高咲侑と上原歩夢の関係性から読む『虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』(全13話)

思春期の少女たちが自己同一性の確立を図ろうとする際に生じる葛藤に焦点を当てた作品。
感情の揺れ動きが最も激しい疾風怒濤の時代を「アイドル」という手段で自己表現する。
ソロライブという形式をとることで1話につき1人の少女を描いていくオムニバス方式。
しかしその裏では侑に対する歩夢の想いという百合的な恋情・慕情が少しずつ育まれていた。
ここでは侑と歩夢の関係性から『虹ヶ咲』を読み解くことを試みる。

【目次】

第1話「大好きな親友がスクールアイドルに嵌ったので自分がアイドルになることにした」

  • 上原歩夢、高咲侑のためだけにアイドルを志す!
    • 高咲侑と上原歩夢は仲良しの幼馴染。高咲侑がエネルギーに溢れる牽引役で、上原歩夢はそんな侑を親友ポジションとして独占してきました。しかしながら、ある時突然、高咲侑はスクールアイドルに嵌ってしまうのです。ライブ会場でクールビューティーっぷりを見せつけ、その類稀なるパッションで周囲に熱量を与える優木せつ菜。その姿を見せつけられた高咲侑はすっかり虜になってしまうのです。これを見て、侑のまなざしが自分以外へ向いてしまったことに焦った歩夢。当初はもう高2だし予備校に一緒に通うと侑を引き留めにかかりますが、侑の嵌りっぷりを感じてそれを変えられないことを察すると、歩夢は自分がアイドルになることを決意したのです。たった一人の親友のためだけにアイドルにならんとする歩夢の熱意が巧みに表現されています。最初はもうフリフリの洋服なんて着ないと言っていた歩夢が、侑にカワイイ、カワイイと言われて本当はフリフリの服も着たいという歩夢。これ裏を返せば、歩夢は自分が着たいからフリフリの服を着たいのではなく、侑がカワイイと言ってくれるからフリフリの服を着たいということですよね!歩夢が侑のためだけに階段の上で一生懸命ライブをするその姿は百合友情パワーを感じることができます。こうして上原歩夢のアイドル道が始まったのでした。

 
 

第2話「スクールアイドルとして自分が想いを伝えたいのはファン全般ではなくただ一人のファン(親友)」

  • 上原歩夢がカワイイを届けたい相手は高咲侑のみ
    • 今回は中須かすみにスポットライトを当てることで、なぜスクールアイドル同好会が解散されたのかという理由が語られます。方向性の違いってやつ。中心となっていた優木せつ菜はクォリティの高いパフォーマンスをファンに提供したかったため厳しい訓練をメンバーに課したのですが、中須かすみさんはカワイイを表現したかったのです。中須かすみさんの叛乱により、自分の思想を仲間に押し付けていたことを悟った優木せつ菜さんはショックを受け、同好会は空中分解したのでした。ここまでが過去のお話で、今回は中須かすみさんがカワイイを上原歩夢に押し付けてしまったことにより、自分の過ちに気付くという構図をとっています。見どころとなるのは高咲侑の天然ジゴロ的カウンセリング術であり、スクールアイドル志願者たちが抱える心の悩みを高咲侑が解決するという構図をとっています。その過程で、メンバーたちが次々と侑に惚れていくのですね。わかります。その一方で上原歩夢はカワイイを伝える自己紹介動画を撮ることとなり、自分なりのカワイイを追及していくことになります。一人で可愛さアピールの練習をしていたところ、そのアピールを誰に伝えたいのかを問われることになります。歩夢が伝えたい相手はいつだって高咲侑のみ。歩夢は自分が考えるカワイイ自己紹介を披露し、その可愛さを認められることになるのですが、そのカワイイは全て高咲侑にのみ向けられていたものだったのです。歩夢のクソデカ巨大感情が凄まじいですね!

