることができた結果。それには主人公が重要な役割を果たしており、主人公が軽薄なチャラ男のように振る舞うのは、過去の出来事が尾を引いているからということが伏線として張られています。また冒頭から転入してきたメインヒロインがクラスメイトの前で大告白大会をするのですが、このメインヒロインこそが過去に問題を起こした「ワケアリ」の幼馴染であり、主人公との友情を大切にする男友達と一触即発の危機が展開されます。アサプロと言えば、メタ的セルフツッコミやネットスラングパロをはじめ、立ち絵でヒロインに変な顔芸をさせたり、声優さんたちにぶっ飛んだ台詞を吐かせたりするなどの点を重視して、信者を獲得してきたメーカーです。信者たちの期待に応えながら、ギャグバカだけでなくシナリオ面でも何かを残せるかに期待が寄せられています。

水蓮と紫苑(hibiki works(暁WORKS響SIDE))

声優さんに自分の名前を呼んでもらえる「ラブリーボイス」と美麗な原画師をウリにする作品です。医学部の学生がアイデンティティ拡散の危機に会い、自分が医者を目指した理由を探しに、夏季休暇を利用して親戚の田舎にやってきます。11月に発売するのに、夏と海が舞台ですぞ!ヒロインは甘やかし系あらあらうふふバブミお姉ちゃんと、テンプレ系ツンデレJKイモウトの二人。ヒロインを絞っているのでシナリオをどう転がすかが勝負の分かれ目。しかしシナリオ重視ではないので、主人公が医者を目指したきっかけが攻略ヒロインの従姉妹たちだった!自分が医者を目指した理由を再発見できてよかったねとかいうオチで終わりそう。主眼となるのは、原画師の立ち絵とイベントCG、それと声優さんのラブリーボイスなのでイチャラブキャラゲーが好きな人は買ってもいいかもしれない。

響野さん家はエロゲ屋さん!(Sonora)

個人的に一番注目している作品です。エロゲショップを舞台装置とした単なるキャラゲーかと思いきや、本格的にエロゲショップを経営していくことがテーマとして取り上げられます。業界ネタや市場の裏事情などを結構しっかりと掘り下げています。立ち絵や原画もとても綺麗ですし、コミカルな三姉妹と委員長もキャラが立っている上に可愛いです。そのまま行けば、買いカナーというところなのですが、いくつか危険視される側面も。まず複数シナリオライター。ライターの数が多すぎなので、個別ルートの出来不出来に差がつきそうです。続いて前作のキャラが侵蝕しすぎ問題。メーカーが世界観を統一するのはいいのでしょうが、前作のキャラや立ち絵の使いまわしや、前作やってないと分からないイベントがかなり挿入されるのでスターシステムも信者や古参には受けるのでしょうが、ちょっと微妙。そして何より、エロゲ産業をテーマとして扱うのに新作販売のみのエロゲ専門店という設定。エロゲ産業は中古市場と切っても切り離せないのにも関わらず、それが一切スルーされているので、エロゲ産業を真剣に描こうとする割には片手落ちになってしまっているのです。単なるキャラゲーなら良いのでしょうが、題材を掘り下げて勝負する場合は、表面的なものに始終してしまうのではないかという危険性を孕んでいます。

保健室のセンセーとシャボン玉中毒の助手(Citrus)

ライターなかひろの単独シナリオがウリ。なかひろ先生といえば、こいとれや星メモで一世を風靡しゼロ年代後半を牽引するライターでした。うたはお姉ちゃんルートとか大好きですし、星メモの夢おねえちゃんシナリオには感涙したものでした。しかしながらセイイキシリーズの3本目から陰りが見え始め、きゃべつソフトの処女作で盛大にすっころんでしまったなかひろ先生。なかひろ先生に異能バトルとかやらせるからこうなっちゃんだよ!とファンの間では嘆かれたものでした。そんななかひろ先生が久々にヒロインとの関係性や主人公の内面に重点を置くシナリオを用意してくれたので、プレイヤーとしてはとても気になる所。メインヒロインのシロバナは星メモのメアを彷彿とさせる炉利枠であり、主人公のことを信頼しながらも、無能ね、不能ね、ダメダメねと罵倒してくれます。作風としては霊魂崇拝(生霊/死霊モノ)により死生観を描く泣きゲー風味であり、霊媒師の主人公がこの世ならざる者を送り還すことが主題となっています。すなわち別れが待っているのが前提であるので、それはもう泣きゲーの予感。なかひろ先生が2020年代にどのような作品を書いていくのか、試金石にもなり得る作品です。

闇染Liberator(Escu:de)

ノベルだけではなくゲーム性を重視するエスクードの作品です。しかしながらまず出す時期が不運。同じくゲーム性を重視するアリスソフトの期待作『ドーナドーナ』と同日発売という。しかもシナリオはなろう系小説を彷彿とさせるハーレムモノであり、ヒロイン達の原画もバラバラ。内容においてヒロイン同士の絡みもあまりなく、勢揃いした立ち絵はコラ画像のようになってしまっています(それぞれの異能が相反するのでバトルで共闘できないとかいう設定)。一応、ウリとしては気品溢れる気位の高いヒロインをバトルで屈服させて凌辱して快楽堕ちさせることが挙げられます。しかし一番のセールスポイントである筈のバトルが言葉は悪いですが陳腐としか言わざるを得ず、戦略もクソも無くマウスホイールをグリグリ回すだけというシステムです。難易度設定を高くすればバトルが楽しめるのでしょうか、戦闘システムに魅力を感じられないのは大変痛い点かと思われます。エスクードはコンスタントにゲームを発売しているので、こういうのが好きな人が一定層いて買い支えており利益が上がっているのであろうかとも推測されます。