岸本美緒「「中国」とは何か」尾形勇・岸本美緒編『新編世界各国史3中国史』所収、山川出版社、1998、3-23頁

  • 中国というまとまり
    • 「中国」というまとまりは、数千年にわたる人々の政治的・経済的・社会的な営みの中で変動しながら形成されてきたものである。そして「中国」という概念は、人々が自らの過去をたえず解釈しながら構成・再構成されてきたものであるという意味では、思想的な産物でもある。近代にいたり、列強の侵略さらされた人々のあいだでは、「中国」という国家意識が高まり、領土的空間としても人間的集団としても、「中国」史上例をみないほどくっきりした輪郭をもつ「中国」像が形成された。
  • 地理的空間としての中国
    • 米地理学者スキナー
      • 河川を中心とする交通運輸システムによる分け方で、華北・西北・長江上流・長江下流・東南沿海(福建など)・嶺南(広東・広西など)・雲南貴州の8つの大地域に分けられる。
    • 国史を見る場合には、中国全体を自明のようにひとつの単位としてみるのではなく、それぞれの地域の相互的独自性に注意する必要がある。
  • 他民族国家としての中国
    • 中華人民共和国では、スターリンの定義にならって「言語、地域、経済生活及び文化の共通性にあらわれる心理状態」の共通性をもって、民族の指標としている。
    • 諸民族は近代の反帝国主義運動の過程をへて結びつき、「中華民族」というひとつのおおきな民族をなしているというのが中華人民共和国の見解。
    • 今日「民族」といわれている集団はけっして単純な境目で区切れるようなものではなく、複雑な歴史過程を通じて人々の共同意識を成すにいたった曖昧な形成物。そのような複雑さに気づくことが歴史を学ぶ効用なのであって諸民族の形成と結合の歴史的過程を冷静な目で眺めてみることは、少数民族を考える上での第一歩。
  • 「中国」「中華」の観念
    • 都市国家ともいうべき小さな政治単位の林立状態からしだいに広い領土的なまとまりが形成されてくる春秋戦国時代を通じ、文化を共有する諸国が東西南北の「夷狄」との対比で「中国」として意識されるようになる。
    • 「中国」という概念が指し示すのは、興亡する個々の王朝をこえた時間的連続性と文化的共通性をもつ空間的範囲ないし人間集団である。
    • 「華夷意識」の持つ二面性
      • 「華」と「夷」を区別して「夷」を排除しようとする排外思想
      • 夷狄でも中国的な「礼」を身につければ中国と見なしてよいとする、包容性のある論理
  • 近代「中国」ナショナリズム
    • 列強の圧迫のもとでさまざまな立場のせめぎあいのなかから形成されてきたあらたな「中国」意識は、前代とは大きく異なる質を持っている。
    • 「中国」と「他国」との境を明確にし、従来想定されていた社会的差別を否定し国家を担う対等な「国民」をつくりださなければならない
    • 近代中国のナショナリストたちの課題は、中国―夷狄、君子―小人といった、開放性と差別性をあわもつ秩序観になじんできた人々の脳裏に、はっきりとした枠をそなえた「中国」の形象を生み出し、それを支える気概を持つ団結した「国民」を創出することであった。
  • 中国社会の特質
    • 中国帝政時代における社会の柔構造的な性格
    • 中国における「家」の結合