 
 

第3話「大好きな親友がアイドルを求めるから自分はアイドルをするというワガママを貫く自由」

  • ラブライブなんか出なくてもアイドルとファンがいればそれでいい
    • 今回の主役は優木せつ菜さん。最初の設定を見た感じだと、もっと後になってから復帰するのかと思っていましたが、3話にてサクッと出戻り。ここでテーマとなるのがやりたいからアイドルをやるというエゴとワガママを貫く自由。統廃合問題をどうにかするとか、ラブライブに出たいからとかではなく、自分が大好きだからアイドルをやってファンがいればそれでいいのだと超個人的事情でアイドルをすることを肯定してくれるのです。この高咲侑の思想を聞いた優木せつ菜は自分の始原的な目標を思い出すのです。ラブライブに出るからアイドルしてんじゃねぇアイドルしたいからアイドルしてんだと。そしてこの高咲侑の思想はそのまま上原歩夢にも当て嵌まるのです。上原歩夢にとってその唯一のファンは高咲侑。それ即ち、高咲侑がアイドルを求めるから自分はアイドルをするという超個人的ワガママなのです。これが肯定され貫かれているところが重要ポイントですね。そして天然ジゴロな高咲侑は優木せつ菜さんも攻略完了して好感度マックス!!それを見た上原歩夢が、高咲侑を助け起こす体裁を取りながら、さりげなくせつ菜と侑を引きはがしているという行動・仕草にも注目が集まります。

 
 

第4話「ソロアイドルで各自が自分のアイドル像を求められるのなら、親友のためだけのアイドルになっても良い」

  • ソロアイドルとアイデンティティ
    • スクールアイドル同好会が再結成され新規メンバーも加入。そしてどのような活動をするのかその方向性が定められることになります。今回スポットライトがあたるのはスポーツ万能で成績も良い宮下愛さん。虹学のスクールアイドルはソロアイドルであることを聞かされ、「自分とは何か」という問いに直面することになります。思春期モノではよくある「アイデンティティ拡散の危機」。これまで宮下愛さんは高い能力を誇っていたがゆえに、自分のことを深く省察することなく生きてきました。能力に依存したパワフルプレイを得意としていたのですね。しかしスクールアイドルをするにあたって自分がどのような存在なのかを掘り下げる必要が生じ、近代的自我の確立を求められたのです。で、このことを踏まえた上で、歩夢と侑の関係性を見ていきましょう。歩夢がスクールアイドルとなったのは全ては侑のため。スクールアイドルに定型はなく、各自の自由で良いというのなら、歩夢は侑に自分だけを見て欲しくてスクールアイドルをやっているのでしょうね。しかし歩夢が頑張れば頑張るほど、侑の視線は他のアイドルに向かざるを得ないというアンビバレンツ。そのような中で歩夢は幼馴染ポジションとしてマウントを取らずにはいられません。オヤジギャグで爆笑する侑を指して皆に「幼稚園の頃からずっと笑いのレベルが赤ちゃんだから」と解説。つまりこれは幼稚園の頃からの絆の深さを皆に話すことで優越感に浸りながらマウントを取りつつ牽制までするという一つの台詞に多重の意味が込められている表現技法と言うことが出来ます。深い、深すぎる。十万石饅頭

 
 

