恋がさくころ桜どき 「月嶋夕莉」シナリオの感想・レビュー

夕莉シナリオはネガティブで後ろ向きな重い女を受け入れて肯定するはなし。
シナリオの展開は主に二つで「幼馴染みとの三角関係編」・「双子姉妹の攻防編」に分かれる。
特に双子姉妹編では花子を中心に物語が展開され、むしろメインヒロインは花子。
ましろ色シンフォニーで例えると「みう先輩」√のメインは「さなきち」だった感じ?
そして回収されない伏線!最終場面で一度別れた二人がよりを戻すの描写が一瞬すぎ。
空の段ボールがどのような効果をもたらしたかはグランド√で回収されるのか?

月嶋夕莉のキャラクター表現とフラグ生成過程


  • 幼馴染みとの三角関係編
    • 月嶋夕莉は恋愛否定派の生真面目系風紀委員長。その性格描写は作中でも表現されている通り「めんどくさい女」であり、あれこれと些細なことに苦悩し、気苦労が絶えません。しかしながら、それは裏を返せばそれだけ物事に対して一生懸命真摯に取り組んでいることの証でもあったのです。主人公くんは風紀委員の仕事を一緒にやっていくうちに、夕莉の人となりに惹かれていくことになります。曰く「一生懸命生きている人には魅力を感じるし、尊敬もする。俺にはそういう人が輝いて見える」とのこと。一方で夕莉は自分のことを受け入れてくれる主人公くんに安住の地を見出します。夕莉はかつてティーンズ向けファッション誌のモデルをやっていた時期があったのですが、それを黒歴史として否定していました。そこを主人公くんに「自分が歩いてきた道だ。たとえ後悔はしても否定はしないで欲しい。そうじゃないと一年前の自分がなくぞ」と肯定され、好感度が高まってきます。お互いに良い感じになっていく二人でしたが、夕莉が気にするのは自分の親友で主人公くんの幼馴染みであるヒロインの存在。夕莉は自分が押しのけてまで主人公くんをゲットすることに躊躇してしまうのですね。よくある友情か恋愛かの葛藤描写を乗り越え、主人公くんとフラグを成立させます。



  • 双子姉妹の関係性
    • 夕莉シナリオのメインとなるのが双子の姉「花子」の存在です。むしり夕莉シナリオは花子ゲーといっても過言ではありません。夕莉と花子は一卵性双生児であるため、常に比較され育ってきており、花子は夕莉に対して一種の羨望の念を抱いていました。そのため夕莉の彼氏となった主人公くんに対して花子はこれまで以上に突っかかってくるようになるのです。花子と夕莉の間には様々な溝や負い目などがあり、それを解消していくのが主人公くんの見せ所となっています。花子と夕莉は幼少の頃、両親へのサプライズクッキングをしていたのですが、その時花子が有利を庇って酷い火傷を負ってしまったのだとか。また高校入学時、品性のない男性連中から肉欲剥き出しの下卑た品定めを受けたことから男嫌いになっていったのだとか。そんな二人の過去をゆっくりと紐解きつつ、夕莉との関係性を深めていく主人公くん。そんな折り、夕莉との肉体関係を持つようになった頃、大きな変化がやってきます。



  • セカイ系の否定と交際関係の解消
    • この作品では「死神」が登場してくるのですが、唐突に「花子の寿命はもう幾ばくもなく、延命するには夕莉と主人公くんの交際を解消しなければならない」という条件が提示されてきます。さらに、花子は夕莉が主人公くんに溺れ自分との時間を過ごしてくれなくなったので、それをなじってしまいます。以上により二人は自分たちがお互いだけの世界に埋没しており周囲との関係性を疎かにしていたことに気づいたのです。お互い好き同志だけれども世界が二人だけになるのは良くないよね、ということで交際解消。結果的に花子は救われる形になります。交際を解消しようという夕莉に対して主人公くんの台詞はグッとくるものがあります。「夕莉が恋人も友達も家族もって欲張れない性格なことは知っている。俺は、そんな真面目で不器用な夕莉に恋をした。夕莉のまっすぐな生き方が大好きだった」と。こうしてカップルを解消した二人でしたが、落ち着いて余裕を持てるようになった二人の関係はむしろより深まっていきます。「家族や学生時代の仲間と過ごせる時間はそう多くない。だから今はその時間を大事にする」とより質の高い人間関係を構築するようになったのです。



  • 最終場面が急展開〜回収されない伏線〜
    • 夕莉シナリオの最終局面には復縁イベントが設置されており、元通りになりハッピーエンドを迎えます。個人的にはカップル解消後、「夕莉と交際できるなら何年でも待つよ」と主人公くんは男を見せるので、数年後の結婚エンドでも全然かまわなかったのですが・・・。なぜか終局部に突如発生する復縁イベント。いや復縁イベントを挿入しても良いのですが、ここの場面が非常に雑で、何のために今まで丁寧に関係性変化を描いてきたのが謎に包まれます。おそらくこの復縁イベントはグランドエンドのヒロインである炉利死神少女の根幹に深く関わるからなのでしょうが・・・。それでも「炉利死神少女がシナリオの冒頭で入っていた段ボールを回収して桜並木で開けたら風が吹き抜けていきなり心情変化」とか、プレイヤァはおいてけぼり感が否めないですよ?おそらく推察するに炉利死神が何か超常的な力を用いたのだと思われますが、その描写は描かれず・・・。さらに他にも「なぜ花子に死亡フラグがたったのか」、「どうして夕莉と主人公くんがカップルを解消すると花子が助かるのか」などに対しても説明がなされていないので、物語の根幹となる部分だけに非常に気になります。