大図書館の羊飼い「小太刀凪ルート」の感想・レビュー

大図書館の羊飼いの小太刀凪シナリオは「指導者の条件」。
選民思想で自己の尊厳を保つ少女に「誰かと生きる世界は捨てたもんじゃない」と思わせましょう。
キャラゲーと思いきや「教育問題」や「平等と人間上位」などテーマ性もありました。
そして8月といえばファンタジー展開きましたよ。
人間の未来の可能性と図書館の本という設定は『いろとりどりのセカイ』を彷彿とさせます。

小太刀凪ルート概要


選民思想と自己の尊厳

大図書館のグランドエンドではファンタジー設定に突入します。作中のセカイには、人の未来の可能性が全て書かれた本を収蔵する図書館が存在するとのこと。「羊飼い」という選ばれた存在は、この図書館を利用し、人々の未来がより良いモノになるようにサポートしているそうです。グランドエンドのヒロインとなる小太刀凪さんは、この「羊飼い」志望の女の子でした。しかし彼女は「人類の奉仕者」の理念から、この役職に就きたいのではなかったのです。彼女は幼少期に虐待を受けたトラウマをもっていたので「羊飼い」という選ばれた存在になることで、「自己の尊厳」を保ちたかっただけなのでした。当然、「人類を導く」とか「人間を幸せにしてやろう」とかいう意志を持つ小太刀さんが「羊飼い」になれるわけがありません。主人公の筧さんは、早くからそれを見抜き、なんとか解放しようと働きかけます。そうするうちに、小太刀さんの人間性に触れて、フラグが成立していくのでした。


教育問題…メリトクラシーの逆説

このグランドエンドの原動力となるのが「生徒会選挙」です。能力主義を掲げ弱者切り捨ての姿勢を見せる会長候補に対し、万人救済主義の白崎さんが反旗を翻します。会長候補はエリート主義者で選民思想を持つ人材として描かれており、この人物について考察することで、同じような性質を持つ小太刀さんに色々と考えさせるという対比法でシナリオが進んでいきます。そして具体例として「教育問題」が色々と語られるのですが、個人的に面白く読めましたよ。まず新自由主義とか新保守主義とかネオコンの思想。会長候補は、日本の停滞状況の原因を若者の自信とやる気の喪失に求め、世界的にハイレベルの人材を排出させることで、若者を奮起させようと狙います。そのために、効率的に生徒の能力を高める場所に学校を改変し、弱者切り捨てを行いたいのだとか。これに対し、生徒の意志に反する理想論など押しつけに過ぎないと図書部が反論していきます。ここではメリトクラシー(能力主義)の逆説が謳われているのですね。要するに、極端な能力主義に陥ると幼少期から資本と時間をかけられる富裕層の子弟のみが社会的上層部に巣くうようになり、結果として社会が固定化し停滞するという考え方です。



指導者の条件

「生徒会選挙」において、「平等と人間上位」の思想を体現する白崎さんと、「選民思想」を体現する会長候補が戦っていくことになります。ここで示されるのが「指導者の条件」です。かつての帝政ロシアナロードニキ運動が失敗し、ニヒリズムテロリズムに走った青年の心境がよく分かると思います。曰く「人はそもそも思い通りには動かないものだよ。期待すれば裏切られ、裏切られれば苛立ち、しまいには動かしたくなる。だから、高い理想がある羊飼いほど暴走する傾向が強いんだ。歴史上の大きな悲劇も、そうやって引き起こされたものが少なくない。大切なのは、願わず、見捨てず、ただ寄り添う」と。この生徒会VS図書部の思想は、そのまま小太刀さんVS筧さんの思想となるのが面白いですね。主人公の筧さんは、図書部と過ごすことで「幼少期からくる人間不信のトラウマを知識の蓄積により解消するという防衛反応」から解放されます。今度は、筧さんが小太刀さんを救う番です。同様の人間不信を「選民思想」で解消しようとする小太刀さんに立ち向かいます。「生徒会選挙」を通して得ることのできた「誰かと生きる世界は、そう捨てたもんじゃない」という考えを小太刀さんにぶつけるのです。こうして、一緒にこの醜くくも美しい世界で一緒に生きようとハッピーエンドを迎えます。