羽田正『新しい世界史へ』岩波新書 2011年

  • この書物の趣旨
    • 現在の高校世界史及び歴史学会は依然としてヨーロッパ中心史観であり、この現状に対し「地球市民」としての帰属意識を養成するための「新しい世界史」が必要だと説いている。
メモ

「世界史」とは何か。一般人は高校で習った世界史をイメージするだろう。そのため、この書物は戦後における高等学校の学習指導要領が規定する「世界史」像の変遷を述べていく。そしてそれがヨーロッパ中心主義であると断定する。次に、現在の歴史学世界システム論もアナール学派もグローバルヒストリーも西欧中心主義を拭い去れないと批判する。また、西欧中心史観に対するイスラーム中心史観、華夷史観、モンゴル中心史観など、各地域を中心と周辺に分けて記述する方法も批判する。このような状況に対し、著者は国民国家の枠を越え、「地球市民」としての帰属意識を創出するための装置として、地球全体での世界史を創造しなければならないと説明する。この地球全体としての世界史というものに対し、著者は3つのアプローチを提唱する。すなわち(1)世界の見取り図を描く(2)時系列史にこだわらない(3)横につなぐ歴史を意識する、の3つである。具体的には、100年ごとの世紀横断的見取り図を描き、現代と比較することによって、歴史を考察し、各地域ごとの相互連関を重視する、というものである。歴史を国民意識形成の装置としたり、主権国民国家を相対化しようとしているという論調。


この本を読んで感じたのは、著者が主張するのと同じような試みを、学習指導要領が規定する高等学校の世界史も、西欧中心史観から脱するために行っている、ということだ。具体的には主題学習と世界史Aである。私が書いた修論の方法論も、著者と同じような問題意識を抱くものだった。学習指導要領の変遷を辿り、内容構成論の変化から世界史観の変容を読み取る。すると、日本の世界史の歴史観は、先進西洋・戦後歴史学→文化圏→諸地域世界と世界の一体化というように変化している。ここでは、各地域が通史的に縦断的に叙述され、各国史の寄せ集めになりうる危険性がある。この状況に著者は地球市民アイデンティティを唱えて対応しているが、学習指導要領は主題学習と世界史Aで対応している。筆者の言う、世紀横断的な現代との比較による内容構成を平成元年版からの「世界史A」は前近代において採用しているし、各地域の相互連関の重視も、主題学習の空間軸による考察で取り入れられている。世界史Bの内容構成論だけに着目すると、西欧中心史観であろうが、著者は主題学習と世界史Aの存在を無視している。