【感想】『タコピーの原罪』(1話~5話)を読んだ

風俗嬢の母親が、娘の同級生の父親を寝取った為、娘が学校で虐められるようになった話。
タコピーは秘密道具で人類をハッピーにするべくやってきた宇宙人!
地球に着いたばかりで困っていた所をしずかちゃんに助けられ、恩返しをする決意をしたの。
しかし虐めの原因は上述の通りまりなちゃんの父がしずかちゃんの母に熱を上げ家庭が崩壊したから。
自殺したしずかちゃんを救う為ループを繰り返すが上手くいかないタコピーはまりなちゃんを殺害。
さらにしずかちゃんに想いを寄せる鬱屈したインテリ男子は隠蔽工作をして死を隠そうとする。
まりなちゃんになりすましたタコピーだが家に帰ると崩壊した家庭を目の当たりにすることになる。

第1話「2016年のきみへ」

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  • 学校で酷い虐めを受ける少女、自殺をする
    • ニチアサのようなコミカルな世界観と理不尽な過酷な境遇を対比させることで不条理を濃密に描き出す作品。ハッピー星人のタコピーが人類を幸せにしようと奮闘するも、過酷な虐めを受ける少女には全く響かないものでした。この本来なら万能なはずなアイテムが全く役に立たないという事実がブラックジョークを際立たせています。それでもタコピーが来たことで、日常が少しだけ変化したしずかちゃんは、徐々に笑顔を見せてくれることになります。離婚したしずかちゃんの父が家庭に残してくれた犬のチャッピーが、しずかちゃんにとっての救いであり、それをタコピーに見せることで交流の深化を描いています。しかしある日突然そのチャッピーを喪ったことで、しずかちゃんは生きる意志を喪失。チャッピーと散歩しタコピーにまた明日と、はにかみながら笑顔を見せた次のページをめくると・・・絶望が待っているという展開です。web漫画ならではの、ページをめくるという作業をストーリーの中にすら組み込んでいる表現技巧はワザマエとしか言いようがありません。そしてこの時点でも絶望に気付かないタコピーは、自ら貸し与えた秘密道具でしずかちゃんが自殺してしまう場面に直面するのです。しずかちゃんを救うべく、タイムリープしたタコピーは自殺を防ぐために奮闘していくことになります。

 

第2話「タコピーの冒険」

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  • タコピーが良かれと思ってやった行為が虐めをエスカレートさせる
    • タイムリープにより、まりなちゃんによる虐めを次々と事前に防いでいくタコピー。しかしそれが余計にヘイトを募らせているとも知らずに。そして未だ性善説を信じるタコピーは話し合いをすれば虐めはなくなると信じ、しずかちゃんに変身してまりなちゃんの下へ向かいます……。そこでタコピーを待っていたのは比類なき暴力。何を言っても殴られるタコピーはついにシャーペンで刺されそうになり心が折れてしまうのです。そして、またもやタイムリープ発動。こうしてタコピーは自分のせいでしずかちゃんが刺されてしまう境遇を招いたことに愕然とするわけです。次の周回ではタコピーは恐怖でしずかちゃんを助けに行くことが出来ませんでした。しかししずかちゃんに変身し、必死で周囲に助けを求めます。こうしてタコピーの活躍で顔面を殴られるだけで済んだしずかちゃん。一方で、まりなちゃんの家庭環境の一端も描写されます。風俗狂いの父親のせいで精神崩壊した母親の相手をしなければならないまりなちゃんの心境が、嵐のように吹き荒れるのです。まりなちゃんの母親のストレス発散の手段は娘に縋りつくことしかできないわけで……。「パパはお夕飯、あの人と食べるそうだから」のシーンは是非見て欲しいところ。

 

