雑録

【史料】1920年代末における呉海軍人事部の海事思想普及政策 (呉海軍人事部「地方官会議ニ於ケル人事部長口述覚書」昭和3年、昭和4年より)

旧字は適宜改めた。

  • 概要
    • 1920年代末期の地方官会議においては、海軍の志願兵徴募が問題になっている。特に呉鎮守府では、横須賀や佐世保が選抜採用しても余裕綽々であるのに比べ、身体・学力の面で充分に志願兵として適さない者たちが合格者に相当数含まれてしまっていると指摘している。そのため志願兵徴募の成績を上げるべく、海事思想の普及をより一層発奮し努力を傾けるよう求めている。
    • ワシントン軍縮以降からロンドン軍縮前の、呉海軍人事部の海事思想普及政策は志願兵徴募が主たる目的であることが分かる。
    • 簡閲点呼の際、艦艇を派遣して艦上点呼を行っており、その際民衆を乗艦せしめ海事思想普及を図っている。

第三.簡閲点呼ニ関スル事項

二.艦上点呼執行ニ就テ(昭和3年版)

艦上点呼執行ノ範囲ハ成ルヘク広域ニ亘ル様当部ニ於テ計画セシモ燃料ノ増配不可能ナリシ為本年ハ当初ノ計画ヲ変更スルノ已ムヲ得サリシハ遺憾ナリ
艦上点呼ヲ軍事普及ノ為ニ各地ニ於テ有効ニ利用セラレシニ対シテハ御同慶ノ至ナルカ大阪方面ニ於テ観覧者中ニ真面目ヲ欠キシ者アリシ報告ニ接セルハ遺憾ニシテ将来此ノ点ニ関シ相当御配慮ヲ煩シ度シ

一.簡閲点呼ニ就テ(昭和4年版)

(二)艦上点呼ノ有効ナルハ識者ノミナラス一般ノ認ムル所ニシテ執行ノ範囲ハ成ルヘク広域ニ亘ル様当部ニ於テ努メタルモ那智ヲ以テセシ内海及伊勢湾方面ニ於ケル実施個所カ燃料及同艦行動上ノ都合ニ依リ多数ニ及ヒ得サリシハ遺憾トスル所ナリ

(三)艦上点呼ヲ軍事普及ノ為ニ各地ニ於テ有効ニ利用セラルルコトハ御同慶ノ至リナルカ点呼ヲ主目的トシ軍事普及ヲ副トスル点ニ関シ未タ徹底セス観覧者及便乗者中尚物見遊山的気分ノモノモアリシ等ノ報告ニ接スルハ遺憾ニシテ将来此ノ点ニ関シ更ニ相当御配慮ヲ煩シ度シ

第四.軍事普及ニ関スル事項

前文

昭和3年

軍事思想普及ニ関シテハ 各地共多大ノ御尽力ヲ得ツツアル所ナルカ 志願兵徴募ノ成績等ニ徴スルニ 猶未タ全般ニ普及セス発奮ノ余地多シト認ムヘキ地方モ少カラサル現状ニ鑑ミ 到底現状ニ満足シ難キヲ以テ 当部ニ於テハ 従来ノ方針ニ基キ 能フ限リノ努力ヲ傾注シ度キ考ヘナルヲ以テ 地方ニ於テモ左記御諒承ノ上 可然御計画今後一層ノ効果ヲ挙ケラレムコトヲ切望ス

昭和4年

軍事思想普及ニ関シテハ各府県トモ自発的ニ多大ノ尽力ヲ致サレ其ノ効果ノ如キモ年一年顕著ナル向上ノ蹟ヲ示シツツアルハ明カニ認メ得ル所ナルモ志願兵徴募ノ成績等ヲ考査スルニ猶未タ満足シ得サル地方モ少カラサル次第ナルニ鑑ミ当部ニ於テハ従来ノ方針ニ多少ノ改善ヲ加味シ経費ノ許ス範囲ニ於テ最大努力ヲ傾注シ度キ所存ナルヲ以テ地方側ニ於テモ左記御諒承ノ上更ニ一段ノ成果ヲ挙ケラルル様此ノ上トモ慎重ニ御計画アラムコトヲ切望ス

一.軍事講話実施ニ就テ

昭和3年

(イ)明年度徴募期間前志願兵奨励ノ目的ヲ以テ講和官ヲ派遣スルコト困難ニテ総計三十個所位ノ見込ナリ

(ロ)右ニ対スル聴衆ハ可成青年子女並之カ戸主タル父兄ヲ主トシ余地アレハ他ノ一般ニ及ホスコトトシ尋常小学生ヘノ講演ハ此ノ際催サレサルコト

(ハ)何レノ場合ニ於テモ講演ハ主催者ト共ニ事前ノ準備並ニ実施ニ対スル司催者ヲ定メ其ノ官職氏名ヲ夫々特ニ明記御通知相成度シ

昭和4年

(イ)明年度志願兵徴募期前管区全般ニ対シ応募奨励ノ目的ヲ以テ講演官ヲ派遣シ得ヘキ場所ハ経費ノ関係上総計50個所位ノ見込ナリ

(ロ)昭和3年版に同じ

(ハ)昭和3年版にほぼ同じ

(ニ)前記約50個所ノ対各府県按配ハ慎重ニ顧慮スヘキニ付当部ニ一任セラレ度シ
  尚又各府県実施ノ期間ハ別表(6月2日兵事懇談会ノ各位ノ御内意ニ基キ調整ス)ノ通同意ヲ得度シ

