雑録

さくら、咲きました。2周目「湊美羽ルート」の感想・レビュー

『さくら、咲きました。』の湊美羽シナリオは「死への憧憬」。
両親に捨てられたと思い込み厭世主義を気取る少女をオープンハート。
セカイ系を求める少女に対して現実を突きつけろ!!独我論は成り立ちません。
主人公くんの活躍で「生命の尊さ」を感じとり、二人で前向きに死んでいきます。

湊美羽のキャラクター表現とフラグ生成過程

湊美羽はロリ担当の毒舌インテリゲンツィア。頭が切れて、世を投げ捨て、人を食ったような小難しい理屈をこね回す。けれども人一倍寂しがりやさん、というなんとも惹かれる人物描写となっています。湊美羽シナリオでテーマとなっているのは「死への憧憬」と「生の肯定」です。簡単にいうと「死にたいとか言ってる少女に生きたいと考え方を変えさせる」というわけですが、これもまた一筋縄ではいかないものです。その過程で描かれる葛藤や、少女を救うための主人公くんの活躍がみどころではないでしょうか。ではそんな厭世主義者の美羽さんとどうやってフラグが生成したのかを見ていきましょう。まずは主人公くんの美羽ちんに対する依存から始まります。地球滅亡のお知らせを受けて混乱する主人公くん一同ですが、美羽ちんは割と平静を保っており、あれこれと理屈をつけて心境を分析してくれます。主人公くんはそんな美羽ちんといると楽になるため、一緒にいるようになります。それは恐怖からの逃げ場に美羽ちんを利用することになっていたのです。作中でも主人公くんは「なんのことはなくてさ、俺はただ寄りかかっていただけなんだ。だから美羽が好きって気持ちも、支えを失いたくないっていう俺の心が見せているだけの幻想かもしれない。寄りかかっていたいからなんて理由で好きだとかいっても失礼なだけだ」と述懐しています。美羽が好きなのかどうなのか分からないまま良い感じな仲になっていくわけですが、ここで部長とつばめさんに発破をかけられ一念発起し、美羽ちんへの思いを自覚するに至ります。

一方で美羽ちんの方はどのような心情描写がなされるでしょうか。基本的に美羽ちんのスタンスは世を拗ねる中2全開で「45億年後には太陽が膨張して地球滅びんのに生きててなんか意味あんの?」とかいいます。中島敦の『狼疾記』のノリですね。以下美羽ちんの言い分をお聞きください。

  • 「未来に子孫や文化、記録を残したとしても・・・いずれ人の生きた証はその軌跡もろとも全てなくなるんです。そうだとしたら、この世界で生きている意味って一体なんでしょうね。」
  • 「まっすぎに生きようとすると苦しくてたまらないんです。必ず壁にぶつかって痛い思いをするんです。乗り越えようとしても無理なんです。もう痛いのも、高い壁に絶望するのも嫌なんです。」
  • 「何年待ったと思ってるんですか。あたしはもう立ち上がる気力もありません。いいじゃないですか世の中何をやってもダメってこともあるんですよ。諦めるしかないことだってあるんです。でも分かっているのに、諦めきれなくて・・・。ごまかすしかなくなって。それでもここまでなんとか頑張ってきたんです。だからもういいじゃないですか」
  • 「恐怖に立ちすくんで動けなくなっている人に、怖がるから動けなくなるんだと説教して、一体何の意味があるんですか。分かっているんですよ。頭では理解できているんです・・・」

美羽ちんは自分が親に捨てられ、価値のない人間だと思い込んでいるわけで、それが美羽ちんの強さであり弱さでもあったのでした。弱った女の子を肯定してあげればもうフラグ成立。おなじみパターン「Pity is akin to love.」が発生します。自分を受け入れてもらえた孤高の少女は主人公くんに駄々甘えになっていくのでした。ですがこのことが主人公くんに一抹の不安を与えます。二人だけの世界に固執し、自分たちの閉ざされたコミュニティが世界の全てになっていいのでしょうか?これが安っぽいラノベだと世界の終末に対し二人でいればそれでいいとなるわけですが、親との葛藤は乗り越えなければなるまいて。ヒロインの欲求に唯々諾々と従うのではなく、拒否することでもそれがヒロインのためになるならば、嫌がる現実と向き合わさせねばならないと考えるわけですね。主人公くんの活躍により、親に捨てられたと思い込んでいた美羽ちんは煩悶を乗り越える強さを示します。ですがそんな美羽ちんに衝撃のネタ晴らしが。既に両親は死んでいて、叔父が両親のフリをしていましたとさ。ちゃんちゃん。両親との不和から自分がいらん子だと勘違いしていただけだった美羽ちんはそれはもう青天の霹靂。なんともはやですが、セカイ系で終わっていたらこの事実にも向き合えなかったわけで、これは一つの強さを示したといっても良いかもしれませんね。そんなわけで「死への憧憬」を吹っ切った美羽ちんは、隕石の衝突に対し「生への肯定」を実感しながら、バッドを持って主人公くんと前向きに死んでいきます。ハッピーエンドですね。