さくら、咲きました。3周目「春野つばめルート」の感想・レビュー

『さくら、咲きました。』の春野つばめシナリオは「生きる意味」と「命の価値」がテーマ。
明るく元気な幼なじみの裏側には、引っ込み思案で泣き虫な本性がありました。
終末思想に怯えながらも、人はいずれ死ぬからこそ、今を全力で生きるんだ!!
実存主義者のハイデッガーの思想が彷彿とされたのではないでしょうか。

春野つばめのキャラクター表現とフラグ生成過程

春野つばめは元気系幼なじみ。ムードメーカーで明るく盛り立て笑顔を振りまくよ。しかし、それはつばめが懸命に行っているキャラ作りによるたまものであったのです。幼少期のつばめは引っ込み思案で泣き虫で人見知りで、主人公くんに泣きついてはおどおどしていました。ですがある時つばめは変化を志すのです。ある日、駄々をこねたつばめは怪我をして帰れなくなってしまいます。そんなつばめを、主人公くんは自分の怪我もかえりみずおんぶで助けてくれたのです。嗚呼、主人公くんに惹かれたつばめは明るく元気に振る舞うようなキャラ設定を目指したのでした。そうして腐れ縁的友好関係を積み重ねていましたが、地球滅亡のお知らせによって、化けの皮がはがれてしまいます。不安と恐怖に苛まされるようになったつばめは対人交渉を拒絶し引き籠もるようになっていったのです。そんなつばめを救ったのが生活部の花火大作戦でした。生活部の一同は天の岩戸よろしく花火大会を決行。興味を示して出てきたつばめに主人公くんがカウンセリングタイム。花火は生きることだ。花火というものは一瞬で咲き、一瞬で散り、そしてその輝きと華やかさで見る者に感銘を与えるのだと。こうしてつばめは復活を果たします。

みんなに支えられたつばめでしたが、やっぱり肝心な所では引っ込み思案。幼なじみといったら「関係性変化」を扱うのは避けては通れない表現技法ですが、フラグを成立させようとすると逃げてしまうのでした。つばめは一筋縄ではいかない。ここでつばめママンから訓辞を戴くことになりました。それはかつての過去の物語。ママンは田舎暮らしが嫌で進学を契機に東京へ出たものの都会は厳しく男に遊ばれ孕ませられて捨てられたのでした。そのときに孕んだのがつばめだったのだということです。女としてのつばめを抱く覚悟はあるか!?覚悟を迫られた主人公くんは男を見せて、ようやっと結ばれるに至ります。そんな幸せな二人でしたが、生活部のみんなが次々と地元を去っていくことに寂しさを禁じ得なくなってきてしまいます。必ず終わりや別れがあるのに、どうして人は生きなければならないのかと苦しむことになるのです。ここで実存主義タイム。「人間は没個性的な大衆として生きているが、自分として個体として死んでゆく他はない。自己の死から目を背けない時、置き換えようのない実存として自覚される。そのとき自分の過去のあり方と未来の姿をかけがえのないものとして受けとめ時間的存在である自己を自覚する」。そんなわけで、「今を全力で生きること、悔いを残さないこと、それが生活って意味」と実存を回復し、二人で死に臨むのでした。