木洩れ陽のノスタルジーカの感想・レビュー

近未来SFの映画ゲー。シナリオの要所で実際の映画が解説されます。
「しねま」という人工知能ロボットが20世紀までの映画で主人公くんたちにアドバイス
映画を通じて様々な人生や心情に触れてココロを豊かにした登場人物達が心理的葛藤を解決させます。
英国王のスピーチ」「炎のランナー」「世界最速のインディアン」「マイフェアレディ」など。
実際に紹介された映画を見たくなるゲームです。

フロゥシナリオ…自律思考型人工ヒューマノイドが恋愛をするはなし

  • 自律思考型ロボットとの恋愛について
    • この作品にはメトセラという自我を萌芽させたロボット登場します。彼女らは自我を持ったため、人間に従属することを嫌って闘争を起こし、人権を認められたという設定です。ヒロインのフロゥは人間の思考を客観して分析するので、一部の人間からは忌避されていました。主人公くんは幼少の頃より、機械に慣れ親しんだ家庭環境に育ったため、ロボットでも差別はしません。むしろ人間に受け入れてもらえるよう努力する姿に惹かれていくようになっていきました。ある時、フロゥはロボットであるという理由から汚い言葉を吐きつけられてしまいます。普段だったら主人公くんは相手にせず適当に流すのが常でしたが、なぜか(フロゥに対して好感度があがっていたため)耐えきれなくなってしまいます。そして、自己を正当化し人格批判をするのはよろしくないと相手を斬り伏せたのでした。こうしてフラグが成立しました。
    • 主人公くんと恋仲になったフロゥは「こいびとどうしですることぜんぶ」をやってみたいと息巻きます。ロボットである自分には恋愛感情を理解しにくいので、恋人が行う行動をするとどのような効果が発生するのかを確かめようというわけですね。この人間の行動を客観視して分析するという描写は、多用されて辟易することもありますが結構面白いです。こうして二人三脚で発情期を迎えた若者のカップルが乳繰り合う意味を探しながら深い関係に入っていきます。
  • ロボット自身によるロボット破壊論者の登場
    • 主人公くんはフロゥと平安な時間を過ごしていましたが、あるとき事件が発生。「ロボットは人間社会において自律した自我を持つべきかどうか」という命題が投げかけられます。なんと自律思考型ロボット自身そのものが「人間社会に対して人権を認めてもらおうとしたことは思い上がりだった」という結論に達し、同族殺しを始めたのでした。これに対し、自律した自我を発生させれば従属し続けることは出来ないと未来のために攻防戦を繰り広げます。主人公くんとフロゥの関係性は、ヒューマノイドから能動的に人類を好きになったという新しい関係性の一つを示しています。二人の関係を大切にしていけば、人類とロボットの関係について新しいカタチを残せるかもしれないとハッピーエンドで終わります。

沢渡一姫シナリオ…人間の愚かさを思い知ったロボット破壊論者との戦い

  • 行為の結果の可能性を論じて心配するのは無駄だ
    • 沢渡一姫はインテリ系クールビューティーツンデレ。読書量が豊富で口が達者だが頭でっかちでした。自分の性的な魅力に対する自信は悲観的で、主人公くんに対して、好意を表現できないでいました。ところが、ある時一篇の詩を読んだことから人生観が転換します。「ひとつの行為が引き起こす可能性 その結果には際限がなく 破綻のない推論は存在しない ならば銀河に眠る星の数を数えることをやめなければ 恒河の砂と較べるのは 愚かなことだ」というもの。つまりは、自分が起こす行動の結果の可能性を論じても仕方がないので、まぁやってみろとのこと。こうして一姫は主人公くんに性的アピールをし、肉体関係を結んでフラグを成立させたのでした。
  • 人類は愚かである
    • そんな一姫との日々でしたが、ある時「人類は愚かであるのでロボットと共存したら、ロボットに人間社会は乗っ取られる」と危惧する人物がクーデターを起こしてきます。利便性を追求して文明を享受するあまり、閉鎖的な環境に甘んじ進歩をやめた人間に絶望しきったのです。文明が退化したとしても、人類自身で生き抜くべきだとロボットを破壊しようと息巻きます。主人公くんたち幼なじみ一同はこれに対抗。サイバー的な攻防戦が展開され、テロリストとのバトル展開に発展。まぁ性善説なので見事勝利し、絶望の裏側に希望があり、人類とロボットとの調和を説いてハッピーエンド。