第5話「スクールアイドルに嵌った親友のためにスクールアイドルになったのに親友が応援したいのは自分だけではなくスクールアイドル全般だった」

  • 侑「私、スクールアイドルにホント嵌っちゃって。だからみんなを応援したくて。」→歩夢「え?」
    • 今回はエマと果林の百合友情回。スクールアイドルになるためにスイスからやってきたエマと読者モデルでクールビューティーとして人気を誇る果林のコンビが描かれます。エマはファンの心をポカポカさせるアイドルを目指し奮闘しており、それを果林が応援しているという構図を取っています。エマは果林が色々と手を貸してくれるのを見て、果林もスクールアイドルになりたいのだと感じ取ります。しかし果林はお高くとまってキャラじゃないと自分を押し殺し、エマの好意を無下にしてしまうのです。果林の変貌に驚くエマですが、それが本当の心ではないことを見抜きます。果林を繁華街に連れ出すとJK的百合デートを敢行し果林の心をほぐしていきます。こうして果林は自分の心を解放し、スクールアイドルのメンバーの一員に加わるのでした。このようにエマと果林の百合が展開されている一方で、歩夢のソウルジェムは徐々に濁っていきます。今回のエマの話も各個人がPVをとるというところから始まり、その演出には侑が一枚噛んでいたのです。侑が応援するのは歩夢だけでなく、スクールアイドルメンバー全員だったのです。歩夢は侑が自分だけ応援してくれるものだと思っており、ここにすれ違いが生じているわけですね。侑を独占したいという欲求を抱く歩夢は、侑が自分の手の届かないところでフラグを乱立している姿を見てソウルジェムを黒く濁らせるのです。

 
 

第6話「愛する親友のためにスクールアイドルになり、MCの練習でチヤホヤされて満更でもない気分に浸る」

  • コミュ障ぼっちアイドルの支援の中で
    • 今回のお話は天王寺璃奈回。自分の感情を表に出すことが苦手で表情筋が死んでいるため、コミュ障ぼっちとして一人も友達がいないまま高校まで過ごしてきたというツワモノです。そんな璃奈は前々回メインを張った宮下愛さんと出会い、スクールアイドルとなったことで人生が変わったのです(と思い込んでいたのです)。かつての自分とは違うことを証明し友達を作りたいという願いを叶える為にソロライブの決行を決め、努力を重ねていくことになります。しかし変われたと思っていたのは表面上のことだけで、自分が今でも表情筋が死んでいることに気付いた結果、精神崩壊してしまいます。そんな璃奈を救うのはスクールアイドルの仲間たち!ということで苦手なことは得意なことで補えばいい。表情筋が死んでいるならデジタルフェイスシールドをつければイイジャナイ!とVtuberとリアルとの結合的な形にキャラを落とし込みライブを成功させるのです。
    • さて、第6話において歩夢と侑がどのような関係性を提示しているか。それはMCの練習の場面において登場します。ファンとのやりとりを楽しむのがMCなわけですが、歩夢にとってファンはただ侑だけなので、侑にカワイイ、カワイイと言われることで、その欲求を満たしたのでした。はにかみながらファン(=侑)と交流し、顔を赤らめる歩夢の様子をご堪能ください。「えっと、今日は来てくれてありがとうございます(息継ぎ)(髪弄り)一歩ずつ頑張っていきますので、応援よろしくお願いしますね」「歩夢~!今日もカワイイよ!」「え~っ、照れるよ・・・(恥じらう)」「そういうところがカワイイよ~!」。なんだこの二人のやりとりは!って感じな具合でぽむ侑が展開されていきます。

 
 

