山村高淑、フィリップ・シートン編著『コンテンツツーリズム ―メディアを横断するコンテンツと越境するファンダム』、北海道大学出版会、2021年

  • 本書の趣旨
    • コンテンツツーリズムの研究史を整理した上で、その概念を再定義し、コンテンツツーリズム研究を単なる日本国内のアニメツーリズムという特定研究領域から引き上げ、国際的な文脈に適用する。
書影

コンテンツツーリズムの主要概念の再定義

  • 【コンテンツ化】 contentsization
    • メディアを横断したアダプテーションとツーリズム実践を通して<物語世界>が絶え間なく展開・拡張していくプロセス。
    • ※2019年時点では、あるクリエイターの作品が再編集され、マンガやゲーム、実写映画、アニメ等、多様なメディア形式に変換(convert)されていくことで、コンテンツあるいは物語世界が拡張していくダイナミックな側面を指す言葉として用いられていた。

  • 【コンテンツ】 contents
    • ポピュラーカルチャーの形で創造・編集され、それ自体を消費することで楽しさを得られている物語、キャラクター、ロケ地、その他創造的要素といって情報内容

  • 【コンテンツツーリズム】 contents tourism
    • コンテンツによって動機づけられた一連のダイナミックなツーリズム実践・経験。コンテンツツーリストは<コンテンツ化>を通して絶えず拡張する<物語世界>にアクセスし、それを身体化しようと試みる。

要点

本書は国際的なコンテンツツーリズムの事例を集めたものであるが、ここでは総論として重要な点をまとめておく。

  • コンテンツツーリズムのアクター三者
    • ファン(関係性・経験)、地方自治体(持続可能性・アイデンティティ)、コンテンツ事業者(評価・著作権)の3者が調和しないとコンテンツツーリズムは達成されない。
      • 地方自治体の「持続可能性」とは収益性がありつつも地域に悪影響を及ぼさない水準のツーリズム、地方自治体の「アイデンティティ」とはコミュニティの誇りの面で歓迎できる要素となるコンテンツとのつながり。オーバーツーリズムやツーリストの振る舞いにより自治体にデメリットがあれば元も子もないし、作品の内容が自治体にポジティブに受け入れられない場合がある。

  • コンテンツツーリズムを分析枠組みとすることのメリット
    • コンテンツは多国籍、マルチメディア、マルチ作品という性質とグローバル規模のファンダムを備えている。それゆえ、21世紀というデジタル時代におけるグローバル化したポピュラーカルチャーとグローバルツーリズム活動との関連性を分析するに当たり、コンテンツツーリズムは適切な概念となる。

  • コンテンツツーリズムの効果・影響
    • コンテンツのファンから地域のファンへの転化をもたらす。
    • ポピュラーカルチャーの持つ力がツーリズムを介して異なる文化的背景を持つ人々を結び付ける
    • ファンである旅行者とホストコミュニティの人々(場合によっては、さらにコンテンツ事業者)との間の文化的連帯感・一体感
    • インターネットやソーシャルメディアがファンによるトランスナショナルな想像の共同体の形成を促進する

  • コンテンツツーリズム開発を成功に導くための単純な処方箋は存在しない
    • コンテンツツーリズム開発のための信頼できるto doリストを作るよりも、過去の成功例が示す教訓に基づき、学ぶべき一連の基本原則やベスト・プラクティスを見出すことの方がツーリズムに携わる人々にとっては有益

  • インターネット、ソーシャルメディアと写真の役割
    • インターネット、特にソーシャルメディアは大衆文化関連の巡礼において、重要な役割を果たしている。必見の場所に対する情報を提供し、観光地をマーケティングし、ツーリズムを共有する
    • ツーリストは(ツーリストでなくとも一般的に人間全般に当てはまるのだ)伝統的な家族アルバムのような親密に共有される輪を超えて、(共同)制作者としてメディア・テキストの範囲を広げている。例えばInstagramの画像にジオ・タグを付け、すぐにコメントを入れて共有することで、観光地の文化的(再)コーディングに貢献する。

  • ツーリズムに携わる人々に向けた重要な教訓
    • ツーリズム展開の潜在的可能性を占うための代替指標として、原作の持つ物語世界の力に着目すること
    • 原作の力を見ることで、如何に様々なメディア形式を横断して多様な後続作品を生み出すことができるのかを見通す
    • 観光地をメディアとして位置づけると、新たな観光地が生まれるということは、メディアミックスとメディアを横断したフランチャイズ(関連作品・商品展開)によるコンテンツ化の範疇にある事象として理解することが可能

  • 教訓と物語世界
    • 人気のある歴史上の人物(歴史的コンテンツ)や映像化等アダプテーションの成功例をいくつも生み出した小説シリーズは奥深い<物語世界>を持つ典型的事例。そうした<物語世界>は強力なコンテンツツーリズム展開力を潜在的に持っている。さらに<ポピュラーカルチャー>作品が、<文学>、<古典>、<ヘリテージ>へと変化するにつれ、関連する多様なツーリズムの現象も、当該コンテンツと同様、息の長い人気を維持する可能性が高くなる。