アンレス・テルミナリア「ルチア=ヴァリニャーノ」シナリオの感想・レビュー

世俗から隔離された創られた箱庭の中での安寧を自ら選びとる話。
ルチアの異能は神との直接交渉であり代償と引き換えに何でも願いを叶えることができた。
その能力はハイパーチートとも言え、セカイの根幹を揺るがす大変危険なものであった。
ルチアは教祖として祀り上げられた挙句、精神操作の異能を持つ信者に乗っ取られてしまう。
ルチアの父は娘を解放する為、能力の譲渡を請うがその代償はルチアの成長停止であった。
またルチアの父は代償として一生娘と顔を合わせることが出来ないという制約を負ってしまう。
娘の危機に際して父親が禁を破って助けるが、結局は認識できないだけで消えてないエンドとなる。
文章表現ではテキストにおいて炉利が大人ぶる時に使用する「ですけど」構文が多用される。

チートな異能のせいで教主に祀り上げられた少女の父との絆の話

教主ではないただのルチアとしての承認
  • 神と対話し代償と引き換えに願いを叶えさせることが出来るルチア
    • ルチアは本作における炉利っ子先輩枠。先輩なのに未発達の精神と肉体で主人公に構って欲しがり寄ってきます。そんなルチアが保有する/していた異能はまさにチート。神と直接対話し何でも願いを叶えることができたのです。しかし現在はその異能は失われており、ルチアは能力を取り戻し教団を再興させようと息巻いています。当初は、その余りにも強大な力を怖れた「機関」が能力を封じたと思われていたのですが、実態は内部分裂であったことが明らかになるのがルチアシナリオのテーマです。
    • シナリオの前半はルチアが使命という呪縛から解放されるところが見所。ルチアは教主という立場から健気にも世界情勢を憂いているのですが、最早その異能はありません。ルチアを構成しているアイデンティティは教主であることに依っているため、異能が失われれば自分というものがなくなってしまう。ルチアは自己の存在証明を喪失しかけるというわけです。そんなルチアに対して、能力が無くてもみんなルチアが好きなんだと実感させればフラグは成立。教主時代のルチアを知らない主人公ズが友情パワーを炸裂し、教主としてのルチアではなくルチアとしてのルチアを肯定するのです。
    • こうして例え作られた箱庭だとしてもそのなかで安寧を享受することに幸福を見出したルチア。しかしその平穏も長くは続かず信者たちがルチアを奪還しようと襲い掛かってきます。この騒動の中、ルチアが父親に裏切られたのではないことが明らかになります。当初はルチアの異能を父が利用していたとのミスリードが入りますが、実は信者Aが裏切っていた!この信者Aは精神操作の異能を持ち、ルチアを操って神と交渉させ願いを叶えていたのです。ルチアの父は信者Aによって排除されてしまいます。それでも父は必死で抗い、隙を見てルチアの意識を取り戻させると、その異能の譲渡を引き受けルチアを解放しようとします。この目論見は成功するのですが、譲渡の代償としてルチアは成長をとめられてしまうのです(だから炉利っ子だったというワケ)。そしてルチアの父は二度と娘の前に姿を現してはいけないとの制約を負います。
    • ですが、制約は破られるもの。ルチアの父は娘の危機に際し禁を破ってでも守ります。こうして真実が明かされ、感動の別離が演出されてルチアの父は消滅していくことになります。父との別離を経て神から解放されたルチアは主人公と共に箱庭世界で生きて行く!というちょっぴりビターエンドになるのですが、実質的にはルチアの父は消滅しておらず、お互いが認識できなくなっただけで、学園生とその用務員として新たに関係性を構築することとなります。ルチアの将来の夢は教会を持つこと。ただしそれは神の救いではなく社会的弱者に寄り添うことで救いをもたらそうとするヴァリニャーノ教本来の教えでしたと原点回帰で幕を閉じます。

神との交渉の代償として成長を止めた炉利っ子ルチア
創られた箱庭の中における安寧を自ら選ぶ
炉利っ子による「ですけど」構文

アンレス・テルミナリア 感想セット