島津朗シナリオ…義妹関係性変化。ハッキングに挑戦する痛快アクション

  • 義妹関係性変化in近未来SF
    • 妹モノは社会のモラルに対する葛藤をどのように登場人物たちに乗り越えさせるかが見物となっていますが、この作品はどうでしょうか。ここでは自律思考型ロボットが義妹関係性変化を客観的に分析してくれる描写が一番の見せ場だと思います。「つまり主人公くんは妹の兄としての自分には、それなりに自信がある。しかし、妹の恋人としての自分には未知数であり、懐疑的。そして、恋人としての自分が妹を傷つけてしまう可能性が、家族としての関係性にまで悪影響を及ぼすことが恐ろしい」と。ここで主人公くんは関係の変化によって発生しうるリスクに対して、びびってしまうのですね。ですが、本当に自分は妹のことが好きなんだよと気づき、フラグが成立します。
  • ハッキング大作戦
    • 妹は、天才プログラマー。なんとかして自分たちの力で野良アンドロイドの出自を調べたい!!ということで、情報源の大企業にハッキングをしかけます。主人公くんはバイクに電波発生装置を乗っけて、ハッキングの攪乱に協力します。幼なじみたちの活躍もあり、見事データを発見するのですが、最後の最後でへまをかまして逮捕されてしまいました。ですが、それはママンの手の平で踊っているに過ぎなかったのです。野良アンドロイドの情報を保有する企業はママンの職場であり、ママンは娘のハッキングを入社試験にすげかけてしまったのです。つまりは、「娘を採用させたいんだけどー。何?娘の実務能力だと?その実力が分からなければコネ入社など許さない?よろしい、ならば自社の情報防衛システムにハッキングさせるから、防いでみろよ」的な展開です。見事、そのハッキング能力は認められ、企業にも就職し、ハッピーエンドとなりました。

カヤ=フリューリングシナリオ…海に潜ってダイビングするはなし

  • 親友系幼なじみの場合
    • カヤシナリオは親友系幼なじみのフラグ成立過程を描きます。古来より、「親友系幼なじみは共通では活躍するが個別に入るとグダグダになる法則」がというものが存在しますが、そもそもカヤ自体がそんなに存在感があるほうでもないのでグダグダ感はそんなには感じさせません。カヤ√では文化祭の折、主人公くんが第三者からの告白を受けることにより、芋づる式にカヤが恋心を暴露させることから個別に入ります。カヤシナリオだけ例外で、個別的な問題の解決→フラグ構築→社会的な問題への挑戦というパターンを辿りません。カヤの場合は、自分の葛藤を映画を参照することで解決しようとしますが、なんと映画のデータベースを所有するロボットが動かなくなってしまったのでした。この問題を解決することで、主人公くんとのフラグが構築されてエンドを迎えます。上映ロボットを動かすためには、映画データの完全版を入手するということで、海に沈んだ街にダイビング。事故や緊急事態を主人公くんと二人三脚で乗り越えて、ロボットを動かすことに成功。ついでに性交にも成功してハッピーエンド。

ラスト

  • 伏線回収編
    • 主人公たちの世界はロボットと人間の戦争により、電子データで記録を蓄積していた時代の歴史が喪失してしまいました。つまりは紙媒体の記録と戦争以後の記録は残っているのですが、紙媒体の記録から電子書籍に移行した後から戦争以前までの情報が断絶してしまっていたのです。そんな世界において、ロボット「しねま」は歴史を回復する手段だったのです。ですが歴史を復元するか否かで悩みます。現在の世界は戦争後に統合政府ができ単一国家となった平和な世界だったからです。そんな所に旧時代の民族だの宗教だの人種だの領土だの人間の醜い諍いを持ちこんでいいものなのでしょうかと。ここで歴史の重要性が説かれます。「たくさんの人間が、たくさんの気持ちを、たくさんの言葉に込めて、それをずっと積み重ねて、この世界はゆっくりと積み重ねられてきたんだよ」、「人が古いものを愛するのは、それが自分の生きてきた証だから」と。そんなわけで、現在の文明は過去の集積のうえになりたっているんだよと歴史を受け入れる決意を示します。こうして、人類社会は歴史を取り戻すと同時に、ろぼっと「しねま」は自律した自我を獲得したのでした。