第7話「愛する親友のためにスクールアイドルになったのに、親友はスクールアイドルなら何でもよく他校のスクールアイドルまでチェックしていた」

  • 母子家庭における姉妹間問題
    • 今回のお話の主役となるのは近江彼方さん。自分のことを名前+ちゃん付けで呼び、寝てばかりいるという個性的なキャラです。しかしながら至る所で寝てしまうのは理由があった!という展開。彼方の家は母子家庭であり、彼方は家事を全てこなし、家計を助ける為バイトを掛け持ちし、奨学金を維持する為夜遅くまで勉強に励んでいたのです。この上さらにアイドル活動まで始めたら疲労困憊になるのは必至。そこら中で寝てしまうのも納得なわけです。家では超人のような活躍を見せる彼方でしたが、イモウトはそのことを引け目に感じてしまっていました。愛するお姉ちゃんが自分を犠牲にして無理をしている、なのに自分は何もできないと歯がゆく思うのです。おそらく彼方は自分一人で家事を抱え込むことで、それを支えにしていたのでしょう。自分の領域を独占することで地位を維持しようとする人って社会人でもよくいるよね。しかしこのことが原因で姉妹間で対立。イモウトもアイドル活動をしていたのですが姉にだけ負担をかけたくないので辞めるとまで言い出すのです。そんな二人を見て、メンバーたちは【いや、家の事を一人で抱え込んでないで家事分担しろよ】という当たり前の意見をかなりオブラートに包んで感動を醸し出すような表現で伝えてあげます。こうして家事を独占することで保っていた自己のアイデンティティを切り崩すことを決意。ソロライブを成功させると、イモウトに家事を手伝ってね!といい二人の絆は強固なものとなるのでした。
    • さて第7話における侑ぽむの展開ですが、侑が他校のスクールアイドルまで調べていることに歩夢が驚きを隠せないという流れが提示されます。歩夢は自分がスクールアイドルになることで、侑が自分以外に浮気することを防ぎたかったのですが、侑はスクールアイドル業界そのものに興味がある、すなわちアイドルたちが放つキラメキに憧れているため、侑を縛り付けておくことはできないのです。ここに独占欲に染まる歩夢とドルオタのファンである侑というすれ違いの溝が深まっており、歩夢のソウルジェムがまだ一段と濁っていくのですね。

 
 

第8話「たった一人の理解者に肯定されるだけで自分は自分を肯定できる」

  • 弱い自分をさらけ出す強さを得るという話
    • 今回のお話の主役は演劇少女桜坂しずくさん。彼女のテーマになるのは本当の自分をさらけだすには信頼関係で結ばれた人との肯定が必要だということ。桜坂さんは幼少の頃から周囲から排斥されることを極端に恐れており、誰からも愛される少女像を演じていたのです。ここで視聴者が気になるのは一体桜坂さんは何を隠しているんだ・・・重い作品だと実はLGBTだったりとか・・・と色々と邪推したものでしたが、この作品では隠している内容そのものを描こうとしているわけではないことを知れ。内容は関係なく自分を隠しているという普遍的少女像を桜坂しずくというキャラによって具現化しているのだ(桜坂さんが隠していることは古い演劇や映画などの古典趣味だということ)。そんな誰からも愛されたいがゆえに仮面をかぶって自分をさらけだせない少女に必要なのは、どんな自分であろうとも絶対に肯定してくれる理解者だったのです。桜坂しずくさんにとっては、それすなわち中須かすみさんだったのです。中須かすみさんの一世一代の告白大会をお楽しみください。
    • さて、第8話で歩夢と侑の直接の関係性は描かれませんが、まさにこの桜坂しずくさんと中須かすみさんで描かれたテーマ性そのものが歩夢と侑にフィードバックしてくるのですね。歩夢は侑という理解者に肯定されている、いや肯定されたいという強い気持ちがあることがここで匂わされているというワケ。それが端的に示されているのが、冒頭シーンの写真撮影。侑は歩夢にカワイイよーっと言いながらパシャパシャするのですが、侑にカワイイと言われるのが歩夢の原動力になっていることが表現されていますね。歩夢は侑に肯定されたいからこそアイドルをやっているのだという伏線をまざまざと感じ取ることができます。また桜坂さんの劇を見ているとき「あなたの理想のヒロインになりたいんです」という台詞で侑と歩夢を映し出すのはすごく芸が細かいです。歩夢にとって侑の理想のヒロインになりたいんだっていう思いが表現されていると読み解くのは深読みしすぎですかね。

 
 

