雑録

【史料】1920年代末期における海軍志願兵募集難とその解決策としての海事思想の普及(「昭和3年9月地方官会議ニ於ケル谷口呉鎮守府司令長官挨拶覚書」より)

旧字は適宜改め改行を施した

  • 概要
    • 1920年代末期、呉鎮における問題の一つに志願兵募集難があった。これに対し谷口呉鎮司令長官は地方官会議において海事思想普及の必要性を訴えている。地方長官に対し、国民を啓発することの重要性を説き、その協力を求めていることが分かる。

〔……〕要スルニ志願兵募集難ノ原因ハ種々様々アルノデアリマスガ、其ノ最大ノ理由トスル所ハ一般国民ガ海ニ関スル智識乏シク、海軍ニ就テノ理解少キコトニ帰スルノデアルト信ズルノデアリマシテ、之レガ当面ノ責任ハ我々海軍当局ニ在ルコトヲ辞スルコトハ出来ナイノデアリマス、

而シテ私ハ同時ニ兵事ニ干与セラルル地方官憲ガ、我々ト共ニ其ノ憂ヲ分タレムコトヲ切望シテ止マナイノデアリマス、

少シク余談ニ渉リマスガ昨年海員掖済会ノ理事ノ一人ガ本府ニ参ラレマシタ際、私ハ全国中掖済会員ノ最多イ府県ハドコデアルカト云フ質問ヲ致シタノデアリマス、

ソウ致シマスルト、其ノ答ハ三重県デアルト云フノデ私ハ寧ロ不思議ニ感シタノデアリマス、其ノ仔細ハ従来三重県ハ海軍志願徴募ノ成績ニ於テ必ズシモ良好デハナイ、然ルニ同ジク海ニ関スル理解ノ発露デアラネバナラヌトコロノ掖済会ノ事業ガ独リ非常ナル発展ヲ遂ゲテ、他ノ大都市ヲ抜キ大府県ヲ凌イデ全国第一位ノ名誉ヲ有スルト云フコトハ何カ理由ガナクテハナラナイト感ジマシテ、更ニ其ノ事ヲ質問致シタノデアリマス、

理事ノ答ニ依リマスルト、ソレハ後ニ枢密顧問官トシテ一昨年デアリマシタカ物故サレマシタ有松英義氏ガ先年三重県知事デアツタ時ニ、海員掖済会ノ為ニ非常ナル尽力ヲ為シ県民ヲ指導セラレタ結果デアルト云フコトデアリマス、

私ハ此ノ話ヲ承リマシテ今更ノ如ク一人ノ力ノ甚ダ偉大ナルコトヲ感ジマシテ、今年ノ徴募官一行ニ対シマシテモ、此ノ逸話ヲ引用シテ至誠而不動者未之有也、一徴募官ト雖モ至誠ヲ以テ其ノ職ヲ尽シタナラバ必ズ地方官民ヲ動カスコトガ出来ルト申シタノデアリマス、

私ハ忌憚ナク申シ上ゲマスレバ我国防ノ前途ノ為ニ海軍ノ為ニ有松英義君ノ如キ人ヲ得タイト存ズルノデアリマス、必ズシモ府県知事トハ言ハズ、一学務部長、一兵事課長、一属官ト雖其ノ熱心ニ依テ必ズヤ偉大ナル功績ヲ挙ゲラルルデアラウト云フコトヲ確信シテ疑ハナイノデアリマス、

志願兵検査場又ハ簡閲点呼場等ニ地方官憲首脳部ノ臨場セラルルコトハ、ソレ自身ガ自ラ地方人民ニ対スル無言ノ激励デアツテ、其ノ人心ニ与フル影響甚ダ大ナルモノアルコトハ屡報告ニ接セルトコロデアリマス、何卒将来ニ於テ是等諸官ノ多端ナル諸般ノ公務ガ少クトモ短時間ヲ此ノ重要ナル兵事ノ奨励ノ為ニ割カルルコトヲ不可能ナラシムルコトナキ様希望シテ已マナイ次第デアリマス、

召集事務、簡閲点呼、軍事普及其ノ他ノ兵事事務ガ当事者本務ノ多忙、経費ノ不足等幾多ノ障害アルニ拘ラズ、漸次改善進歩ノ実績ヲ示シツツアルコトハ畢竟各部御精励ノ結果ニ外ナラヌノデアリマシテ、衷心深ク感謝ノ意ヲ表スル次第デアリマス、

簡閲点呼ヲ艦上ニ於テ執行スルノ好果ハ海軍当局ニ於テモ夙ニ之ヲ認識シ、本府ト致シマシテモ各地方ノ御要望ニ副フ如ク実施セムト致シテ居ルノデアリマスルガ、何分経費節減ノ為充分其ノ実現ヲ得マエヌノヲ遺憾ト致シマシ

扱テ熟々世界ノ大勢ヲ考ヘ遠ク欧米列強諸国海軍ノ現状ヲ察シ、近ク隣邦支那ノ国情ニ鑑ミマスレバ、帝国海軍ノ使命ガ一日又一日其ノ重大ヲ加ヘツツアルコトヲ感ゼザルヲ得ナイノデアリマス、何卒諸官ノ一層ノ努力ニ依リマシテ一般国民ノ指導開発其ノ宜シキヲ得、海軍兵力ノ充実ガ其ノ質ニ於テモ寸毫モ遺憾ナキヲ得ル様希望ニ堪ヘザル次第デアリマス、