【感想】『豚のレバーは加熱しろ』(漫画版)を30話まで読んだ雑感

アニメ見てジェスたそが可愛かったのでつい漫画版を読んでしまった。
基本路線は転生して豚になった理系男子大学生の主人公と転生先のファンタジー世界の奴隷少女が王都を目指す物語。
王都に辿り着く迄の過程は面白く読むことができ、豚が少女の幸せを願って別離を選び現世に戻った時は感動を生んだ。
本来ならここで第一部(完)となり、物語もビターエンドとして綺麗にまとまったとさえ言える(ここで終わっとけ……)
第二部のシナリオは引き延ばしのために無理やり作ったのか、設定を唯々と読まされているだけで面白みも無い。
ジェスと豚の絡みが本作の面白さの根源であり、転生した豚が複数現われ世界情勢モノをやられても困惑するのみだった。
漫画版22話以降は完全に蛇足。アニメ版は世界情勢モノなんてやらずに豚と少女のラブコメエンドで良いんじゃない?

本作の面白さの根源は豚とジェスたその掛け合いにある

本作の魅力はジェスたそにある

作者が頭の中で考えたファンタジー世界の社会システムのことを語られても一般読者はついていけなくなる。この現象は『終末何してますか?』と同じ原理かもしれない。『終末何してますか?』はセカイ系の白眉とも言え、社会システムに使い潰される運命にある少女がそれでも肯定的に自分の運命を受け容れ愛する人の為にメガンテするという話であった。アニメでは13話かけて少女のために尽くす主人公とそれに応える少女の健気な心情が描かれた。原作ではそれが3巻までに該当し、4巻以降は作者の考えた世界観を提示するという内容だった。話としては3巻までが作品の絶頂であり、4巻・5巻は完全に蛇足であったと言える。アニメでは勇気をもってその蛇足部分を捨象したことで、かなり綺麗にまとまったと思う。ここでは『豚レバ』の話をしなければならないのだが、物語構造があまりにも『終末何してますか?』とかぶって見えたので、先行事例として挙げさせてもらった。
 

ジェスたそコスプレ集

『豚レバ』は転生して豚になった男子理系大学生の主人公と転生先のファンタジー世界における奴隷少女が王都を目指す物語である。人情モノのロードムービーなどではなく、奴隷制度を前提とした社会の安定を根幹とする世界観が徐々に明らかになっていく社会システムモノであった。そのような中で奴隷の少女と豚になった男子理系大学生が心を通わせてお互いを思慕するようになっていく過程が丁寧に描かれており、そこに何よりもの面白さがあった。一応、ファンタジー世界の社会システムを簡略に述べておくと以下の通り。ファンタジー世界はかつて魔法使い同士での殺し合いが行われ戦争状態にあった。そのような中で勝ち残った一族が王族として支配権を握った。王族は他の魔法使いの魔力を首輪で封じたが、そうすると従順な性格になり他者に尽くすことを喜びとする奴隷が出来上がった。男児の魔法使いについては生まれる前に堕胎させ殺害した。女児は8歳になると奴隷少女として地方貴族たちに貸与され16歳まで奉公させられた。16歳になると奴隷少女は貴族から解放され、奴隷狩りから逃れながら、王都を目指すように使命づけられている。その理由は王都までの道中で優れた資質を持つ者たちを選別する過程であった。王都まで辿り着いた奴隷少女は首輪の封印が解かれ魔法使いとして安寧の暮らしを得る。以上が本作の異世界の設定の要旨である。
 

痴女と化したジェスたそ

主人公の豚と奴隷少女もまた道中において奴隷狩りの目を掻い潜りながら王都を目指していく。その際、愛する奴隷少女を喪ったイケメンや彼を慕う13歳の奴隷少女、また凌辱され子宮が膿んだ巨乳系奴隷少女なども出てきてダークファンタジーっぽさも増していくことになる。また主人公が異世界転生した理由も明らかになる。奴隷少女のみ黒い魔石を用いて奇跡を祈ることができるのだが、メインヒロインであるジェスたそは奉公先の魔石を盗んで使用し、王都に行くまで一緒に同行してくれる存在を願っていたのである。これにより豚のレバーを生で食べ昏睡状態に陥っていた主人公の魂が異世界に召喚され豚となったことが明らかになる。本作を良作たらしめているのが、豚となった男子大学生が異世界における異性との関係をきちんと弁えていること。ジェスたそと豚(主人公)は相思相愛の仲になりお互いの想いを告白するのであるが、主人公は自分との恋情慕情よりも少女の幸せを優先するのである。まぁここで主人公が漢を見せ何があっても自分がジェスたそを幸せにしてやるとゴリ押しすればある意味ではハッピーエンドだったのかもしれないが。豚が現実世界に戻る方法は死ぬことであり、死ねば魂が自動的に元いたセカイへ戻るのだという。主人公とジェスたそが相思相愛ながら相手の事を慮って別離を選ぶというビターエンドで物語は幕を閉じた。
 

ジェスたそ感動シーン

・・・と思いきや、ここから第二部が始まるのだが完全に蛇足。主人公が異世界での体験記をなろう系小説サイトにアップすると、同じ様に豚になった過去を持つ人々が現われ、参集することになる。彼らの話を総合すると、異世界は秩序が崩れて戦争状態に陥ってしまったとかいう展開になる。そしてジェスたその安否を気遣うために再び異世界へと飛ぶのであるが、主人公はジェスたその所へ行くことは出来ず、ジェスたそもまた記憶を封印されていたのであった。以後、作品世界は豚と奴隷少女のイチャラブ豚ファンタジーなどではなくなり、作者の頭の中で考え出された架空の世界の勢力抗争を追うだけの世界情勢モノへとなり果ててしまう。これからまだ大どんでん返しがあるのかもしれないが、21話で終わっておけばビターエンドだったけどそれなりに良作で終わったのになとは思った。