世界史教育に対するこれまでの問題意識の変化

単一な世界史像への妄信

  • 「国語」とは何か?
    • 国語は日本語ではない。国語教育は日本語教育でもない。学部時代に、国語の多様性と矛盾を経験した。国語の学力観としては二つの潮流があった。一つは読解力リテラシー、つまりは論理的・批判的思考、メディアの読み解き能力としての言語能力の育成である。もう一つは伝統的な言語文化、すなわち道徳性の強い思考停止を促すものであった。この批判的思考と思考停止、この二つは矛盾するものではないか。
    • 「国語」とは何ぞや? →田中克彦安田敏朗イ・ヨンスクや言語帝国主義などを読む。
    • 国語とは近代国民国家の統合原理の装置の一つ →問題意識;国語はどのようにして形成されるのか? →問題設定;日本における「国語」の形成過程・国語教育はどのようなものであったか(卒論のテーマ)。
  • 問題意識
    • 日本だけではなく、世界各地の「国語」はどのように形成されてきたか?
    • 国民国家とは何か?
    • 国民国家の統合原理の他の手段は何か?
      • 歴史教育;単一な世界像があるとの妄信=教科書の通史を「終わらせる」ことに血眼になる高校教師 →教科書読んで板書してプリント穴埋め →ツマラン!! →このような画一的な歴史教育をどのように克服するか →主題学習

系統的通史学習と主題学習の連関とその挫折

  • かつて面白い授業をどのように捉えていたか。
    • 高校で行なわれている授業は?:教師主体、板書写し、プリントの穴埋め、教科書の羅列 →ツマラン →じゃあ、どういう授業が面白いと思うの?
    • 予備校の論述対策のテーマ史が面白かった。教科書の知識は自分でやるものだと思っていた。
    • つまり、面白い歴史は、様々な側面から歴史を捉え直すこと =教科書の羅列ではない系統的通史学習の克服 →通史学習と主題学習の連関
      • 面白い歴史がテーマ史的な主題学習なら別に教師主体でもイイジャナイ? →面白いテーマを教材研究することが目的化してしまう
  • 高校での主題学習の実践から
    • 受講者は高校三年生の文系選択受験世界史コースのみなさん。
    • ありがちだが、身近なモノから世界史を捉え直そうと「砂糖と茶とイギリスの覇権」という主題学習を行なう。
      • 教材研究に力を入れ、資史料や絵画、図絵、地図、年表、文学的な作品を提示しながら問答法的な授業をする →自分では首尾は上々かと思っていたら授業検討会で酷評 →(1)自分の世界史像を語ってはいけない;世界史像の提示は現場の先生の役割なので越権行為、(2)受験知識を餌に授業をするのは最低の行為で勉強する動機は受験ではない、(3)問答法と言っても教師主体のバーバリズム、(4)受講者が高校三年受験世界史組みだったから授業が成り立ったようなもの(これは生徒のレディネスに即したと言える気がするのだが・・・)
    • 要するに、自分が思っていた面白い歴史=様々な側面から歴史を捉え直すこと=主題学習はただ教師がテーマを解説するだけの授業だったのだ。
    • 予備校の授業を面白いと思ってもそれは主観であり、世界史を受験しない高校生はそんなもの求めてはいない →歴史嫌いを再生産する画一的な授業と一緒!!全然、根本的な問題を克服できてはいなかった・・・

