Clover Day's 「鷹倉杏璃」シナリオの感想・レビュー

Clover Day'sの杏璃シナリオは「義妹関係性変化」のテンプレもの。
テンプレ通りシナリオパターンは以下のように分けることができる。
(1)好感度MAX状態なのに現状の関係性を壊したくないと躊躇するフラグ構築編。
(2)偏見のある兄妹愛を世間に認めて貰うための社会承認編。
テンプレシナリオだが杏璃のキャラ性能が良いのでキャラゲとしては良作。
あと「父親」がシナリオに絡んでおり、そこがとても良かった。

鷹倉杏璃のキャラクター表現とフラグ生成過程


  • 義妹関係性変化〜大人であろうとすることについて〜
    • 鷹倉杏璃は「大人であろう」として世間に背伸びをする意識の高い妹ヒロイン。主人公くんのことが好き好き大好きなのですが、「大人であろう」としているため素直に甘えることができません。呼称も「お兄ちゃん」ではなく名前呼びをして意識付けを行っています。シナリオの前編はこのような杏璃とフラグを構築するところがテーマとなります。杏璃と主人公くんの間を結ぶ架け橋は「一緒にお勉強タイム」。かつて主人公くんが鷹倉家にイギリスから養子として引き取られたとき、杏璃と日本語を一緒にお勉強したことからずっと続いている二人だけの過去からの積み重ねです。高校に上がると同時に、家の仕事を手伝えるようにと杏璃と一緒に経営を学ぶようになった主人公くんにとって、杏璃との勉強タイムはますますと親密なものとなっていき、さらなる好感度上昇が起こるわけですね!!杏璃が主人公くんとの関係性変化を嫌がるのは、妹モノにありがちな、告白してうまくいかなくて「家族」の関係までもが崩れてしまうのではないかという危惧からくるものでした。そんな杏璃との関係が前進するのは、杏璃が暴漢に強姦されそうになり主人公くんが身を挺して救ったイベントを経てからです。杏璃をおんぶして家に帰るときに、心情吐露する杏璃の言葉はオープニングの台詞引用にも使われているように結構グッとくるテキストとなっています。



私は…守られるんじゃなく、守りたかったんです。そもそも最初は私が優人さんを守っていたじゃないですか。初めて顔を合わせたとき、優人さんは一人ぼっちで、笑顔だけどどこか寂しさを抱えていて。その姿が母さんを失った杏鈴によく似ていて…。だから、この子も……お兄ちゃんのことも、私が守ってあげなきゃって、そう思って。ですが、歳を重ねるにつれて優人さんは大きくなってお友達も増えました。私が面倒を見る必要はなくなり、むしろ面倒を見て貰うことが多くなって……。優人さんがお兄ちゃんとして優しくしてくれるのが、嬉しかった。でも同時に寂しかった。優人さんだけ大人になって。私だけ子どものままで、いくら背伸びをしても届かなくて。私を置いて、ひとりで先にいっちゃう気がして。……本当に寂しかったんです。この背中が、すごく遠かったんです。


  • 社会承認欲求
    • 義妹関係性変化を乗り越えた後に待っているのは、二人の関係性を社会に承認させる承認欲求タイム。ここで二人の関係が全てでそれで良いとするのはセカイ系のおはなし。ですが社会を否定しては歴史と文化の否定だぜ☆ということで、友情パワーが炸裂して大団円っていうのも使い古された手法ですなぁ。(1)杏璃が生徒会書記に立候補して支持を集める→(2)それを良く思わない対立候補者がネガティブキャンペーン。主人公くんと杏璃の関係を「近親相姦」として風評被害→(3)窮地に陥る二人とそれを救うフレンズ→(4)全校生徒の前で血の繋がりのないことを証明し理解を求める、という展開になっています(分かりやすいチャート方式)。


  • 父親の役割について
    • テンプレ義妹関係性変化モノながらこの作品の良いところはきちんと「父親の役割」が示されているところではないでしょうか?父親との対立と和解は『CLANNAD』で、父親と息子の歩み寄りは『星空のメモリア』などで扱われていますが、父親が自分の信念をもっていて、子どもにそれを押しつけるのではなく示すことで人生の道標となる姿が良いモノだなぁとしきりに思われました。パパが格好いい。このパパは仕事に誇りを持っていて、家庭を留守にしがちなため杏璃からは敬遠されているのですが、要所要所できちんと締めてくれますとも。「愛する女との関係を周囲に認めて貰うため、よりよく生きるために、必死になった」というエピソードが語られます。そしてそれを踏まえた上で、父親を敬遠していた杏璃が、父親の生き方を踏襲していく姿は心を打ちます。杏璃「物わかりが良いフリをして、気持ちを押し込めて生きるのが大人なら、私はそんな大人になりたくない。大切なものを守るためにあがいて、もがいて、悔いのない生き方をする!!そんな大人になりたいんです。それが私が私であるために、よりよく生きるために出した答えなんです」。こうして逃げるのではなく、社会的承認を得た主人公くんと杏璃は、将来も二人で協力して父親の会社で頑張ることになりましたよっと、ハッピーエンドを迎えます。