二.活動写真映写並ニ映画貸与ニ就テ

昭和3年

(イ)活動写真映写ハ目下人員ノ関係上御要望ニ応シ得サル場合多キニ付御諒知ヲ得タシ
(ロ)映画ハ各地ノ御希望ニ対シ先約順ニ転々貸与ノ有様ニシテ当部ニ存在スルコト稀ナル状況ナルヲ以テ御希望ノ場合ハ可成早目ニ御通知ヲ得度シ当部ヨリ貸与シ得ル映画種類及巻数左表ノ如シ
(ハ)貸与期間ハ一週間ト限定シ期日繰延及又貸等ハ内規上不可能ト御承知アリタシ尚映写ニ際シ観覧料等ハ一切徴収セサル規定ナルヲ以テ御諒知置相成度シ

昭和4年

(イ)活動写真映写ニ就テハ呉海軍人事部報第三号所載ノ海軍軍事普及活動写真班派遣要領ニヨリ御諒知ヲ得タシ

(ロ)昭和3年版に同じ

[備考] 右ノ外前記活動写真班派遣要領中ノ「フヰルム」中融通シ得ル分アル場合ハ便宜貸与スルコトアルヘシ〔……〕以下昭和3年版(ハ)に同じ

三.冊子配布ニ就テ

昭和3年

毎年春秋二回ヲトシ呉海軍人事部報発行ノ予定ナリ右以外ハ経費ノ関係上計画困難ナリ

昭和4年

(昭和3年版に同じ)
因ニ呉海軍人事部報ノ地方配布先左ノ如シ
管区各府県庁、同府県支庁、同市区町村役場、同警察署、同在郷軍人会連合支部、同在郷軍人支部、同連合分会、同分会、同聯隊区司令部、同海軍協会、同憲兵隊、同憲兵分隊、同師範学校、同商船学校、同呉桜会員、同海軍班、同海軍軍人ヨリ成ル私的団体等

四.軍港並ニ軍艦観覧ニ就テ

昭和3年

官公吏、学校職員、生徒、青少年団、在郷軍人等ノ軍港並ニ軍艦観覧ハ常ニ歓迎スル所ニシテ出来得ル限リ便宜ヲ採リツツアリ観覧ヲ実施セラルル場合ハ準備ノ都合アルヲ以テ約1週日前本本府ヘ出願セラレタシ
尚観覧時刻ハ午前8時ヨリ午後4時迄トシ月曜午前及土曜午前ハ可成避ケラレ度又期日変更及来呉ヲ取止メラルル等ノ場合ハ当部ヘ急報セラルル様致度

昭和4年

昭和3年版に同じ

五.軍艦便乗ニ就テ

昭和3年

近年軍艦便来ノ希望者続出ノ状態ニシテ此等ニ対シテハ為シ得ル限リ便宜ヲ計リツツアルモ特ニ軍艦等ヲ寄港セシメ又ハ回航セシムルコトハ特別ナル場合ノ外困難ニ付適当ナル艦船便アル場合ノ外ハ便来ヲ許可セラレサル次第ト御承知相成度シ
毎年夏季ニ於テ執行スル艦上点呼ニハ事情ノ許ス限リ便来方取計フヘキニ付此ノ時機ヲ利用サレムコトヲ望ム又便来申込ニ対シテハ海岸地方ヨリモ山間部ニ重キヲ置カルル様御配慮ヲ乞フ

昭和4年

軍艦便乗ノ希望者ハ逐年激増ノ状態ナリ軍部ニ於テハ為シ得ル限リ便宜ヲ採リツツアルモ之カ為ニ特ニ軍艦等ヲ寄港又ハ回航セシムルコトハ特別ノ場合以外困難トスル所ナルニ付適当ナル艦船便アル場合ヲ除キ一般ノ便乗ハ許可サレサル次第ト御承知相成度シ
毎年夏季ニ於テ執行スル艦上点呼ニハ特ニ事情ナキ限リ一般ノ便乗方取計フヘキニ付此ノ機会ヲ利用サレ度シ但シ已往ノ便乗状況ニ鑑ミ便乗券配布ニ関シテハ相当制限ヲ附スルノ必要ヲ痛感シツツアル次第ナルヲ以テ其ノ都度軍部ヨリ通知スヘキ附加条件ニ対シテハ十分ニ顧慮セラルル様切望ス

六.博覧会等ニ対スル物件貸与ニ就テ

昭和3年

本件ハ予メ海軍省ヘ手続ヲ要シ且物件ノ種類ニ依リテハ輸送上特殊ノ注意ト準備トヲ要スルヲ以テ御計画ニ先チ一応御協議ヲ得度尚決定ノ際物件ノ包装、往復運搬、陳列及陳列中ノ保存等ニ要スル費用並ニ運搬陳列中の毀損亡失ニ対シテハ地方主催者側ノ負担ト御承知相成度シ

昭和4年

昭和3年版にほぼ同じ