トリノライン「宮風夕梨」シナリオの感想・レビュー

ホスピスがアンドロイド化による延命措置を受け入れるはなし。
話の内容としては、ホスピスが作らせた自分のコピー体「VR彼女」に主人公くんが嵌ってしまう問題が描かれる。
VR彼女」は主人公くんの都合のいいことしか言わないため主人公くんの理想の投影に過ぎなかったのです。
そして「人間というのは非常に面倒くさいんだよ」ということをスゲー面倒くさいヒロインにより表現します。
最後は火の鳥生命編の「死にたくないと生命に執着し機械化した人間の末路」への問い掛けかもしれない。

宮風夕梨のキャラクター表現と死生観をめぐる諸問題

  • ホスピスVR彼女
    • 宮風夕梨はホスピスであり余命幾ばくもありませんでした。そんな夕梨は主人公くんが記憶喪失になると自分が彼女であったと嘘をつきます。その後、誤解を解きフラグを成立させるのですが、夕梨は自分の死後に何かを残したいと願って、自分の記憶をコピーし人格ベースにもとづきVR彼女を作ってもらったのです。ところがどっこい、主人公くんはこのVR彼女に嵌っていくことになります。(『チョビッツ』と雰囲気が似ているかもしれません)。夕梨は面倒くさい系の人間であり嫉妬深く陰湿でヒステリックにイライラします。そのたびにウジウジ系主人公くんはVR彼女に救いを求めることになります。これにより、二人の仲はさらにすれ違い、読者はメンドクセーと思いながらシナリオを読まされることになります。しかしここで読者に夕梨メンドクセと思わせるのがライターの狙いだったのです。主人公くんはVR彼女が自分に都合のいいことしか言わない自己の理想像の投影に過ぎないことを悟ります。これにより「人間というものは面倒くさいんだよ」という本質を読者に提供するのです。夕梨をメンドクセと思わせれば思わせるほど、人間という存在の非常に面倒くさい部分が描けるというわけなのです。合理的な思考を持つ近代的な社会人に不快感を感じさせることでシナリオのテーマ性を植え付けている気がします。

  • 科学技術による延命措置の肯定
    • で、ホスピス問題は科学技術による延命措置を選択します。これは『火の鳥生命編』と『ナルキッソス』と『四季くる』(はるくる・なつくる・あきくる)の読者からすると、悲観的な未来。火の鳥生命編では死にたくないと生命に執着した結果、機械化された体に脳だけ残り、スープを与えるとランプが光るだけの装置と化した老婆が出てきますよね。さらに『ナルキッソス』では尊厳死を選んで自殺します。『なつくもゆるる』では人間の「身体」が着目されて、意識体と化した人間に対して「身体」にこそ魂が宿ることが強調されていました。つまりは人間の科学技術がいくら発展したとしても、身体と感情は切り離せないものであり、生命に執着せずに自己の寿命を受け入れる在り方が説かれているのです。これに対し、トリノライン夕梨√では科学技術による延命を選び取るのです。個人的な事情なのですが、痴呆症になり意識が混濁しチューブに繋がれながら生きているのに「死なせたくない」という親族のエゴだけで生かされている人を結構見てきているので、科学技術による延命はちょっとねーと思ってしまったのでしたとさ。