高校世界史の学力観の転換と主題学習

  • 主題学習の捉えなおし
    • 実践による主題学習の挫折 →では主題学習とは一体どのように実践されてきたのか →学習指導要領と先行研究を全て洗い直す。
    • 主題学習は1960年版学習指導要領で平田嘉三により世界史の危機を解決するため導入 →世界史主題学習の目的は平成21年版まで一貫して歴史的思考力の育成だが、その歴史的思考力の質は時代とともに変化 =時代背景を受けて主題学習に求めるものが変化してきた。
    • 主題学習で育成する歴史的思考力の学力観は、主題選定基準の観点(つまり主題学習でどのような能力を培うかということ)を見れば分かる →平成11年版学習指導要領で大きな変化が!!
  • 平成11年版世界史Bと主題学習
    • 平成元年版世界史必修化 →世界史Aで文化圏学習の消滅、A・B両科目で現代世界の諸問題について主題的にとらえることが示唆される(このときは主題学習という位置づけではまだ無い)、B科目では主題学習の観点や留意点などに停滞の萌しが見える。
    • 平成11年版世界史Bでも文化圏学習消滅。内容構成原理として世界システム論の影響を受け覇権国の推移に着目する「地域世界」が内容構成原理になる。
    • 平成11年版主題学習:学習指導要領では充実させたことを強調していたが、実質は最初と最後に行なうだけになったので、不思議に思っていた。この違和感に対して、当初は主題学習を充実させたと述べているが、充実していないことの矛盾を指摘することに満足していた。主題学習の観点が消滅し、最初に行なうのが生徒の興味関心意欲を高めるだけであり、最後に行なうのが現代世界の課題追究学習のみであることが主題学習の衰退の原因かと思っていた。しかし、実はこの捉え方が短絡的で、平成11年版は「学力観」の転換を示していたのだ、と思うようになる。
  • 学力観の転換
    • 教師主体を乗り越えるため、平成11年版学習指導要領のもとで「生きる力」をスローガンに生徒主体を重視、意欲を喚起 →「生きる力」の重視=主題学習で生徒主体の意欲を喚起させるべく内容(1)「世界史への扉」を設置。
    • しかし未履修問題発生!!
      • 要因は以下のようなものがあるとされている。受験にしか地理歴史教育の価値を見出せない、生徒は自分のことにしか関心がないので現代世界で何が起こっているかなどについては無関心。
    • どうして、意欲を喚起させたはずの平成11年版世界史において未履修問題が発生してしまったの? →画一的な授業
    • 世界史教育の何が問題なのか?
      • 生徒の実態:自分のこと以外には無関心
      • 内容面:教師が世界史像は一つのものであると妄信している →画一的なプリント穴埋めに陥る
      • 方法面:教科書読んで、板書して、プリントの穴埋めをさせる画一的な授業しか想定できない ←教師がそのような教育を好んでいるから
  • 画一的な教師の授業を打破する必要がある
    • 学習指導要領とPISA調査
      • OECDコンピテンシー(個人の人生における根源的な学習への力)を唱え、3つのキーコンピテンシー(a.自律的に活動する力 b.道具を相互作用的に用いる力 c.異質な集団で交流する力)を提示する →平成20年版中教審答申で生きる力をキーコンピテンシーの先取りと位置づけ、PISAリテラシーを重視 →平成21年版学習指導要領で主題学習がPISA型能力を育成することこそが歴史的思考力になる(最初に興味関心意欲を高め、最後に現代世界の課題追究することは同様) →平成21年版世界史Bの主題学習の主題選定の観点はキーコンピテンシーの能力と対応している →学習指導要領の学力観の転換を教師が活かす必要性
    • 指導方法
      • 教科書読んで、板書して、プリントの穴埋めの授業からの脱却。
      • 鳥山孟郎氏による様々な世界史教育法の提唱
      • 生徒主体の授業形態の模索(全米教育スタンダード、わくわく世界史ポートフォリオ、協同学習、バズ学習、トゥルーミン・モデルなどなど)
    • 内容構成
      • 南塚信吾氏らによるグローバル・ヒストリーの提唱
      • 阪大史学が行なっている歴史学と世界史教育の連関
      • 教師が内容構成において多様な世界史像を描こうと努力したため膨大になり却って生徒は暗記地獄に陥るという逆説的悲劇も発生している

修論の構想

  • 序:問題意識・問題設定
  • 1:世界史教育の問題点と主題学習の可能性
    • 世界史教育の問題点は、生徒の無関心、一つの世界像の妄信、画一的な授業。主題学習はこのような問題に応えることが出来る。
  • 2:これまでどのように主題学習が行なわれてきたか(学習指導要領の変遷と先行研究)
    • 世界史主題学習の目的は一貫して歴史的思考力の育成だが、その質そのものが変化してきた。
  • 3:平成21年版世界史主題学習とPISAのキーコンピテンシーと平成20年版中教審答申の生きる力
    • 平成21年版世界史主題学習はどのような質のものか。PISAと生きる力の影響を強く受ける。
  • 4:平成21年版世界史主題学習において指導方法と内容構成をいかに構成するか
    • 指導方法は生徒主体、内容構成は身近な日常生活の「モノ」の歴史で構成する
  • 5:身近な日常生活のモノから世界史教育を行なう意味があるのか
    • 「モノ」が歴史教育に及ぼす効果について述べる
  • 6:教材研究(授業で扱う具体的な「モノ」そのものの歴史的背景や教育的意義など)
    • 「モノ」そのものの教材研究を行なう
  • 7:「モノ」を使った世界史主題学習の実践
    • 「モノ」から授業を作る。実践もしたいと強く思う(でもどこで?5〜6時間もくれる高校なんて無いよね)。
  • 終:世界史主題学習は世界史教育の問題を乗り越える礎となるか