第3話「まりなキングダム」

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  • なんど繰り返しても因果律は変えられない
    • しずかちゃんの心の拠り所であるチャッピーを保健所送りにされると、しずかちゃんは自殺してしまうぞ!そんなわけでタコピーは無限のループで因果律の改変を試みます。しかし何度やってもまりなちゃんが出現。まりなちゃんは自らをチャッピーに襲わせることで、保健所送りにしてしまうのです。まりなちゃんの執念が因果律を強化させ、タコピーのループを上回ってしまうのですね。チャッピーがまりなちゃんを襲うのを必死で止めようとするしずかちゃんに対し、まりなちゃんの容赦ない暴力が浴びせられます。言葉の辛辣さも凄まじく、「一人じゃ生きてけない寄生虫が犬クソ飼える身分かって聞いてんの」や「クソ犬管理不行き届傷害女じゃん!!」は破壊力バツグンです。飼い主がこれほど殴られればチャッピーはまりなちゃんに牙を剥くわけで・・・まりなちゃんがタイミングよく助けを叫べば、チャッピーの保健所送りルートは確定なわけです。チャッピーが連れていかれてしまう絶望感が、ループの「101回目」という数字と共に非常によく表現されています。

 

第4話「タコピーの救済」

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  • タコピー、ついにまりなちゃんを殺害してしまう。ループ能力も喪失する。
    • チャッピーが保健所送りにされた後、まりなちゃんに呼び出されたしずかちゃん。ここでもまりなちゃんの暴力はエスカレートし、風俗狂いの責任転嫁までされていきます。「お前の生活費どこから出てると思う?うちのパパの財布だよ。お前の着てるものも食べてるものも。全部お前の母親が男から吸い上げた金でできてる。まりなのパパが頑張って稼いだお金から!!」のシーンは必見ですね。靴で頭を踏みつける行為も効果を加速させています。またループで無かったことにしようとするタコピーでしたが、ここで勇気を出す決意をして、まりなちゃんの前に躍り出ます・・・ゴッ!・・・なんと今度は逆にまりなちゃんを殺してしまうのでした・・・横たわる死体。自分がしでかした罪に震えるタコピーでしたが、打って変わってしずかちゃんは大喜び!ループ能力を喪って狼狽するタコピーに向けられるしずかちゃんの楽しそうな顔ときたらこの上ない素晴らしさです。しずかちゃんの笑顔を見てタコピーの目的は達成されたわけですが、ここからやり直しのきかないタコピーの本当の意味での物語がはじまった!第一部(完)的なエンドになります。

 

第5話「東くんの介在」

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  • しずかちゃんに頼られることで承認欲求を満たした東くんは殺人の隠蔽に協力することになる
    • 「妖精村殺人事件~腰みのは見ていた~」の如く、タコピーがまりなちゃんを殺した殺害現場を東くんに見られてしまいます。ここでのポイントはしずかちゃんの狂気が東くんやタコピーに感染していくこと。当初東くんはロジカルに殺人を断罪し、自首するよう冷酷に告げるのですが……ここでしずかちゃんは東くんにすがるのです。東くんはしずかちゃんに好意を抱いているだけでなく、兄と比較され続けて来た劣等感をも抱いている様子。そんな複雑な感情を持つ東くんに助けを求めることで、繊細な気持ちをくすぐるのです。「東くんしかいないの。助けて」とそれにノックアウトされてしまう東くんのシーンは一見の価値アリです。結局、タコピーの秘密道具でまりなちゃんの死体を保存して埋めることになります。そしてタコピーがまりなちゃんに変身することで、隠蔽工作を図ることになります。一連の流れに疑問を持つタコピーが、自分が間違っていないかを再確認しようとするも、しずかちゃんの笑顔で全てが流されて行くのです。魔性の女、しずかちゃん。しずかちゃんのママンが男を狂わせてきたのと同様に、これは血統によるものかもしれません。ラストはまりなちゃんの代わりに家に帰ったタコピーが夫婦喧嘩に巻き込まれる形で第5話は幕を閉じます。「人の金でわけわかんねーもん作りやがって。この寄生虫がっ!!」。まりなちゃんがしずかちゃんを虐める際に放っていた暴言はここからきていたことが判明します。

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