第9話「親友が自分の手をすり抜けて他のスクールアイドルを応援しに行ってしまうという現実」

  • 一人だけど一人じゃないというテーマをやりながら、その裏でたった一人で良いという信条を貫く少女を描く巧みさ
    • 今回の主役は朝香果林さん。強キャラがビビる話です。虹学のコンセプトはソロアイドルなのですが、急遽大型ライブの出演枠を手に入れてしまい、仲間同士で蹴落としあわなければならない状況が発生させられてしまいます。そんな中、仲間同士がギスギスするのが嫌で水面下での駆け引きが繰り広げられる虹学メンバーたち。それを見た果林さんは、馴れ合いではないのだから、戦わなければダメと宣告するのでした。しかし果林さんは血も涙もないのではなく、仲間同士で一番いい方法をとっただけ。さらに仲間(ライバル)に感化され、個人でダンススクールにも通い特訓するなどの努力を見せていました。虹学メンバーたちもそれをよく理解しており、最終的に果林さんがソロでライブをすることに落ち着きます。しかしながら本番直前に果林さんはビビってしまうのです。そんな果林さんを救うのが虹学の仲間。ソロアイドルはソロだけど一人じゃないよということでエネルギーが注入されます。ホント、かすかすは良いキャラしてるぜ!こうして果林さんは仲間たちの想いに支えられソロライブを成功させてめでたしめでたし。
    • さて、第9話では一人だけど一人ではないことが果林さんを主軸にして語られたわけですが・・・その一方で、一人で良い(侑だけで良い)という信条を貫く歩夢も描かれていきます。特に侑を繋ぎとめようと必死な姿がさりげなく強調されています。ライブ会場を見学しに行こうかなと言う侑にソッコーで私も行くよと同行する意思を表明する歩夢。二人でライブ会場を回るのですが・・・この数時間後に果林さんのライブになった時、侑は歩夢の手をすり抜けて行ってしまうのです。果林を応援する為に駆け出していく侑に「侑ちゃん、どこ行くの?」と歩夢は追いすがるのですが、侑が止まることはなく、歩夢は追いつけなかったのです。歩夢がどんなに侑を求めても、侑を束縛しておくことはできず離れていってしまうという構図が光ります。束縛系独占女子の歩夢がこれからどうなるかが匂わされているわけです。

 
 

第10話「親友のためにスクールアイドルになったのに、親友は別の理想を抱いており最早手の届かないところにいる」

  • 離れていく幼馴染の親友を引き留めるために必死で過去の繋がりに縋る
    • 今回の主役は高咲侑。優木せつ菜さんのライブを見てスクールアイドルの沼にはまったドルオタであり本作品の主人公です。スクールアイドルのマネージャー的ポジションであり、アイドルではないファンとしての自分だからこそできるものを見つけようとします。そんな侑の崇高な理想はこれまで攻略してきたスクールアイドルヒロインの後押しにより実現に向かいます。しかしそのなかで侑の理想と乖離していってしまうのが歩夢なのです。そもそも歩夢は、侑がスクールアイドルにはまったので、侑を繋ぎとめるために、侑に自分へ関心を向けさせるために、侑が離れて行かないようにスクールアイドルになったのでした。その結果、侑は歩夢を見てくれたのですが、それは歩夢を見ていたのではなくスクールアイドルを見ていたに過ぎなかったのです。そんな違和感を感じ取った歩夢は侑との絆を必死に確認しようとします。歩夢にとって侑との関係性の優位さを示せるものは過去の絆しか無くなっていたというのも皮肉なものです。皿洗いのシーンで過去の思い出を一つ一つ必死で思い返させようとする歩夢。しかし侑にとってその思い出は確かに覚えてはいるものの詳細なものではなくなっていました。侑の語る理想は様々な個性を容認し、スクールアイドルというジャンルそのものを発展させるというモノ。そこに歩夢の姿は無かったのです。しかしながら、この様々な個性の容認という中に、幼馴染の親友のためだけにスクールアイドルをやるという歩夢の個性も入っており、だからこそ、それすら容認されるのです。そして伝説の11話へと繋がります。

 
 

