12の月のイヴ 1周目「みずか√」の感想・レビュー

『12の月のイヴ』は父親と和解するために過去跳躍する不治の病の少女「由紀」のはなし。
1回目の過去跳躍は父親である主人公くんとみずかをくっつけるための運動が展開される。
みずか√は記憶喪失を題材にして「存在の消滅」をテーマにしている。
由紀のアシストは成功したが現在の時間軸に戻ってなんら変革はもたらされなかった。
さぁ、もう1回過去跳躍だ!! そのまえにみずか√を紹介しておきます。

生命体の死ではなく、記憶の死、存在の死

過去跳躍系不治の病少女である由紀は、自分の母親は「みずか」であると推察し、主人公くんとみずかをくっつけるために事象に干渉する。みずか√では記憶喪失が描かれる。話の筋書きはこうだ。幼なじみ姉妹との3P√というわけにもいかず三角関係を突きつけられた主人公くんは姉のみずかを選ぶ。だがみずかは三角関係をめぐるいざこざから階段から落ちてグシャッとなる。体験版はここまでとなるのだが、みずかは普通に生きていた。だが記憶喪失になっていたのだ。以前の記憶がないことに不安を抱くみずかに対して、主人公くんは以前のみずかとは別に新たなみずかを受け入れる決意をして新たに関係を構築する。だが、このシナリオで目新しいところは、自我を分割させたところ。つまりは「過去の記憶を蘇らせた以前の状態のみずかA」と「新たな記憶を保持するようになったみずかB」が併存してしまったという設定である。お互いの間には記憶の共有はなされない。そのため、自分は自分であるけれども自分ではない自分の存在に戸惑うことになるのだ。

この自我分割をめぐる苦悩に主人公くんは悩まされ続けることになる。物語の展開としては以前の自我である「みずかA」が緩やかに消滅に向かい「みずかB」にとって代わられていく。人間の存在が記憶の連続であるとしたら、自我が喪失することは存在も消滅するということ。つまり、ここではかつてゼロ年代に流行ったヒロインを肉体的に死亡させることによる泣きゲー展開を、存在の死を扱うことで再現しているのである。さすがにヒロインの自我が消滅していくところはつい手に汗握ってシナリオを読んでしまったよ。こうして新たな人格Bは以前の人格Aが残していった存在の残滓と向き合いながら主人公くんとともに歩んでいくのであった!!とハッピーエンドを迎えます。最後に人格が融合しているような描写も少し伏線として残されていた。