はじめに
- 本稿の目的
- 「戦後歴史学」において「世界史」がどのように扱われてきたかを跡付ける
- 現時点において「世界史」の把握の仕方を歴史家としてどのように考えるべきかを述べる
1 「世界史の基本法則」と「世界史像」論
- 趣旨
「世界史の基本法則」論
- 「世界史の基本法則」論
- 大塚史学の魅力
- 人間を問題とする歴史学の一部としての性格を最終的には持ち、それ故に政治史や思想史にも開かれた体系をなしていたこと。
- 近代的人間類型の提唱はそうした方法の具体化 →問題はその近代的人間類型という理念型の作り方
- 国内市場を基礎とし小生産者によって担われた近代的=合理的経営の形成こそが近代化の本来の道と主張 →結果、ヨーロッパの人間が近代世界史において果たした帝国主義的支配の側面についての歴史研究の深化を阻害。イギリス人が国内市場を踏まえて海外に進出し、強大な軍事力と経済力をもって植民地支配を広げつつ近代世界市場を作り出した歴史を、人間類型の深みから把握することを困難に。
- 上記の研究は、「西欧」基準に立って各国社会経済の内部構造を比較するかたちで世界史の基本法則の諸民族における特殊形態を明らかにした
- 江口朴郎の批判と欠点
「世界史像」の構築
- 上原専禄編『日本国民の世界史』(岩波書店、1960年)の提唱
- 昭和史論争
- ライシャワー駐日大使の提唱する世界像への対決
世界史に関する「基本法則」的把握と「世界史像」的把握の総合
2 「現代歴史学」と世界システム論
前近代
- 1970年代以降の前近代の世界史のとらえかた
- 「構造的複合体」として把握する試みはほとんど現れず。遠山仮説において近代に入ってからはじめて設定できるとした地域史的アプローチを前近代にまで遡らせる試みが行われるようになった
- 前提となる理論的仮説はきわめて多様化、地域全体が歴史家の課題意識におうじて設定される「可変的で多様な性格」を持つ
3 発展段階の現代的再生に向けて ―仮説的問題提起―
- 本節の目的
- 基礎概念
- 「生産諸条件の所有者と直接的生産者との直接的関係」=それぞれの社会の民衆を代表するものとしての「直接生産者の社会的存在形態」
- 諸段階の移行を推し進めるものは「生産力=破壊力」の発展
直接生産者 | 生産手段 | 基本的経営 | 階級関係 | 権力形態 | |
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① | 共同体員 | 共同所有 | 血縁共同体 | 貢納制 | 古代専制国家 |
② | 奴隷 | 無所有 | 大小経営 | 奴隷制 | 古典古代国家 |
③ | 農奴 | 自己保有 | 小経営 | 農奴制 | 家産制(→封建制) |
④ | 賃労働者 | 無所有 | 大小経営 | 資本制 | 国民国家 |
⑤ | 世界市民 | 社会的所有 | 非大経営 | 社会制 | 世界政府 |
① 貢納制・古代専制国家
② 奴隷制・古典古代国家
- 古典代国家の出現
- 1.血縁共同体を基礎にした古代専制国家は、共同体メンバーへの鉄製農具の普及などの生産力の発展により共同体が解体することにより崩壊
- 2.血縁共同体の解体とともに、紀元前5世紀前後からインド・中国・ギリシャ・ユダヤに一斉に出現した世界宗教と古代哲学が、血縁共同体から自立した人々に血縁以外の普遍的原理での結合を説き、あらたな段階形成の条件となる
- 3.ギリシャ・ローマの古典古代国家が出現、中国の秦漢帝国も古典古代国家との指摘が近年の動向、インドにおけるマウリヤ朝アショーカ王政権も同様であるとの著者の私見
- cf.日本の7世紀の唐帝国模倣律令国家は古典古代国家ではなく一時代以前の古代専制国家=ヤマト国家の再編という側面が強い。その後も日本では明確なかたちでの古典古代国家は出現せず
- 奴隷制社会とは内部分解の結果、奴隷制大経営と隷属的小経営を生み出す社会として基本的にはとらえるべき
③ 農奴制・家産制(→封建制)
- 自立的小経営が社会全体に広がるのはどのような条件に支えられているか
- 血縁共同体が鉄製農具の普及などによって解体しても、小経営が直ちに一般化したとは到底いえない。「農業革命」と称される10世紀前後の新たな技術革新を通じてはじめて自立的小経営の一般的成立がなされる。
- 小経営を支配する政治体制は中央集権的な家産官僚国家のかたちをとることもあれば、文献的な封建的主従制のかたちをとりこともあり一様ではない
④ 資本制・国民国家
いずれの地域でも市場経済化の進展により、小経営の商品生産者化が進む
- 封建的危機と宗教改革
- 世界の一体化をいつにするか
- 16世紀以降のヨーロッパ世界の膨張開始をもって近代世界史が始まったとする通説には疑問
- 17世紀日本、18世紀中国広東公行貿易などアジアでは膨張を拒否する動き
- 19世紀半ばに欧米諸国が開国を迫ったときはじめて、中国や日本は欧米近代世界の膨張を拒否することが出来なくなった。故に近代世界史は先進諸国が産業革命を行なった19世紀においてはじまった。