第11話「親友との目標の乖離は著しいものとなり、スクールアイドルを通してではなく身体で繋がることで関係を留めようとする」

  • 最初から歩夢は侑のためだけにスクールアイドルになったことの再確認
    • 伝説のガチ百合回。歩夢の超巨大感情が炸裂!スクールアイドルに嵌った高咲侑は自分がアイドルになるのではなくそのマネジメントに生き甲斐を見出します。その理想を実現させたのが、街全体におけるスクールアイドルのお祭りでした。既存のライブにとらわれず好きなところで好きなようにライブをし好きなようにファンと触れ合うという究極のフェスティバル。侑は歩夢の手の届かないところにいるどころか、もう既に歩夢の知らない侑になっていたのです。その象徴となるのが、侑がピアノを練習していたのに歩夢がそれを知らなかったこと。侑は優木せつ菜さんのライブに感化されてスクールアイドルに嵌り、その曲を音楽室で弾いたことで接点を得たのですが、ひそかにピアノの特訓を続けていたのです。
    • 一方の歩夢は侑のためだけにスクールアイドルになったので、周囲との熱量にもギャップを感じるようになっていきます。そしていたたまれなくなって飲み物の買い出しに出ていきます。おそらく本人は侑がついてきてくれることを期待したのでしょう。しかし残念ながらやってきたのは優木せつ菜さん。そしてそこで歩夢はせつ菜さんに侑との関係を問いただしてしまうのです。歩夢がこじらせていることを知らないせつ菜さんは自分と侑の間の出来事を語ります。それを聞いてソウルジェムが完全に黒く染まってしまった歩夢の姿が見どころとなっています。
    • さらに、スクールアイドルフェスティバルについての夢を語ろうとした侑が、歩夢を部屋に呼び出したことで、ついにその巨大感情が爆発するのです!(非常口のピクトグラムを見よ)。このシーンのお陰で第11話は伝説のガチ百合回として歴史に名を残すことになったのでした。歩夢は侑を押し倒し、自分が侑のためだけにスクールアイドルになったことを告白します。そして侑に対しても自分と同じように思って欲しいと感情の共有をねだるのです。言葉だけでは通じない想いがある!ここからの表現が怒涛の展開。直接的な描写は一切ないのですが、歩夢が侑の足を挟み込むシーンから「転げ落ちたスマホが上下に重なり合う」という描写によって二人にどのような行為が重ねられたかをメタファーで示しているのです。また隠喩表現はこれだけにとどまらず、二人の解離性が道路標識で、歩夢の停滞が横断歩道の赤信号で、行き場のない感情が脱ぎ散らかされた靴で、侑による呼び出しが「非常口」のピクトグラムで表されていて、二人の関係性を歩夢がいかにこじらせてしまっているのかがこれでもかというくらいに訴えかけられています。この歩夢が炸裂させたクソデカ巨大感情に対して侑はどのように答えるのか!?これまでの放送の中で少しずつ描かれてきた関係性がついに収束を迎えます。
二人の関係性を示すメタファー

第12話「親友の為だけにアイドルになったが、アイドルになったことで世界が広がっており、もう既に親友とだけのセカイではなくなっていたことに気付き、それを肯定できた」

  • EDの歌詞→「これからはそれぞれの輪、広げたら気軽に飛び出そう」
    • 第11話において「束縛欲」と「独占欲」が暴発し、自分とだけの関係性を構築して欲しいとセカイ系に走った歩夢。しかしながらスマホのバイブ音で我に返り立ち去ると、翌日には無かったことにしとうとします。侑の変化も拒絶します。停滞する歩夢の前に現れるのは、ファンのモブキャラ少女たち。歩夢は侑の為だけにアイドルになったのですが、歩夢にはファンが出来ており、侑以外の他人と絆を結んで別の関係性を作り上げていたのです。この事実を認識することは歩夢を嬉しくさせる一方で、侑が自分から離れて行っているだけでなく、自分もまた侑から離れて行っていることを感じさせたのでした。侑との関係性に拘る歩夢にとって、この事実は認めがたいことであり、それが故に一歩も動けなくなってしまうのです。
    • 袋小路に陥った歩夢を救うことになるのは、歩夢がスクールアイドルを始めるきっかけにもなった始原的存在である優木せつ菜さん。せつ菜さん曰く、自分の感情を押し殺したとしてもそれを抑えることは出来ないので好きになったら貫くのみであると説かれます。この助言で覚醒した歩夢は走り始めることができ、ライブ会場予定地へと足を運ぶのでした。そこで待っていたのは、これまたファンの少女たち(侑含む)。なんと会場準備を進めてくれていたのです。歩夢が侑の為だけに向けていたその想いは、歩夢が意図しない形でモブキャラの少女たちを感化させていました。そしてモブキャラたち自身が歩夢を想って行動を起こし、それが歩夢に還ってくるという円環の理が発生するのです。巧みな演出。ワザマエ!そして花を受け取った歩夢が、侑だけでなくモブキャラたちも含めて抱きしめる所は、独占欲に縛られていた歩夢が前に進めた瞬間でした。
    • 終局部では歩夢が最初にスタートを切った場所でもう一度ライブが開かれます。「いままでありがとう」とお互い言葉を交わし合い、歩夢が侑から貰った花(花言葉:「変わらぬ想い」)を髪につけてその心情を高らかに歌い上げ、ライブ終了後に「これからも」「よろしくね」をするシーンは最終回といっても過言ではないカタルシスを生み出していました。束縛、独占、依存ではない形で「一緒に歩いて行こう、これからも、ずっと」をキメたシーンは自立した一個人としての成長示す感動の場面でした。

 
 

第13話「独占欲で親友を縛り付けようとしていた少女が、仲間たちと協力して親友が羽ばたく後押しをする」

  • 何かを始めるのに早いも遅いもなく自分の好きなことを見つけてそれを貫くことが人生において重要。しかしそれはとても大変。だからこそアイドルという偶像崇拝が必要。
    • 大好きな親友(高咲侑)がスクールアイドルに嵌ったので、自分がアイドルになることで親友を繋ぎとめようとした上原歩夢。しかしスクールアイドルを続けることで自分にもファンが出来ており、侑との二人だけのセカイではなくなっていたことに気付きます。それに戸惑う歩夢でしたが、他の誰でもないファン(モブキャラ)の自発的な行動によって、新しい関係を受容することができました。最終回ではいよいよスクールアイドルフェスティバルが開催され、アイドルたちが自分たちの個性を発揮して、それぞれが好きなようにライブを繰り広げます。
    • そんな中、裏方として尽力する侑は、多くの人に大好きを届けようと広報活動に余念がありません。ビラ配りに励む侑に遭遇した歩夢は、侑が新しいことを始めるための自信を欲していると語られます。そんな侑を見た歩夢は、仲間たちと一緒に侑のために歌うのです。これまでの歩夢だったら侑を自分だけのものにしておきたいパラノイアに囚われていたため決して出来なかったことでしょう。侑が自作した曲に、仲間たちで歌詞をつけて、それをフェス最後の舞台で披露するというムネアツな展開。フェスが成功すれば自信になると言っていた侑の願いを打ち砕くように雨で中途半端な幕引きになりかけたところ、副会長が最後のステージを用意し、歩夢が侑の手を引いて導くという一連の流れは巧みのワザ。これまで侑が裏方としてみんなの為に尽力してきたからこそ、今度はみんなが支えるよというメッセージを込めて歌うのです。侑を束縛・独占しようとしていた歩夢が、侑を羽ばたかせるというエモさここに極まれり。
    • 最後の舞台の演出は高咲侑=あなたですよ!という構図が全面に押し出されています(「李徴は俺か!?」現象-『山月記』理論)。テーマが普遍的なので誰に対しても刺さるようになっており、みんなが自分=高咲侑のように感じるに過ぎないのですよと言われてしまえばそれまでですが……やっぱりスタッフの狙いどおり自分が「あなた」であることを意識せざるにはいられない構造になっています。何かを始めるのに早いも遅いもないこと、自分の人生においては好きなことをやることが重要だということ、だけどそれは決して楽ではなく苦難の連続でもあるということ、だからこそそんな時は偶像崇拝(スクールアイドルの歌と踊りを見て励まされろ)!というようなノリ。